雨と時間の向こう側

時谷 創

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4話 ぬいぐるみ

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「そうだ。直君と一緒に雨と時間の向こう側を読もうとした所で、
 地面が揺れて本棚が倒れてきたんだった」

でもそれならなぜ、男子高校生の姿をしているのか。 

どこかで見たような爽やかな少年のようではあるが、一体誰なんだろう。

もしかして本棚に挟まれて死んで、生まれ変わったとか……。

「じゃない! マスター!
 さっき私の名前を、秋山 享って言ってませんでした!?」 

そうだ。直君にそっくり、と言うか直君がそっくりなんだ。

サラサラの髪、スラっと体躯に、長く綺麗に伸びた手足。
男なのに羨ましいほど長い睫毛も直君とそっくりだ。

「え? あ、ああ……お前はどこからどうみても秋山 享だからな。
 長い間机に伏してたと思ったら、またいきなりだな」
 
全く知らない人物なら生まれ変わりの可能性もあるけど、
今の私が直君のお父さん、秋山 享さんだとすると、考えられるのは……。

『どうやら俺達は、父さんの高校時代にタイムスリップしたみたいだな』  

「えっ!?」

突然頭の中に声が聞こえてきたため、辺りをきょろきょろと見回してみると、
鞄の近くに手のひらサイズの猫のぬいぐるみが、つぶらな瞳を輝かせながら、
こちらをじっと眺めていた。

「え、猫のぬいぐるみがしゃべった!?」

『自分の姿が見れないから何かと思ったけど、これ猫のぬいぐるみなんだな』

やっぱり、猫のぬいぐるみが話してる!

ぬいぐるみなのに微妙に動いてるし、
脳内に語りかけてくるってどう言う仕組むなんだろう!?
 
「マスター! 今の聞きました!?
 この猫のぬいぐるみ、しゃべりましたよ!」

「享……お前やっぱり今日は帰った方がいいんじゃないのか?
 そのぬいぐるみはそもそもお前のものだし、
 第一ぬいぐるみが話をする訳がないだろう?」

話す訳が無いと言うのはその通りだけど、マスターには聞こえていないなら、
この語りかけてくる言葉は、私にしか届いていないのかもしれない。

「父さんの高校時代がどうとか、タイムスリップしたとか、
 そう言うのは聞こえてないって事ですよね?」

「ああ、そんな事聞いた覚えはないぞ……。
 享が独り言を言ってたのは、ここから見ていたが」

間違いない。このぬいぐるみの声は私にしか聞こえないのだ。

『衣沙菜、とりあえず落ち着け。慌てても何の解決にもならないぞ』

「そうだね。分かったよ、直君」

私はいつも一人で暴走して、なだめてもらってばっかりだ。

「……ってえ~!? 
 何でこのぬいぐるみ、私の名前を知ってるの?と言うか、
 何で私、直君と話してるみたいにやり取りしてるの!?」

『衣沙菜、静かにしろ。
 この姿で言うと変な感じだが、俺は、秋山 直樹だ。
 さっきも言ったが、何かの拍子……
 たぶん地震で本棚が倒れて来た事が起因して、
 俺達は父さんの高校時代にタイムスリップしてきてしまったみたいだな』

「タイムスリップ……そんな映画や小説に出てくるような事が
 現実に起きるなんて……」

しかも普通にタイムスリップしてきた訳ではなく、
私が直君のお父さんに、直君がぬいぐるみの中に入ってしまうなんて……。

『とりあえず今はむやみに動かず、現状把握に努めよう。
 喫茶店のマスターがお前の事を不審な目で見てるし』

直君に言われて、マスターに目を向けてみると、
確かに私を不審人物を見るかのような目でこちらを見ていた。

あれだけ訳の分からない事を一人で騒いでいたら、
そう思われるのも仕方ないかもしれない。 

「分かった。
 このままだと店からつまみ出されかねないし、落ち着いて状況を確認してみよう」

直君に聞こえるほどの小さな声で呟くと、気持ちを入れ替えるために、
その場で大きく深呼吸した。
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