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赤い薔薇と、彼岸花
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『はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ』
布団の上で美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体姿になって仰向けになる、ブロンドの短い髪の、一度見たら頭に残る蠱惑的な美貌の16歳の少女、愛道鈴の上に覆い被さるのは、筋肉で引き締まった51歳とは思えない程の肉体美を晒して、大きい男根を差し込んで子宮を何度も突き上げる、黒髪で、高身長のイケメンの風貌の主である男、鬼賀乃仁導だ。
『あぁっ!ん、はぁ!』
唾液を垂れ流し、なかなかお目にかかれない綺麗な形のほっそりとした美脚を両肩に掛け、両方の手でカップル繋ぎし、快楽の海に溺れて這い上がる事が出来ず、体がバラバラになるほど愛され、一度からだにこびりついた快感はどこにも出ていかない。
『ゔ、あぁ…………………ッ…はあぁ』
彼は、額から一筋の汗を流し、締め付けられたその快感にブルッと身震いをし、熱の魅力に抗えず、欲望を燃え上がらせどくどくと全身の血が滾り、我慢汁がビュクビュクと溢れ、妻を独占し、「所有」する。
『あぁっ!あっ!あっ!あっ!あっ!ああぁ!あぁん!ん、あぁ!』
元々が、誰もが満足の行く大きさであり、それが興奮して勃起する事によって更に人間離れした大きさになる。それで突き上げられているので、大いに体が満足する。
『思へ、り(愛し、てる)!仁導』
『それがしもお慕い垂き(俺も愛してる)』
互いに舌を出し、汚い音を立てて絡ませる。
『あぁ…………………ッ…!はぁ!』
あまりの快感にブルッと身震いをし、唾液を垂れ流してギッチギチに締め付けて離さない。
『ん、あぁ!んはあぁ!』
失神しそうな程のエクスタシーが体を駆け抜け、ビクビクと腰を痙攣させてブッシューーーーーーーーーッ!と、何メートルとも潮を吹き出し
『く………………………ッ…おぉ!』
腰を痙攣させ、多量の精を放つ。飛び散る程の多量の精だ。射精は力強く、雄々しく、精液はどこまでも濃密だった。きっとそれは子宮の奥まで到達したはずだ。あるいは更にその奥まで。それは実に非の打ち所のない射精。膣に射精された精子が駆け抜け、子宮へと到達する。そして、卵管を通り卵子を待つ。卵巣から排卵が起こる。精子と排卵をした卵子が、卵管膨大部で出会い、受精をする。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を通り、子宮内へ移動する。子宮に到達した受精卵は、子宮内膜に着床し、妊娠が成立する。
『んぅ!!』
その際に、余分の脂肪の無い痩せて凹んだ腹部がボコッ!と膨れ上がり、子宮に熱湯が注がれたように熱くなり
『はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ』
目眩に似た恍惚感が訪れ、すべてが終わったとき、次第に遠のいていく恍惚の中で女がブルッと、身震いをする。
『貴様(お前)が愛おしく。堪らなゐ』
まだビュクビュクと射精ており、繋がったまま彼は抱き締める。
『貴様のこの、美しき体躯の美術品ひいつひいつをもそれがしなりしがのでござる。貴様を深く慕っておる(お前のこの、美しい身体のパーツ一つ一つをも俺のものだ。お前を深く愛している)。鈴♡』
『我も恋し。思へり(私も好き。愛してる)仁導』
その頬に触れ、ムチュッと、唇に唇を、押し当てた。
「歳は幾つじゃ(いくつだ)?」
それを言ったのは、警察官である大浦湊だ。シルバーの髪が目立ったイケメンな風貌の38歳の男。
「壱漆でござる(17です)」
目の前に立つのは、深い緑色の衣を身に付けた伊村尊。身長が156センチ程しかなく、黒髪の17歳には見えない程童顔な男の子。
「壱漆か(17か)」
ふと、彼は牢屋に通じるドアの見張りをしている西宮崗絛を見た。鮮やかな水色の肩にかかるくらいの髪に、高身長で細身な上に筋肉で引き締められたその肉体美は、男も女も酔わせ、男が見ましても吸い付いてみたいほどの初々しい美形。だが、どこか変わっている一面がある。
「良きではござらぬか?壱漆なら(良いんじゃ無いかな?17なら)」
「鬼賀乃仁導が在るのは、奥の牢屋じゃ(居るのは、奥の牢屋だ)」
ドアを開けると薄暗い通路が続いており、鬼賀乃仁導と言う男が居る牢屋に繋がっている。彼は崗絛から提灯を受け取り、中に入って歩いて向かう。
「………………………………………」
鬼賀乃、仁導…。
風一つ無く、張り詰めた空気が漂う。奥まで行くと、地下に続く階段が。尊は、歩いて下がって行った。
「………………………………………」
うつけ者にさせても構わぬ(バカにされても構わない)。
拙者、拙者真剣にて(俺は、俺は本気で)!
見付け出したいでござる(見付け出したいんだ)!
階段を下がりきると、頑丈な鉄格子の向こう側で揺らめく影が。
「あああああぁ~。若ゐ、肉の匂ゐじゃ(若い、肉の匂いだ)♡」
この声の主こそ、鬼賀乃仁導と言う名の男の声。彼は提灯で照らすと、唾液を垂れ流して、2本の小刀で肩を貫かれてゴツゴツの岩肌のような壁に飾られている黒髪で、イケメンな風貌の男の姿が、目に入った。
「!!!!!!!!!!?」
両脚を切断されており、尊は、体中の血液が逆流するほどの恐怖に、身体が板のように硬直してしまう。
「何奴じゃ貴様は?見掛けなゐ面を致し候。さふか。飯の刻限か。ご馳走に有り付けられるでござるとはな。貴様はいずこの部位が美味ゐんじゃ?じっくりと味わとはやる(誰だお前は?見掛けない顔をしている。そうか。飯の時間か。ご馳走に有り付けられるとはな。お前はどこの部位が美味いんだ?じっくりと味わってやる)」
彼の食は、『人間』。一つの村の、人間と言う人間を食い散らかし、その上捕まえに来た警察をも食べてしまい、この男は人間として扱わられていなく、『鬼』として恐れられている凶悪犯。
「それがしを味わう前に聞ゐて所望致す(俺を味わう前に聞いて欲しい)!」
その時、尊は走り出すと、ガァン!と鉄格子に体をぶつける程の距離で喋り出す。
「鈴氏の!鈴氏の亡骸はいずこじゃ!?存じておるんであろう!?何ゆえに鈴氏を(鈴ちゃんの!鈴ちゃんの遺体はどこだ!?知ってるんだろう!?何故鈴ちゃんを)!」
その時だった。前に体を出せば、小刀が壁から外れてそのままドサッと前に、倒れたのだ。その際に小刀が深く突き刺さり、顔を向けた。
「!!!!!!!!!!?」
彼は、その場で腰を抜かし、女の子座りする。
「あぁ…………」
自力にて(で)!
