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明暗

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 この国は一夫一婦である。だが貴族以上の場合、後継ぎなどの問題もあるので妾を持つのは黙認されている。それ故、ゲルダの父は母の他にエレノアを妾としていたし、第三王子の母もまた妾だった。もっとも第三王子の母は下級とは言え貴族で、平民のエレノアとは違うが。
 とは言え、クロムには人間の血筋などどうでも良いのでただ転移を使って一瞬で、そしてレニエと二人で森へと戻った。

「すごいな! 滅多にいないが、空間魔法のギフトの持ち主か……って、言われないのにこちらからギフトを口にするのは、マナー違反だな。すまない」
「いや」
「それにしても、素晴らしく豊かな森だな! 冬なのに、青々としていて……」

 豊かな森と、鳥や獣がいるのを見て目を輝かせてあれこれ尋ねた。そんな青年の声を聞きつけたのか、ゲルダが小屋から出てくる。

「クロム、お客様?」
「……妖精? って、うわっ!?」
「見るな、減る」
「クロム!? アイアンクローは駄目よ!?」

 確かに三食しっかり食べて、よく眠るようになったゲルダはすっかり健康になった。そんな彼女は、質素なワンピース姿でも可憐で――クロムはこれ以上、ゲルダを他の男の目に映してはいけないと思った。減ってしまうと思った。
 そしてその思いのまま、クロムはレニエの顔を鷲掴みにした。
 そんな突然のクロムの凶行に、当然だがゲルダは慌てた。そしてお詫びにと香草茶でもてなし、ふかふかのパンを渡してレニエを送り出したのだった。



 一方、その頃のサブル伯爵家では。
 エレノアとクリスティアの不調が、治ることはなかった。他の令嬢同様、化粧や髪型で誤魔化しているが、今まで苦労したことのなかったクリスティアの不満が爆発する。

「お母様! もう、こんなの嫌っ!? お姉様がいなくなってからよね!? 連れ戻しましょう!?」
「……どうせもう、死んでるわよ」
「しぶといから大丈夫!」
「お前達! 朗報だっ」

 言い合う(と言うか、クリスティアが一方的にわめいている)母娘の前に、父親が駆け込んできた。何でも第三王子から、ゲルダを追いやった森で狩りをしたいと申し出があったらしい。

「第三王子には、婚約者がいない! 小屋で殿下をもてなせば、クリスティアなら絶対に見初められる!」
「お父様! お姉様が生きていたら私、侍女として王宮に連れて行ってもいい!?」
「クリスティア!」
「ああ、もちろんだ。だからクリスティアは、殿下を」
「解ったわ!」
「エレノア、お前も来てくれ……ゲルダが死んでいたら、お茶などの裏方はお前がしてくれ」
「かしこまりました」

 夫であるジェロムの言葉に、頷きながらも――エレノアはゲルダの死を願い、きつく爪を噛むのだった。
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