雨と時間の向こう側

時谷 創

文字の大きさ
3 / 15

3話 秋山 享

しおりを挟む
「それより、衣沙菜。聞いてみたい事があるんだけど、
 『雨と時間の向こう側』と言うタイトルに聞き覚えはないか?」

「雨と時間の向こう側……?
 うーん、何かどこかで見た事があった気がするんだけど、どこでだったかなー。
 ちなみにそれはどんな物語なの?」

書籍に詳しい直君が、私に聞いてくるのは凄く珍しいと思った。 

タイトルからすると、推理小説ではないような気はするけど。 

「うーん。何だろ、青春物?」

「青春物なんだ。
 直君はあまり読まないジャンルだけど気になる作品だったのかな。
 作者は誰なんだろ?」

「秋山 享」

「秋山 享さんか……。
 ってえ!? 直君のお父さんって推理小説専門じゃなかったっけ!?」

直君のお父さんは、本格的なミステリーから、小さな事件を遺留品から読み解く
探偵物まで様々な物語を綴って来たが、青春物は1度も聞いた事がなかった。

「母さんによると、まだ無名の頃に1度だけ小さな出版社から
 出した事があったらしい。
 でも全く売れなくて絶版になり、会社自体ももう潰れてないみたいなんだよ。
 父さんも原稿を探したけど探しても見つからなかったって」

「へぇー、そうなんだ。直君のお父さんの青春物なら私も読んでみたいかも」

「いや、興味本位ではなくて、実は父さんから生前に探して欲しいと
 頼まれたみたいなんだ」

みたいって事は、直君自身が直接聞いた訳ではないって事だろうか。 

「そっか。それならネットで探すか……古本屋で探すかしかないね」

「ネットの方は検索かけても出てこなくて、この町の古本屋に足を運んだけど、
 そう言う本は無いって言われたよ」

「う、それだと見つけるのは厳しいね。この学校の図書館に……ある訳がないか」

ある訳無いと思いながらも、図書館の名前を出してみると、
突然直君がニヤリと笑顔を浮かべはじめた。

「それがだな。驚い事に昨日先生に目録を見せてもらったところ、
 その中に、雨と時間の向こう側が載ってたんだよ!」

「おおー、そうなんだ!って事は直君の事だから、
 分類上この部屋にある事になってたり?」 

直君のテンションにつられて私もハイテンションで聞き返す。

「さすが衣沙菜。よく分かってるじゃないか」

「だから今日は機嫌良かったんだね!」

「まあそうだな。
 去年の蔵書点検の時はあったみたいだから、あると良いんだけど。
 とりあえず楽しみは後に取って置いて、
 まずは通常通り蔵書点検の方をはじめてみよう」

そう言って直君が奥の書棚に近づき、目録を手に1つ1つチェックしていくので、
私は手前側から順に棚をチェックする事にした。 

ちなみに今いる半地下はほとんど読まれていない本がしまわれている区画なので、
チェックは比較的楽な部類。 

すぐに直君と雨と時間の向こう側なる本を二人並んで見てみたい衝動に駆られるが、
直君の意思を尊重して、破れ、虫食いなどがないか綿密にチェックしていく。 

「あれ、ここ一冊抜けてるね。
 えっと……あっ、このタイトルは私が頼まれて、ここに取りに来たやつだ……」

「まあ衣沙菜は貸しただけだから気にするな。
 借りた本を返してない奴が悪いんだからな」

直君はいつも優しいけど、今日は特別優しい気がする。

やっぱりお父さんの小説を楽しみにしてるのかな?

「ねぇ、直君。ちなみに直君はその本は読んだ事あるの?」

「小学生の時に読んだけど、途切れ途切れでしか覚えてないんだよ」

「そっか。小学生に青春物はまだ縁遠いから仕方ないかもね」 

小学生から見ると、中学生、高校生は存在が大きく見えるし、
高校生の日常などが綴られていてもピンと来ないかもしれない。

「あと、さっきはとりあえず青春物って言ったけど、
 物語自体は父さんが実際に体験した実話みたいなんだ。
 さすがに登場人物とか名称とかは変えてあるみたいだけど」

「実話なんだ! それなら余計読みたくなるね。
 ちょっと作業止めて本を探してもいいかな!?」

「ったく。衣沙菜は1度火がついたら止まらないからな。
 蔵書点検は俺がやっとくから、先に探しててもいいよ」

「ほんと!? それじゃお言葉に甘えさせてもらうね!」

仕方ないなと言って、ため息をつく直君を横目に、一人目的の本を探していく。

「雨と時間の向こう側……雨と時間の向こう側……」

背表紙をささっと目視して、書庫内を確認していくが、
なかなか見つける事ができない。

「あれ、この本は背表紙がかすれてて読みにくいな」

背表紙ではタイトルが確認できないため、その本を手にとって確認してみる。

「えっと……あ、これだ! 雨と時間の向こう側、作者は秋山 享」

「おっ、あったか! 一旦手を休めてそっちいくから待っててくれ!」

あの様子だと直君もやっぱり気になっていたんだね。 

直君が来たら二人で一緒にこの本を読みたいな。 

直君が来るまで大事に胸の前で抱えていると、
突然ドン!と言う音と共に下から突き上げるような衝撃が襲ってきた。 

「キャー!! なにこれ……地震!?」 

立っていられないほどの揺れを感じたため、本を守るようにその場で座り込む。 

ガタガタガタ……ガシャン!

「えっ!?」 

後方の大きな音に振りかえってみると、本棚が傾いてこちらに迫ってきていた。

避ける間もなく倒れこんでくるため、私は目を瞑って本を強く抱きしめる。

「衣沙菜!!」

直君の叫び声と共に、なにかが覆い被さってくるのを感じた所で、
私の意識はそこで遠のいて行った……。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

冷たい彼と熱い私のルーティーン

希花 紀歩
恋愛
✨2021 集英社文庫 ナツイチ小説大賞 恋愛短編部門 最終候補選出作品✨ 冷たくて苦手なあの人と、毎日手を繋ぐことに・・・!? ツンデレなオフィスラブ💕 🌸春野 颯晴(はるの そうせい) 27歳 管理部IT課 冷たい男 ❄️柊 羽雪 (ひいらぎ はゆき) 26歳 営業企画部広報課 熱い女

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

処理中です...