自力にて(で)!
抜きやがった!
すると仁導は、体を這わせて近付き、鉄格子を掴んで上体を上げて腕を伸ばして尊のアゴをガッと、掴んだ。
「!!!!!!!!!!?」
「何ゆえに。何ゆえに鈴を、存じておる(何故。何故鈴を、知っている)?」
その目は、もはや人間ではなかった。獣のような目を、していた。
「拙者、鈴氏と同じ寺子屋に通う、筆子でござる(俺は、鈴ちゃんと同じ寺子屋に通う、生徒です)」
声を震るわし、そう口にした。
「鈴はそれがしなりしがのでござる!何奴にも渡さぬ(鈴は俺のものだ!誰にも渡さない)!」
指に力が入り、彼の顔が歪む。
「あ……………………ッ…がぁ!」
仁導はやはり(やっぱり)。
鈴氏と仲柄を、持とはた(鈴ちゃんと関係を、持ってた)。
ザアァッ。雨は、全てを押し流すほど凄まじく降り注ぐ。
「けふもナガレ、来たらずな(今日もナガレ、来てないな)?」
それを言ったのは奈良和美嘉だ。栗色のソバージュが毛先に掛けられた唇にさしている紅が良く似合う高身長の女。寺子屋の横に長いテーブルの前に敷かれた赤い座布団に座っており、その隣で同じ色の座布団に座る冴えないと言うか、大人しい、清楚系、だが、顔に対しての悪い印象はなく、どちらかと言えば美人系な顔をしている安藤雪の瞳が、揺れていた。
「………………………………………」
「ナガレ。鈴の事が恋しければ、衝撃こそ大きなれ(ナガレさん。鈴ちゃんの事が好きだったから、ショックが大きいんだよ)」
それを言ったのは友坂千鶴だ。栗色の髪を三つ編みにし、子供っぽい愛らしい顔をした女であり、その隣に座るのは双子の妹、千華夏。のほほんとした姉とは違い、性格は冷めていて、綺麗ではあるけれどそれほど印象的ともいえない女。
「………………………………………」
死なまほしきなど思ひたらざりき(死んで欲しいなんて思ってなかった)。
ただ我はすがらに(ただ私はずっと)。
ナガレが恋しければ(ナガレくんが好きだったから)。
その鬱憤にかの子に苛みせるされど(その鬱憤であの子に嫌がらせしてたけど)。
よも、死ににけるなど(まさか、死んじゃったなんて)。
誰も思はずよ(誰も思わないわよ)。
愛道鈴は、この学校の生徒であり、その、ナガレと呼ばれた男は、彼女の事が好きで、誰の目から見てもそのアピールが強かったので、知らない人は居ない。だから千華夏にとって彼女は、邪魔な存在だった。
「席に着くさね」
襖を開けて入って来たのは、長い黒髪は腰まであり、凛としていて目鼻立ちのきりっとした高身長の女、八坂薌だ。
「師。いまだ伊村と芽衣来たらず(先生。まだ伊村くんと芽衣が来てません)」
それを言ったのは雪だ。この学校の生徒である2人がまだ登校していない事を告げた。
「またかれら揃ひも揃ひて遅刻かい!今日こそは、遅刻常習犯にて逮捕してもらう(ま~たアイツら揃いも揃って遅刻かい!今日こそは、遅刻常習犯として逮捕してもらう)さね!」
そんな犯罪はありません。だが、芽衣と尊に関しては『遅刻のたけめい』と呼ばれており、同盟を組ませられている程、何度も何度も遅刻をしてくる。
一方、警察長谷では。
「ふふふ。鬼賀乃仁導に會おりきゐなぞ思うておる悪し趣味な子が在るもんじゃね(会いたいなんて思う悪趣味な子が居るもんだね)?」
それを言ったのは甲斐田純也だ。黒髪の爽やか系な、顔が整った美形の主であり、片方の前髪が長いのが特徴的な男であり
「この世には変わった子が沢山在る(居る)さね」
会話をしているのは八坂爻。栗色の髪のヤンチャ系な元服を迎えた男であり、姉が居る。
「とはいえなぜじゃ?鬼賀乃に會おりきゐなぞ思ったんであろう(でもどうして鬼賀乃に会いたいなんて思ったんだろう)?」
「愛道鈴て申す子が通っとる寺子屋の筆子らしきなれど、鈴氏が鬼賀乃と輿入れをしてちょーだい、良くその子に『旦那様』の話しをしておったさながらなんじゃ(愛道鈴て言う子が通ってる寺子屋の生徒らしいんだけど、鈴ちゃんが鬼賀乃と結婚をして、良くその子に『夫』の話しをしてたみたいなんだ)」
凶悪犯だけではない。自分の妻をも手を出した男だ。仁導のどこに惹かれたのかは知らないが、絶句してしまう話しだ。
「輿入れ(結婚)?鬼賀乃仁導と?」
「御意(はい)」
「もっと悪し(悪)趣味が居た」
会いたいとか、それ以上に仁導と結婚したい人がこの世に存在するとは。
「脅させたとか、真剣かは分からなゐでござるなれど、鬼賀乃仁導には、正室がおはすのでござりまするよ(脅されたのか、本気かは分からないですけど、鬼賀乃仁導には、妻がいらっしゃるんですよ)?」
「変じて(変わって)るなぁ」
そんな中尊は、恐怖を感じて階段の入り口付近に避難しており
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
湊は牢獄の中に入って刺股で首を押さえ付けていた。
「いかがやとはあの壁から抜け出したでござる(どうやってあの壁から抜け出したんだ)?」
「それがしに掛かるば容易ゐ事じゃ(俺に掛かれば容易い事だ)」
唾液を垂れ流しており、ニヤけていた。
「なにをしたでござるんじゃ(なにをしたんだ)!?」
怒鳴るように言い放つと、彼はこう口にした。
