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しおりを挟むなぜだ。
この世界に、この時代に一人やってきた。
だから。
不安なのはわかる。
自分の幸がここにあろうとなかろうと。
楽がなかろうと、虚しさが残ろうとも後戻りの選択肢は俺には許されていない。
突き進むしかないのに。
おびえているのか。
恐れているのか。
焦る気持ちが押してはかえす波のように繰り返し、胸を苦しめるんだ。
せっかく出会った駒次郎だが。
事が終われば「ありがとう」と言われ「さようなら」が来る。
そんなの嫌だ。
だけど仕方がない。
ここには長くとどまれない。
寝て見る夢のような世界だと、割り切るのだ。
駒次郎。彼を信じて待たなくて良かったのか。
そこはちょっぴり後悔している。
気の迷いがそうさせたんだ。
人間なんていざという時、弱いもんだよな。
だがここまで足を運んでしまったのだ、このまま境内に行って待てばいいさ。
終わりが来るのが早すぎる。
つまりはそういうことなのだ。
それで気持ちの整理がつかないらしい。
もとより不安を抱えてやって来るしかなかった世界だったのに。
人助けのポイント稼いで、とっととおさらば。
するはずだったのに。
「あいつに会って色々と話したら、心に未練が生まれたんだろか。くそ、流されてどうするんだ。次の世界が待っている。その度にこんな気持ちを抱えだすのかよ」
心地良い世界だと感じたのは、あいつと出会ってからだった。
まだ終わりたくない。だからといって失敗したいわけじゃない。
やり直しとは違い、つづきの生活を見て見たくなっちゃったんだ。
スキルを獲得したらもっと助けになってやれるのにって気持ちが芽生えてきて。
友達にはなれないのか。
だけど、その付き合いは長続きしないの分かってるし。
むなしくて酷いゲームだよ、ほんとにこれ。
指先がモジモジで。
両手を組んで互いの指のあいだをもみ合い、行ったり来たりさせる。
手と手をやたらとすり合わせたり、何もない木々の景色を何度も見てしまう。
自分の視線の落ち着く場所さえ分からなくなっている。
女神が言ったとおり、死ななきゃ治らないというアホなんだよ俺は。
この運命だけは彼らに関係ないし、どうすることもできない。
いまさらだが泣けてくる。ちくしょう。
「…はあっ……はあっ……」
なんだかどんどん息苦しくて、境内を求めて歩き出していた。
例の祠はすぐ傍にあるが、境内はもう少し奥まった所のようだ。
ツナセ街道が神社の横手にあり、ここは脇道になるようだ。
正式な出入り口ではないようだから。
もっとしっかり塀とかで囲われてるかと思えば、どこからでも入れちゃうからどの辺が神社の奥かわからん。
「さすがに神社……広いなぁ。──にしても。人っ子ひとり居ないなぁ。木々のざわめきがしか聞こえなくて、なんだか余計に寂しいな」
三分ぐらい歩いたかな。
神社の境内ってデカイはずだよな。
なんで屋根らしきものが一向に視界に映らないのか。
つうか、建造物がちっとも見当たらない。
砂漠かよ、広すぎでしょ。
「…っかしいな。どこまでも裏手って感じだ。鳥居すら見当たらないのなんでだ?」
そんなに歩き倒した覚えはないんだが。
おや、見間違いでなければ……、
「あれ!?……、やっちまったか」
そこにポツンと見えるのは、例の祠じゃないか。
俺がそれを見間違えるはずはないのだ。
いつの間にか、Uターンしてきてしまっている。
「マジかよ!?」
俺ってこんなに方向音痴だったかな。
「いやいやいやいや……、死ぬほどまっすぐ歩いてたし…」
そうだ、絶対。
階段もなかったし、段差を越えたわけでもない。
右にも行かず、左にも行かず、まっすぐ歩いていたはずだ。
これは……、
「昔の建造物って文化遺産だから、精巧に同じものが造られているだけだろ」
これは、似て非なるもの。
きっと女神と出て来た例の祠とおなじものと言うだけだ。
びっくりさせんなや。
まあでも、確認してみりゃわかることだ。
「おし、白黒つけたろやないか」
祠の下に木組みの土台があるのは同じで、隙間があいているんだ。
老朽化による隙間ではなく、風でも通すための隙間だろうか。
それともデザインなんだろうかと、思う次第のそんな隙間だ。
指がはいるほどの隙間なのだ。
祠の扉の前に立ち、しゃがむ。
頭をおもいっきり右に倒してのぞき込む。
「えーと、たぶん何も押し込まれていないと思う」
祠は、畳にして二畳分ほどのスペースだったから。
反対側の景色がすっきりと見えているから、あの任命書はないと見た。
俺が女神と出て来た祠は、場所がもう少し陰っていたんだ。
やっぱりここは別の場所だな。
まさか似たような祠がいくつもあるとは思わんかったから、周囲の景色をくまなく暗記して置こうとは考えもしなかった。
ていうか戻るときは女神も一緒だと思い込んでいたからな。
もっとも、戻る日時が来てないだけだし。
扉から出て来た向きに、まっすぐ歩いていくと街道に出るんだよ。
試しに歩いてみるか。
一分も掛からないはずだし。
「……エッ!? そ、そんなの嘘だろ!」
ツナセ街道に出ちまったよ。
別の筋とか、通りという線はない。
俺はここに来た時、人間不信になりそうだったぐらい不安を抱えていた。
だから、この入り口に目印としてイシツブテで使った小石を置いておいた。
「あり得ないよ、そんなこと……、嘘だろ…」
葵の御紋にちなんで、石を三つ巴に置いたんだ。
それが、置いてあるってことは……。
やばいっ!!
まずい、まずいっ!
いますぐ引き返して、探さなきゃ!
誰だよ、誰が近づくんだよ。こんなところによ。
参拝客なんて一人もすれ違った覚えはないぞ。
どうなってんだよ。
「くっそー!」
時が経てば、陽が傾き、陰りもなくなっちまうか。
なんで俺はこんなに抜けてんだよ。
女神がそんな場所を選んだら、俺が迷子になることぐらい想定するってことをすっかり忘れていた。
うわわああーーん。やっちまったか。
クヨクヨと感傷に浸ってる場合じゃねえ。
迷子になるなって駒次郎に言われて置きながら。
迷子になるわ、そのうえ方向音痴ですから、残念!とか、
駒次郎に言わせるのだけは、阻止せねば。
てか、神社の境内どこなんだよ!
場内アナウンスプリ────ズッ!!!
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