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5話 先生
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『まず確認しておきたいのは、今俺達はどういう状態に置かれているかって事だな』
「マスターの話から、直君のお父さんの高校時代にいる事は分かるけど、
ここで何をしようとしていたのを知る必要があるね」
マスターとの関係性を見ればここの常連だと分かるけど、
それ以上の事はほとんど分かっていない。
『マスターにそれとなく聞いてみるしかないな。
ただ、気を付けないといけないのは、衣沙菜の怪しい言動のせいで、
マスターが不信感を抱いてしまっている事だ』
「うう、それはほんと申し訳なかったと反省しております……」
今となっては、直君のお父さんの顔で、私は女子高生とか、
痛過ぎる発言のオンパレードでしかない。
『とりあえず過ぎてしまった事は仕方ないので、
衣沙菜には父さんの振りをして、マスターと話をして欲しい』
「直君のお父さんの高校時代とか知らないけど、うまくいくかな?」
『いや、俺も高校時代は知らないけど、できる範囲で助言するから。
おかしな言動を控えつつ、話を合わせればたぶん大丈夫だろう。
さっきまでのはそうだな……最近流行りの演技だったって事にしておこう』
「流行の演技……結構苦しい気もするけど、それでマスターと話してくるね」
私は再度深呼吸をして気持ちを落ち着けると、直君にこくんと頷いて、
マスターのいるカウンターまで歩いて行く。
「享。何かまたぶつぶつ言ってたみたいだが、
その調子だと今日は中止にして帰った方が良いと思うぞ?」
「大丈夫。さっきまでのは最近学校で流行っている演技、だったんだ。
クラス内で役割を交代してその人を演じるって感じのだな」
強引な説明だけど、最初に衣沙菜と名乗った時、
マスターがそれ流行っているのか?と言っていたし、
直君を信じれば何とかなる……はず!
「今そんなのが流行ってるのか……変な世の中になったものだな。
わしはてっきり天野先生にどうお礼を言うかで悩み過ぎて、
どうにかなってしまったのかと思ったよ」
天野先生にお礼……?
『おお、少し情報が出たな。この調子でマスターの話に乗せてもらおう。
お礼の事を考えていて余裕が無かったって事で』
「それももちろん影響があったんだと思う。
天野先生に何てお礼を言おうか考えていたら、
頭の中がいっぱいいっぱいになってしまったからな」
「尊敬している先生が急に転勤する事になったら、
少なからず動揺するかもしれんが、さっきのはまるで別人のようだったぞ?」
あはは……全くの別人だからマスターの目は間違っていないのです、ごめんね!
「ははは、悪い悪い。
先生には凄くお世話になったし、離れてしまうのはやっぱり寂しいよ」
「天野先生も享の事、これからが楽しみな生徒だと言ってたし、
悔いが無いように色々話をしておくんだぞ。
……とそれより大事な事を忘れとった」
マスターはそう言って、その場でしゃがみこむと、
何かを手に取り、カウンターの上に置いた。
「昼前にラジオを聞いた時に、午後から雲行きが怪しいって言ってたんだよな。
天野先生、大丈夫だろうか?」
不安そうな表情でマスターがラジオの電源を入れると、
ラジオからちょうど天気予報が流れてくる。
「次はこの地方の天気予報です。
この後急速に発達した低気圧が近づき、非常に強い雨が降るでしょう。
特に山間部は先日降った雨が残っている恐れもあるため、
がけ崩れにもご注意ください」
「やはりこれから荒れてきそうだな。
今は黒い雲が広がっているだけで、まだ雨は降ってないみたいだが」
マスターに言われて、私も窓の外に目を向けてみると、
真っ暗な雲が空を覆い、今にも雨が降り出してきそうな天気だった。
「ここらは昔から崖崩れ、土砂崩れがよくあるから気をつけた方が良い。
何だったら先生に電話して、今日は中止にした方がいいんじゃないか?