「拙者人間とはいえ物の怪とはいえなゐ。生を得た『生き物』じゃ。貴様どもに不可能な事を、拙者可能に出来る(俺は人間でも化け物でもない。生を得た『生き物』だ。お前たちに不可能な事を、俺は可能に出来る)」
改めて、鬼賀乃仁導の恐ろしさを知った。
一方で、学校の空気は、凍り付いていた。
「なんぢ何時間遅れきと思へるかな(あんた何時間遅れたと思ってるんだい)?」
薌の前で正座をするのは、あどけない愛らしい顔をしたスタイルの良い女、大原芽衣だ。かれこれ、1時間以上の遅刻。彼女は夜行性であり、朝がとても苦手。
「されど師(でも先生)!」
こんな状況であっても教師に対して口答えをする彼女は、自分の言い分も聞いて欲しかった。
「芽衣とてこころばみて(芽衣だって頑張って)!」
「言ひ訳はゆかしからずよさね!とく席に着け(言い訳は聞きたくないさね!とっとと席に着け)!」
「……………………え(は)い」
立ち上がり、雪と美嘉の間に座った。そして学校が終わり、尊は無断欠勤なので、明日、薌の逆鱗に触れる事になる。ザッザッザッザッザッザッ。彼女は、歩いて薄暗い階段を下がって行った。赤い薔薇を手にして。
「仁導」
仁導は、また壁に飾られており、今度は深く小刀が肩に突き刺さっていた。
「なんぢの恋しき薔薇(あんたの好きな薔薇)さね」
妻とあん団子も好きだが、実は赤い薔薇も好きで、結婚する前は良く花瓶に飾っていた。
「美しき。まるにて正室そなりしがのでござる(美しい。まるで妻そのものだ)」
「日ごろは、買ひて無かりきや(最近は、買って無かったのかい)?」
「それがしに取とは正室は、『薔薇』そなりしがのの存在。薔薇を買わござらぬても常に側にてひい輪咲ゐておりき(俺に取って妻は、『薔薇』そのものの存在。薔薇を買わなくても常に側で一輪咲いていた)」
「あはは!一輪ぞ。なんぢまこと、愛妻家かな(一輪ね。あんた本当、愛妻家だねぇ)」
人を愛したらとことん一途。浮気もしなければ不倫もしない。だがその愛が、異常なものに変わって行くのも、彼なりの愛情の一つ。
「早う、正室に會おりきゐ(早く、妻に会いたい)」
その言葉に、薌の瞳が、揺れた。
「………………………………………」
仁導…。
その一方、水色のツインテールに鮮やかな水色の着物を身に付けてあどけない可愛い顔をしているのだが、目付きがキッとしている14歳の女の子。朧月夢は、声を掛けた。
「そろそろ行かば(そろそろ行けば)ー?」
「すは、なんぢにやるぞ(おら。てめえにやんよ)」
すると、赤い着物を纏った細身で低身長の、ブロンドの髪を二つ結びに結えた女の子で、夢とは違った美人系の顔をしているが目付きがキッとしており、上品な女性の言葉遣いは一切使わず、口調はとても男勝りな赤(せき)は、狐の面を差し出した。
「………………………………………」
差し出された相手はそれを手に、装着した。
「シャハハ!いとつきづきしからずや(超似合うじゃねえか)!」
「行きておはせよ(行ってらっしゃい)」
「………………………………………」
布団の上から立ち上がり、歩いて襖を引いて部屋から出て行った。
「結末超楽しみ♪」
「人は本気よ?夢も見届くよ(彼女は本気よ?夢も見届けるわ)」
夜道を、提灯も無しで歩く雪の背後から聞こえる、歩く脚音。彼女はふと顔を向けると
「!!!!!!!!!!?」
斧を手にした黄色い着物を身に付け、狐の面を被ったブロンドの髪の女が近付いて来ている事に気付いた。
「きゃああああぁ!」
ダッと走った際、ドスッ!と、背中に斧が突き刺さった。
「ごぶっ!」
血を吹き出し、その場でドサッと、倒れてしまう。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
女は歩いて近付き、斧を抜いた。
「あぁ!」
雪は、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、顔を、向けた。
「鈴?鈴、なる(の)?」
「………………………………………」
そして、斧を首に振り下ろした。
翌日。
「いみじ(ひどい)」
色気のある顔をした胸の大きい高身長の女、大橋ミクは、口を手で塞ぎ動揺が隠しきれない。
「鬼賀乃仁導以外に、かのような。酷ゐ事が出来る人間が在るとは思ゑなゐ(こんな。酷い事が出来る人間が居るとは思えない)」
崗絛は、首が切断された女の子の前でしゃがみ、白い布を掛けてあげた。
「脱走したでござるとか(脱走したのか)?」
「そはあり得ず。脱走など、うまじ(それはあり得ません。脱走なんて、出来るはずがありません)」
「………………………………………」
仁導ではないなら(じゃないなら)。
ひい体何奴が(一体誰が)…。
寺子屋では、生徒たちが騒ついていた。
「寺子屋に来しに申し訳なけれど、犯人の捕まるまでは家にひかへたらなむ(寺子屋に来てくれたのに申し訳ないけど、犯人が捕まるまでは家で待機してて欲しい)さね」
珍しく尊が遅刻もしないで来れたのに、雪が何者かに襲われてしまい、生徒たちを帰らせる事にした。
「………………………………………」
一方で、緑色が掛かった黒髪の高身長で、性的魅力に溢れた色男である白鳥ナガレは、囲炉裏に火を焚べて暖を取っていた。ドンドンドンドン!
