それはダメだよ秋斗くん!

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「いらっしゃい」

 目を細め、穏やかな笑みで僕を出迎えた秋斗。そんな彼に導かれるように、玄関を潜り抜けた。熱した外の世界とは裏腹に、家の中はひんやりとしている。
 久しぶりに入った木下家は、あまり変わっている気配がなかった。変わった点があるとすれば、玄関先に並べてある秋斗のスニーカーが一回りも二回りも大きなサイズになっているという点だろうか。
 ドアをゆっくりと閉めると外との世界が遮断され、玄関先が二人きりの空間になる。外からは蝉の声と、家の前を通り過ぎる車の音がかすかに聞こえた。

「来てくれたんだな」

 サンダルを脱ぎながら頷く。家の中は耳鳴りがするほど静かだ。
 彼ごしに、廊下の先にある扉へ視線を遣る。ドアについているガラスから中が見えたが、人の気配は無い。

「……一人?」
「父さんは仕事。母さんはパート」

 そっか、とひとりごちた僕の手首を彼が掴んだ。その手のひらは熱く、湿っている。力強さに思わず眉が歪んだ。そのまま引き摺られるように二階へ通じる階段を歩む。登った先にある廊下の左側。薄茶色のドアの中に入る。
 中は昔と違い、ガラリと変わっていた。ベッドシーツはキャラものから無地の紺色に変わっているし、学習机は無くなっていて、シンプルな机に変わっていた。壁には額縁に入った賞状が飾られている。

「……すごいね、柔道で優勝したの?」
「そんなとこ」

 飾りたくないけど、母さんが額縁に入れてくれたからせっかくだしな。と、彼が肩を竦める。秋斗はおもむろにベッドの縁へ腰を下ろした。自分の隣を二回ほど叩き、僕に座るよう促す。
 彼の隣に渋々腰を下ろし、唇を舐めた。嫌な沈黙が二人の間を支配する。不意に、秋斗が僕の髪を撫でた。耳にかけるように指を動かす。その一つ一つの動作に、汗が滲む。

「あ……の……」
「俺さ、ずっと八雲くんのこと好きだったんだよ」

 突然の告白に心臓が跳ねた。秋斗へ視線を投げることができないまま、膝の上に乗った自分の手を穴が開くほど見つめる。

「……八雲くん」
「なに」
「お尻使わせてくれない?」

 反射的に僕は秋斗を見た。彼はなんてことないような涼しい表情で微笑んでいる。駄目? と首を傾げられ、言葉が詰まった。
 ダメに決まっているだろう。そう叫びそうになったが、深呼吸を繰り返す。心を落ち着かせ、平静を装った。

「そ、それは……」
「なに?」
「それはダメだよ、秋斗くん……」
「なんで?」
「ダメなものはダメ」
「じゃあ、バラしてもいい?」

 平気な顔で僕を脅す彼に恐怖心さえ覚える。しかし、滲む汗と上がる呼吸は、それだけじゃないような気がした。何故か、興奮している自分もいる。その事実に、自身を叱咤したくなる。昨日、秋斗にキスをされている最中、そして家に来るようにと脅された時の感情が沸々と湧き上がる。ドキドキと胸が高鳴り、体が火照った。
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