待ち合わせの15時までは後1時間あるしな」
『そうだな、天野先生に連絡して……いや、衣沙菜、ちょっと待ってくれ。
土砂崩れの話を聞いて思い出した事があるから、一度席に戻ろう』
土砂崩れの話を聞いて思い出した事……一体何の事だろう。
とりあえず直君の口ぶりだと重要な事だと思うので、
ここは言う通りに行動しよう。
「……そうだな。マスター、先生も明日までは滞在してるから、
もう一度考えを練ってみるよ。一回席に戻るな」
マスターにそう告げると、「なるべく早く決断するんだぞ」との
返事が返ってきたため、それに頷き、自分の席に戻った。
「直君、とりあえず戻ってきたけど、思い出した事って何なの?」
『ああ、前に言ったように雨と時間の向こう側を読んだのは、
小学生の頃だったから記憶が曖昧だと言うのは話したよな?』
「うん。お父さんの高校時代の実話を元にした作品と言うのも聞いたね」
『それでマスターから土砂崩れの話を聞いた時に思い出したんだが、
その物語では先生との待ち合わせ場所を学校に変更して無事会えてるんだけど、
実際は喫茶店に来る途中で……先生は土砂崩れに巻き込まれて亡くなるんだ』
「マスターの話から、直君のお父さんの高校時代にいる事は分かるけど、
ここで何をしようとしていたのを知る必要があるね」
マスターとの関係性を見ればここの常連だと分かるけど、
それ以上の事はほとんど分かっていない。
『マスターにそれとなく聞いてみるしかないな。
ただ、気を付けないといけないのは、衣沙菜の怪しい言動のせいで、
マスターが不信感を抱いてしまっている事だ』
「うう、それはほんと申し訳なかったと反省しております……」
今となっては、直君のお父さんの顔で、私は女子高生とか、
痛過ぎる発言のオンパレードでしかない。
『とりあえず過ぎてしまった事は仕方ないので、
衣沙菜には父さんの振りをして、マスターと話をして欲しい』
「直君のお父さんの高校時代とか知らないけど、うまくいくかな?」
『いや、俺も高校時代は知らないけど、できる範囲で助言するから。
おかしな言動を控えつつ、話を合わせればたぶん大丈夫だろう。
さっきまでのはそうだな……最近流行りの演技だったって事にしておこう』
「流行の演技……結構苦しい気もするけど、それでマスターと話してくるね」
私は再度深呼吸をして気持ちを落ち着けると、直君にこくんと頷いて、
マスターのいるカウンターまで歩いて行く。
「享。何かまたぶつぶつ言ってたみたいだが、
その調子だと今日は中止にして帰った方が良いと思うぞ?」
「大丈夫。さっきまでのは最近学校で流行っている演技、だったんだ。
クラス内で役割を交代してその人を演じるって感じのだな」
強引な説明だけど、最初に衣沙菜と名乗った時、
マスターがそれ流行っているのか?と言っていたし、
直君を信じれば何とかなる……はず!
「今そんなのが流行ってるのか……変な世の中になったものだな。
わしはてっきり天野先生にどうお礼を言うかで悩み過ぎて、
どうにかなってしまったのかと思ったよ」
天野先生にお礼……?
『おお、少し情報が出たな。この調子でマスターの話に乗せてもらおう。
お礼の事を考えていて余裕が無かったって事で』
「それももちろん影響があったんだと思う。
天野先生に何てお礼を言おうか考えていたら、
頭の中がいっぱいいっぱいになってしまったからな」
「尊敬している先生が急に転勤する事になったら、
少なからず動揺するかもしれんが、さっきのはまるで別人のようだったぞ?」
あはは……全くの別人だからマスターの目は間違っていないのです、ごめんね!
「ははは、悪い悪い。
先生には凄くお世話になったし、離れてしまうのはやっぱり寂しいよ」
「天野先生も享の事、これからが楽しみな生徒だと言ってたし、
悔いが無いように色々話をしておくんだぞ。
……とそれより大事な事を忘れとった」
マスターはそう言って、その場でしゃがみこむと、
何かを手に取り、カウンターの上に置いた。
「昼前にラジオを聞いた時に、午後から雲行きが怪しいって言ってたんだよな。
天野先生、大丈夫だろうか?」
不安そうな表情でマスターがラジオの電源を入れると、
ラジオからちょうど天気予報が流れてくる。
「次はこの地方の天気予報です。
この後急速に発達した低気圧が近づき、非常に強い雨が降るでしょう。
特に山間部は先日降った雨が残っている恐れもあるため、
がけ崩れにもご注意ください」
「やはりこれから荒れてきそうだな。
今は黒い雲が広がっているだけで、まだ雨は降ってないみたいだが」
マスターに言われて、私も窓の外に目を向けてみると、
真っ暗な雲が空を覆い、今にも雨が降り出してきそうな天気だった。
「ここらは昔から崖崩れ、土砂崩れがよくあるから気をつけた方が良い。
何だったら先生に電話して、今日は中止にした方がいいんじゃないか?
待ち合わせの15時までは後1時間あるしな」
『そうだな、天野先生に連絡して……いや、衣沙菜、ちょっと待ってくれ。
土砂崩れの話を聞いて思い出した事があるから、一度席に戻ろう』
土砂崩れの話を聞いて思い出した事……一体何の事だろう。
とりあえず直君の口ぶりだと重要な事だと思うので、
ここは言う通りに行動しよう。
「……そうだな。マスター、先生も明日までは滞在してるから、
もう一度考えを練ってみるよ。一回席に戻るな」
マスターにそう告げると、「なるべく早く決断するんだぞ」との
返事が返ってきたため、それに頷き、自分の席に戻った。
「直君、とりあえず戻ってきたけど、思い出した事って何なの?」
『ああ、前に言ったように雨と時間の向こう側を読んだのは、
小学生の頃だったから記憶が曖昧だと言うのは話したよな?』
「うん。お父さんの高校時代の実話を元にした作品と言うのも聞いたね」
『それでマスターから土砂崩れの話を聞いた時に思い出したんだが、
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