「?」
その時、戸をノックされた。
「開ゐてるぜ?勝手に入とは来られよ(開いてんぜ?勝手に入って来い)」
すると戸が開き、中に入った。
「久方ぶりでござる。ながれ殿(久々です。ナガレさん)」
「あぁ?」
顔を向けると、そこに立っていたのは尊だった。
「よぉ尊。久方ぶりじゃな(久々だな)?」
上体を起こし、彼は胡座をかいた。
「寺子屋は如何したで候(どぅーしたよ)?」
「そのままうりふたつお返ししんすで候。今また由々しき事態が起きて、ひい先ず屋敷にて待機するでござる事に成り申したのでござりまするよ(そのままそっくりお返ししますよ。今また事件が起きて、一先ず家で待機する事になったんですよ)」
「あぁ?また何奴か、殺させたとか(また誰か、×されたんか)?」
無責任な言葉だ。だが、彼はそれで今学校に来れていない。何故こうも軽く言えたのだろうか。すると尊はこう、口にした。
「安藤雪。安藤雪が、先日某かに殺させましたでござる(昨夜何者かに×されました)」
「あぁ?雪が?」
意外な人が×害され、ナガレは開いた口が閉じない。
「何故でござる(なんで)?」
「存知奉らずで候!とかく、待機してちょーだい下されとの事でござる(知りませんよ!とにかく、待機してて下さいとの事です)」
そう言い、家から出た。
「………………………………………」
それがし(俺)の居なゐ間に。
様々(色々)と。
起きてるんじゃ(だ)な?
その夜。ザアァッ。声をかき消す勢いで、雨が落ちて来た。斧を持った女は、家へと向かって歩いて行く。
「………………………………………」
ザバァ!
『!!!!!!!!!!?』
寺子屋の廊下を歩いていた時、自分は後ろから、タライに張った水を頭から掛けられた。
『御免。手滑りにけめり(ごめん。手が滑っちゃったみたい)』
振り返りみると、千華夏の姿が。
『掃除、しおけ(掃除、しておいてね)?』
『………………………………………』
不満だった。雑巾を手に、水浸しになった廊下を拭く。そんな中、千華夏は廊下をナガレと共に歩いていた。
『なし。ナガレ(ねえ。ナガレくん)』
いつに無く可愛い声を発し、彼女はすっかり、彼にめくるめく恋の炎に身を焦がしていた。
『今度、我ともろともに(私と一緒に)…』
その時、廊下を歩いていたナガレはふと、立ち止まった。
『鈴』
廊下を拭いている彼女の元へ来て声を掛けた。
『何やら、溢したでござるとか(なんか、溢したんか)?』
鈴は顔を向けると、こう口にした。
『転びけり(転んだんです)』
何をしようとしていたのかは分からないが、タライが落ちていて、しかも自分までも水浸しになっていた。
『ひひひ。さふ(そう)か』
子供のように無邪気な笑みを浮かべた彼はしゃがむと
『早う着替ゑて来られよ(早く着替えて来いよ)。風邪引くぜ?』
雑巾を奪い取り、拭き出した。
『安穏なり。我がせる事なれば、果てまで責めを持つ(大丈夫です。私がした事なので、最後まで責任を持ちます)』
決して言えなかった。不満は感じていたが、ぶっ掛けられたとは言えなかった。
『袖も汚れてるでないか(袖も汚れてんじゃねえか)』
『ナガレも汚るるぞ(ナガレさんも汚れますよ)?』
『貴様が汚らるるにて、それがしが汚れたでござる方が似合うで候(お前えが汚れるより、俺が汚れた方が似合うかんよ)』
千華夏は、とことん上手くいかなかった。下唇を噛み締め、心の地底にあった嫉妬が噴火する。
『………………………………………』
え許さず(許せない)!
いかでかの子ばかり(どうしてあの子だけ)!
優遇するぞ(優遇するのよ)!
暫くして寺子屋の縁側に座っていると
『鈴氏(ちゃん)』
尊は声を、掛けた。
『あのさぁ。先刻村にて、鬼賀乃仁導と歩ゐておったの、見掛けたんじゃ。仲良きの(この前村で、鬼賀乃仁導と歩いてたの、見掛けたんだ。仲、良いの)?』
どことなく、気になっていた。なので思い切って聞いてみた。鬼賀乃仁導と言えば、評判の悪い男だが、そんな人と歩いていたのでどんな関係かを知りたくなった。興味本位だった。
『仁導は、我がをひとなり(私の夫です)』
『………………………………………』
間が開き
『うえっ?うええええぇ!?仁!うええええぇ!?』
胸の中が煮え返るように動顚する。
『ななななななな!何故でござる(なんで)!?うえええぇ!?』
『さる、驚く事なりや(そんな、驚く事ですか)?』
『たまげるたまげる!いずれから輿入れしておったの(驚く驚く!いつから結婚してたの)?』
隣に座り、更に深掘りしていく。
『二月前なり。我が家に、日ごろ彼岸花を持ち来たまへるなり(2ヶ月前です。私の家に、いつも彼岸花を持って来て下さってたんです)』
出会った当時、鈴に彼岸花を持って来てくれていたようだ。だけどどうして彼岸花なのだろうか。女性に差し出す花と言えば、いつの時代も薔薇なのに、彼は彼岸花を持って来ていたらしい。
『彼岸花?何故でござる(なんで、彼岸花)?』
『我。花に一番恋しきは彼岸花なり(私。花の中で一番好きなのは彼岸花なんです)』
『へ~。意外。もっとかく、可愛ゐ花が好いておると思とはた(こう、可愛い花が好きだと思ってた)』
『彼岸花は、けしきに反してらうたき花なり。いづこに我が彼岸花の恋しきを知りしやは分からねど、仁導より貰ひし彼岸花が、わざとらうたく。仁導にも惹かれゆきけり。申し込みは、彼岸花の数に明らかになりき。なれば、あひせり(見た目に反して愛らしい花です。どこで私が彼岸花が好きなのを知ったかは分かりませんが、仁導さんから貰った彼岸花が、特に愛らしくて。仁導さんにも惹かれていったんです。プロポーズは、彼岸花の数で明らかになりました。なので、結婚をしました)』
『へ~』
申し込み(プロポーズ)は、彼岸花の数?
