かべいちまい

なかあたま

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「……とにかく、次は無いからな」
「えぇー。お前だって気持ち良さそうにしてるのに? あ、そうだ。隣人が気になるなら俺の家でやれば、いいじゃん」

 テレビから視線を外し、ニカリと笑った彼に手に持っていたゴミ袋を投げそうになる。

「お前なぁ! 隣人が引っ越してきた翌日に、この家に押しかけただろ。覚えてるか? あの日、「壁が薄くて聞こえるかもしれないから笹原の家でやろう」って俺は提案したんだ。けどお前は「美沙希にバレるかもしれないから、伊武が声を抑えればいいだけだろ」って言ったんだ。忘れたのか!?」
「えぇー……そんなこと、言ったかなぁ」
「言ったよ! ベッドに染みついた香水の匂いとか、コンドームの残骸とかそういうのでバレたら洒落にならんって言いながら俺を押し倒した日のこと、忘れたのかよ!」

 ムカムカした気持ちが収まることなく、俺はリュックを抱え、ゴミ袋の口を縛り持ち上げる。
 大股で玄関まで向かい、乱暴にスニーカーへ足を捩じ込んだ。
 「もう出るのか?」と背中に慌てた声が聞こえ、俺は振り返った。

「出る! そもそも、そんなにチンタラしてる時間じゃない。ごみ収集に間に合わないし、電車も乗り過ごす! 一限目に遅刻したら全部、お前のせいだからな!」

 「そんなカッカすんなよぉ」とパーカーを羽織りながらテレビの電源を消す笹原を無視し、俺はドアを開け廊下へ出た。
 ────ギィ。
 瞬間、隣室のドアが開く。

「あ、おはようございます」

 鍵を片手に爽やかな笑顔をした隣人────衛藤が俺に微笑んだ。
 体を硬直させ、下手な笑みを浮かべた俺は、ぎこちなく頭を下げる。
 数秒遅れて来た笹原が「おはようございます」と間の抜けた声で挨拶した。
 衛藤は俺と笹原を短く交互に見ると、再び微笑み、頭を下げた。
 やがて欠伸をしながら廊下を歩み、軋む階段を降りて行った。

「あくび、あくび……」

 俺は頭が真っ白になった。欠伸をするほど、眠れていないということは。
 原因は俺の────いや、俺たちの行為にあるのでは。血の気が引く感覚を味わいながら、その場に尻餅を搗きそうになる。
 察しの悪い笹原も勘付いたのか、後頭部を掻きながら申し訳なさそうに笑った。

「あはは。菓子折りとか持って行ったほうが良さそうだな」
「てめぇ、他人事だと思いやがって」

 彼の横腹を殴り、俺は頭を抱えた。

「ま、ゲイカップルの営みだと思って相手は気にしないさ」
「俺たちはカップルじゃない! 俺もお前も、その気はないだろ!」

 「声がデカいなぁ、伊武は」と、肩を叩きながら笑う彼をキツく睨み、大学終わりに菓子折りを買って帰ろうと決意した。
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