其れとは(それって)、なん本?
だが、夫の話しをする鈴のその端麗な横顔が、染まっていた。こんな照れ臭そうにする彼女を見るのは、初めてだった。
『………………………………………』
まことに(本当に)、大好き。
なんでござるな(なんだな)。
仁導の、事。
その夜。事件が起きた。
『………………………………………』
石段の下に倒れる自分は、頭から血が流れていた。石段の上に立つ雪は、震えていた。
『はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ』
遠のいて行く意識の中で、鈴は聞き逃さなかった。
『死にし(死んだの)?』
ザアァッ。雨はずっと、降り続ける。その一方で、鉄格子越しに大橋ミクが立ち、仁導に声を掛けた。
「鬼賀乃仁導。死罪のほどなり(死刑の時間だ)」
彼は、俯いたままこう、口にした。
「つゐに参ったか(ついに来たか)」
正室との再會を(妻との再会を)。
願とはおりきなれどな(願っていたんだがな)。
戸を、開けた。冷たい空気が流れており、囲炉裏に上がり歩いて部屋を見て回る。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
布団の中で疼くまる影は、震えていた。
雪死にき(雪が死んだ)!
よも(まさか)!
よも鈴が、生きて(まさか鈴が、生きて)…!
襖が、開いた。
「えっ!?」
自分しか居ない家で、勝手に襖が開くなどあり得ない。ガバッと上体を起こすと、狐の面を被った女が。
「きゃあああぁ!」
甲高い悲鳴を上げ、彼女は部屋の隅に急いで移動した。
「誰!?誰なる(誰なの)!?」
斧を手にしたまま、歩いて部屋に入った。
「来で(来ないで)!」
地袋の上に置いてあった習字を書く際に抑える石を手にして投げ付けた。それは見事に額に当たり、狐の面にヒビが入り、パキンと割れた。
「やうやう再会すべかりしに。なかなかな挨拶ぞ(やっと再会が出来たのに。随分な挨拶ね)?」
額から一筋の血を流し、顔が曝け出された。
「鈴!いかで(どうして)?」
「階段より突き落とししは雪なれど、命ぜられたりしは明らか。さらむ(階段から突き落としたのは雪だったけど、命じられてたのは明らか。そうでしょう)?大原芽衣」
芽衣の瞳が揺れ、震えが止まらない。
「我は、救はれき(私は、救われた)。村人の子に」
その晩、たまたま通り掛かった妊婦のように腹の突き出た元服を迎えた15歳の乙女であり、黒髪を一つで結んで、鮮やかな緑色の着物が良く似合うが、際立ったところのない平凡な顔立ちをしている、新島唯子に救われた。
『この人を助けたまへ(助けて下さい)!』
連れて来たのは、朧月邸が営む病院だ。そこに雇われている看護師である赤が対応をしてくれた。
『頭より血流したるならずや。病人置きてなんぢは帰れ(頭から血流してんじゃねえか。患者置いてお前は帰りな)?』
口の悪さは誰に対しても同じのようだ。そこへ、院長である夢の元に伝えに行った。彼女が目を覚ましたのは、1週間も前の事だった。
「御免たまへ!御免たまへ御免たまへ!御免たまへ!我、すがらに伊村恋しく!いと恋しくいと恋しく!されど鈴!おどろかばたより側に二人に居りて、楽しからむとし話せるなれば!鈴にはナガレの居るに!他の子にもいろひいだして!こすがりしなれば(ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい!私、ずっと伊村くんが好きで!大好きで大好きで!でも鈴ちゃん!気付いたら縁側に2人で座って、楽しそうに話してるんだもん!鈴ちゃんにはナガレくんが居るのに!他の子にもちょっかい出して!ずるいと思ったんだもん)!」
全ては、恋愛関係から成る嫉妬。それで、同い年組の仲の良い雪を使ってまでも、鈴を、陥れたかった。
「いろひ?我が?我には、をひと居る。あぢきなき嫉妬に我巻き込みしきみがえ許さず。よりて、死罪執行す(ちょっかい?私が?私には、夫が居る。つまらない嫉妬で私を巻き込んだあなたが許せない。よって、死刑執行します)」
斧を構え、刃先がキラリと光る。獲物を捉えて。
「ぎゃああああぁ!!」
芽衣は立ち上がり、走って逃げようとした彼女の髪を掴んで引っ張り、斧で首を、刎ねた。髪の毛を掴んでいた手を離せば首が落ち、赤い彼岸花は歩いて部屋から出、薔薇を求めて走って家から出て行った。
そんな中。仁導は警察長屋の裏庭のゴザにうつ伏せになって後ろ手にされて縄で縛り付けられていた。その隣に立つ湊は、刀を握っていた。彼は今、何を思っているのだろう。
「………………………………………」
生きろ。
鈴!
そして、刀を振り下ろした。スパン!
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
家の前に来た時、『売家』と言う張り紙が、貼られているのに気付いた。
さる(そんな)。
仁導いづこ行きし(どこ行ったの)?
「仁導。仁導ぉ!仁導おぉ!仁導おおおおぉー!!」
ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、戸をドンと拳で突き、泣き崩れた。
「仁導おぉ!仁導ーーーーーー!」
翌日。
鈴はふと、目を覚ました。
「………………………………………」
自分は布団の上におり、上体を起こした。襖が引かれ、彼女は顔を向けた。
「!!!!!!!!!!?」
「おはようでござる(おはようございます)」
声を掛けたのは湊だ。
「………………………………………」
「お主(あなた)、鬼賀乃仁導の」
「をひとを、ご存知なりや(夫を、ご存知なんですか)?」
鈴の瞳が揺れ、夫の事を知っている人だが、この人が夫とどんな関係を持っているのかは分からないので、直ぐに心を許す事は出来なかった。
「拙者は、鬼賀乃仁導をこの漆年間追とはおりき警察の者でござる(私は、鬼賀乃仁導をこの7年間追っていた警察の者です)」
彼が村の人間を食べたのは、つい最近ではない。自分と結婚をするよりももっと前に事件を起こしていた。
「鬼賀乃仁導が起こしたでござる由々しき事態。ご承知でござろうか(起こした事件。ご存知ですか)?」
それに対し、彼女はこう口にした。
「知れり(知ってます)」
「一大事の事を知とはゐて何ゆえに、輿入れを(事件の事を知っていて何故、結婚を)?」
「思へる以外に、あふよしやある?思ひたらずは、あひなど、せず。仁導はいづこにおはすや?逮捕されけりや(愛してる以外に、結婚する理由ってありますか?愛していなければ、結婚なんて、しません。仁導はどこにいらっしゃるんですか?逮捕されたんですか)?」
鈴は知らない。処刑された事を。
「會おりきゐ、でござろうか(会いたい、ですか)?」
処刑をされたのにどうやって会わせようとしているのだろうか。首を持って来ているのだろうか。湊は、そんな冷酷な人間ではない。なら、何故そう言ったのだろうか。
「会はばや!会ふまじきよしすずろになし!をひとに!をひとに、会はせたまへ(会いたいです!会いたくない理由なんかありません!夫に!夫に、会わせて下さい)!」
その時。襖が、開かれた。体を這って部屋に入って来た仁導が、目に入った。
「鈴」
「仁導!」
彼女は四つん這いになって近寄るなり、両脚が無い事に、気付いた。
「仁導!脚が…!」
「左様な事にて(そんな事より)、抱かせてくれ」
彼は腕を伸ばすと、鈴はギュッと抱き締め、女の子座りした。
「仁導…」
前髪の陰に隠れて表情を覆い、一筋の涙を、流した。
『………………………………………』
生きろ。
鈴!
そして、刀を振り下ろした。スパン!風を、切った。
『鬼賀乃。貴様は正室を、まことに殺したでござるとか(お前は妻を、本当に殺したのか)?』
人を喰ったこの男に対し、彼はある一つの疑問を、感じていたようだ。
『何ゆえにさふ(何故そう)聞く?』
『赤ゐ薔薇。赤ゐ薔薇は、正室そなりしがのなんであろう(赤い薔薇。赤い薔薇は、妻そのものなんだろう)?』
その時、仁導は顔を向けた。
『たまに、貴様に會ゐに来る女性との密談を聞ゐておりき。正室を真剣にて慕っておる事が、ひしひしと伝わとは参ったんじゃ。貴様は人を食べたが、正室に対するでござる愛を強く感じた。今一度聞く。貴様は、鬼賀乃鈴殿を、正室を殺したでござるとか(お前に会いに来る女性との会話を聞いていた。妻を本気で愛している事が、ひしひしと伝わって来たんだ。お前は人を食べたが、妻に対する愛を強く感じた。もう一度聞く。お前は、鬼賀乃鈴さんを、妻を殺したのか)?』
それに対し、仁導はこう口にした。
『正室は、生きておる。診療所に在る。拙者正室を深く、慕っておる(妻は、生きている。病院に居る。俺は妻を深く、愛している)!』
『………………………………………』
彼はその言葉を、信じた。
『三浦殿!倒れておる女性を発見候成り(三浦さん!倒れている女性を発見しました)!』
そこへ純也が走って来て報告した。その人物こそが、鈴だった。
「すがらに、会はまほしかりき(ずっと、会いたかった)」
「それがしもじゃ(俺もだ)。鈴」
「………………………………………」
すると湊は部屋から出ると、夫婦は口付けを、交わした。死刑が確定していた赤い薔薇と、眠りから覚めた彼岸花は、また再会し、愛し合う。
布団の上で美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体姿になって仰向けになる、ブロンドの短い髪の、一度見たら頭に残る蠱惑的な美貌の16歳の少女、愛道鈴の上に覆い被さるのは、筋肉で引き締まった51歳とは思えない程の肉体美を晒して、大きい男根を差し込んで子宮を何度も突き上げる、黒髪で、高身長のイケメンの風貌の主である男、鬼賀乃仁導だ。
『あぁっ!ん、はぁ!』
唾液を垂れ流し、なかなかお目にかかれない綺麗な形のほっそりとした美脚を両肩に掛け、両方の手でカップル繋ぎし、快楽の海に溺れて這い上がる事が出来ず、体がバラバラになるほど愛され、一度からだにこびりついた快感はどこにも出ていかない。
『ゔ、あぁ…………………ッ…はあぁ』
彼は、額から一筋の汗を流し、締め付けられたその快感にブルッと身震いをし、熱の魅力に抗えず、欲望を燃え上がらせどくどくと全身の血が滾り、我慢汁がビュクビュクと溢れ、妻を独占し、「所有」する。
『あぁっ!あっ!あっ!あっ!あっ!ああぁ!あぁん!ん、あぁ!』
元々が、誰もが満足の行く大きさであり、それが興奮して勃起する事によって更に人間離れした大きさになる。それで突き上げられているので、大いに体が満足する。
『思へ、り(愛し、てる)!仁導』
『それがしもお慕い垂き(俺も愛してる)』
互いに舌を出し、汚い音を立てて絡ませる。
『あぁ…………………ッ…!はぁ!』
あまりの快感にブルッと身震いをし、唾液を垂れ流してギッチギチに締め付けて離さない。
『ん、あぁ!んはあぁ!』
失神しそうな程のエクスタシーが体を駆け抜け、ビクビクと腰を痙攣させてブッシューーーーーーーーーッ!と、何メートルとも潮を吹き出し
『く………………………ッ…おぉ!』
腰を痙攣させ、多量の精を放つ。飛び散る程の多量の精だ。射精は力強く、雄々しく、精液はどこまでも濃密だった。きっとそれは子宮の奥まで到達したはずだ。あるいは更にその奥まで。それは実に非の打ち所のない射精。膣に射精された精子が駆け抜け、子宮へと到達する。そして、卵管を通り卵子を待つ。卵巣から排卵が起こる。精子と排卵をした卵子が、卵管膨大部で出会い、受精をする。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を通り、子宮内へ移動する。子宮に到達した受精卵は、子宮内膜に着床し、妊娠が成立する。
『んぅ!!』
その際に、余分の脂肪の無い痩せて凹んだ腹部がボコッ!と膨れ上がり、子宮に熱湯が注がれたように熱くなり
『はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ』
目眩に似た恍惚感が訪れ、すべてが終わったとき、次第に遠のいていく恍惚の中で女がブルッと、身震いをする。
『貴様(お前)が愛おしく。堪らなゐ』
まだビュクビュクと射精ており、繋がったまま彼は抱き締める。
『貴様のこの、美しき体躯の美術品ひいつひいつをもそれがしなりしがのでござる。貴様を深く慕っておる(お前のこの、美しい身体のパーツ一つ一つをも俺のものだ。お前を深く愛している)。鈴♡』
『我も恋し。思へり(私も好き。愛してる)仁導』
その頬に触れ、ムチュッと、唇に唇を、押し当てた。
「歳は幾つじゃ(いくつだ)?」
それを言ったのは、警察官である大浦湊だ。シルバーの髪が目立ったイケメンな風貌の38歳の男。
「壱漆でござる(17です)」
目の前に立つのは、深い緑色の衣を身に付けた伊村尊。身長が156センチ程しかなく、黒髪の17歳には見えない程童顔な男の子。
「壱漆か(17か)」
ふと、彼は牢屋に通じるドアの見張りをしている西宮崗絛を見た。鮮やかな水色の肩にかかるくらいの髪に、高身長で細身な上に筋肉で引き締められたその肉体美は、男も女も酔わせ、男が見ましても吸い付いてみたいほどの初々しい美形。だが、どこか変わっている一面がある。
「良きではござらぬか?壱漆なら(良いんじゃ無いかな?17なら)」
「鬼賀乃仁導が在るのは、奥の牢屋じゃ(居るのは、奥の牢屋だ)」
ドアを開けると薄暗い通路が続いており、鬼賀乃仁導と言う男が居る牢屋に繋がっている。彼は崗絛から提灯を受け取り、中に入って歩いて向かう。
「………………………………………」
鬼賀乃、仁導…。
風一つ無く、張り詰めた空気が漂う。奥まで行くと、地下に続く階段が。尊は、歩いて下がって行った。
「………………………………………」
うつけ者にさせても構わぬ(バカにされても構わない)。
拙者、拙者真剣にて(俺は、俺は本気で)!
見付け出したいでござる(見付け出したいんだ)!
階段を下がりきると、頑丈な鉄格子の向こう側で揺らめく影が。
「あああああぁ~。若ゐ、肉の匂ゐじゃ(若い、肉の匂いだ)♡」
この声の主こそ、鬼賀乃仁導と言う名の男の声。彼は提灯で照らすと、唾液を垂れ流して、2本の小刀で肩を貫かれてゴツゴツの岩肌のような壁に飾られている黒髪で、イケメンな風貌の男の姿が、目に入った。
「!!!!!!!!!!?」
両脚を切断されており、尊は、体中の血液が逆流するほどの恐怖に、身体が板のように硬直してしまう。
「何奴じゃ貴様は?見掛けなゐ面を致し候。さふか。飯の刻限か。ご馳走に有り付けられるでござるとはな。貴様はいずこの部位が美味ゐんじゃ?じっくりと味わとはやる(誰だお前は?見掛けない顔をしている。そうか。飯の時間か。ご馳走に有り付けられるとはな。お前はどこの部位が美味いんだ?じっくりと味わってやる)」
彼の食は、『人間』。一つの村の、人間と言う人間を食い散らかし、その上捕まえに来た警察をも食べてしまい、この男は人間として扱わられていなく、『鬼』として恐れられている凶悪犯。
「それがしを味わう前に聞ゐて所望致す(俺を味わう前に聞いて欲しい)!」
その時、尊は走り出すと、ガァン!と鉄格子に体をぶつける程の距離で喋り出す。
「鈴氏の!鈴氏の亡骸はいずこじゃ!?存じておるんであろう!?何ゆえに鈴氏を(鈴ちゃんの!鈴ちゃんの遺体はどこだ!?知ってるんだろう!?何故鈴ちゃんを)!」
その時だった。前に体を出せば、小刀が壁から外れてそのままドサッと前に、倒れたのだ。その際に小刀が深く突き刺さり、顔を向けた。
「!!!!!!!!!!?」
彼は、その場で腰を抜かし、女の子座りする。
「あぁ…………」
自力にて(で)!
自力にて(で)!
抜きやがった!
すると仁導は、体を這わせて近付き、鉄格子を掴んで上体を上げて腕を伸ばして尊のアゴをガッと、掴んだ。
「!!!!!!!!!!?」
「何ゆえに。何ゆえに鈴を、存じておる(何故。何故鈴を、知っている)?」
その目は、もはや人間ではなかった。獣のような目を、していた。
「拙者、鈴氏と同じ寺子屋に通う、筆子でござる(俺は、鈴ちゃんと同じ寺子屋に通う、生徒です)」
声を震るわし、そう口にした。
「鈴はそれがしなりしがのでござる!何奴にも渡さぬ(鈴は俺のものだ!誰にも渡さない)!」
指に力が入り、彼の顔が歪む。
「あ……………………ッ…がぁ!」
仁導はやはり(やっぱり)。
鈴氏と仲柄を、持とはた(鈴ちゃんと関係を、持ってた)。
ザアァッ。雨は、全てを押し流すほど凄まじく降り注ぐ。
「けふもナガレ、来たらずな(今日もナガレ、来てないな)?」
それを言ったのは奈良和美嘉だ。栗色のソバージュが毛先に掛けられた唇にさしている紅が良く似合う高身長の女。寺子屋の横に長いテーブルの前に敷かれた赤い座布団に座っており、その隣で同じ色の座布団に座る冴えないと言うか、大人しい、清楚系、だが、顔に対しての悪い印象はなく、どちらかと言えば美人系な顔をしている安藤雪の瞳が、揺れていた。
「………………………………………」
「ナガレ。鈴の事が恋しければ、衝撃こそ大きなれ(ナガレさん。鈴ちゃんの事が好きだったから、ショックが大きいんだよ)」
それを言ったのは友坂千鶴だ。栗色の髪を三つ編みにし、子供っぽい愛らしい顔をした女であり、その隣に座るのは双子の妹、千華夏。のほほんとした姉とは違い、性格は冷めていて、綺麗ではあるけれどそれほど印象的ともいえない女。
「………………………………………」
死なまほしきなど思ひたらざりき(死んで欲しいなんて思ってなかった)。
ただ我はすがらに(ただ私はずっと)。
ナガレが恋しければ(ナガレくんが好きだったから)。
その鬱憤にかの子に苛みせるされど(その鬱憤であの子に嫌がらせしてたけど)。
よも、死ににけるなど(まさか、死んじゃったなんて)。
誰も思はずよ(誰も思わないわよ)。
愛道鈴は、この学校の生徒であり、その、ナガレと呼ばれた男は、彼女の事が好きで、誰の目から見てもそのアピールが強かったので、知らない人は居ない。だから千華夏にとって彼女は、邪魔な存在だった。
「席に着くさね」
襖を開けて入って来たのは、長い黒髪は腰まであり、凛としていて目鼻立ちのきりっとした高身長の女、八坂薌だ。
「師。いまだ伊村と芽衣来たらず(先生。まだ伊村くんと芽衣が来てません)」
それを言ったのは雪だ。この学校の生徒である2人がまだ登校していない事を告げた。
「またかれら揃ひも揃ひて遅刻かい!今日こそは、遅刻常習犯にて逮捕してもらう(ま~たアイツら揃いも揃って遅刻かい!今日こそは、遅刻常習犯として逮捕してもらう)さね!」
そんな犯罪はありません。だが、芽衣と尊に関しては『遅刻のたけめい』と呼ばれており、同盟を組ませられている程、何度も何度も遅刻をしてくる。
一方、警察長谷では。
「ふふふ。鬼賀乃仁導に會おりきゐなぞ思うておる悪し趣味な子が在るもんじゃね(会いたいなんて思う悪趣味な子が居るもんだね)?」
それを言ったのは甲斐田純也だ。黒髪の爽やか系な、顔が整った美形の主であり、片方の前髪が長いのが特徴的な男であり
「この世には変わった子が沢山在る(居る)さね」
会話をしているのは八坂爻。栗色の髪のヤンチャ系な元服を迎えた男であり、姉が居る。
「とはいえなぜじゃ?鬼賀乃に會おりきゐなぞ思ったんであろう(でもどうして鬼賀乃に会いたいなんて思ったんだろう)?」
「愛道鈴て申す子が通っとる寺子屋の筆子らしきなれど、鈴氏が鬼賀乃と輿入れをしてちょーだい、良くその子に『旦那様』の話しをしておったさながらなんじゃ(愛道鈴て言う子が通ってる寺子屋の生徒らしいんだけど、鈴ちゃんが鬼賀乃と結婚をして、良くその子に『夫』の話しをしてたみたいなんだ)」
凶悪犯だけではない。自分の妻をも手を出した男だ。仁導のどこに惹かれたのかは知らないが、絶句してしまう話しだ。
「輿入れ(結婚)?鬼賀乃仁導と?」
「御意(はい)」
「もっと悪し(悪)趣味が居た」
会いたいとか、それ以上に仁導と結婚したい人がこの世に存在するとは。
「脅させたとか、真剣かは分からなゐでござるなれど、鬼賀乃仁導には、正室がおはすのでござりまするよ(脅されたのか、本気かは分からないですけど、鬼賀乃仁導には、妻がいらっしゃるんですよ)?」
「変じて(変わって)るなぁ」
そんな中尊は、恐怖を感じて階段の入り口付近に避難しており
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
湊は牢獄の中に入って刺股で首を押さえ付けていた。
「いかがやとはあの壁から抜け出したでござる(どうやってあの壁から抜け出したんだ)?」
「それがしに掛かるば容易ゐ事じゃ(俺に掛かれば容易い事だ)」
唾液を垂れ流しており、ニヤけていた。
「なにをしたでござるんじゃ(なにをしたんだ)!?」
怒鳴るように言い放つと、彼はこう口にした。
「拙者人間とはいえ物の怪とはいえなゐ。生を得た『生き物』じゃ。貴様どもに不可能な事を、拙者可能に出来る(俺は人間でも化け物でもない。生を得た『生き物』だ。お前たちに不可能な事を、俺は可能に出来る)」
改めて、鬼賀乃仁導の恐ろしさを知った。
一方で、学校の空気は、凍り付いていた。
「なんぢ何時間遅れきと思へるかな(あんた何時間遅れたと思ってるんだい)?」
薌の前で正座をするのは、あどけない愛らしい顔をしたスタイルの良い女、大原芽衣だ。かれこれ、1時間以上の遅刻。彼女は夜行性であり、朝がとても苦手。
「されど師(でも先生)!」
こんな状況であっても教師に対して口答えをする彼女は、自分の言い分も聞いて欲しかった。
「芽衣とてこころばみて(芽衣だって頑張って)!」
「言ひ訳はゆかしからずよさね!とく席に着け(言い訳は聞きたくないさね!とっとと席に着け)!」
「……………………え(は)い」
立ち上がり、雪と美嘉の間に座った。そして学校が終わり、尊は無断欠勤なので、明日、薌の逆鱗に触れる事になる。ザッザッザッザッザッザッ。彼女は、歩いて薄暗い階段を下がって行った。赤い薔薇を手にして。
「仁導」
仁導は、また壁に飾られており、今度は深く小刀が肩に突き刺さっていた。
「なんぢの恋しき薔薇(あんたの好きな薔薇)さね」
妻とあん団子も好きだが、実は赤い薔薇も好きで、結婚する前は良く花瓶に飾っていた。
「美しき。まるにて正室そなりしがのでござる(美しい。まるで妻そのものだ)」
「日ごろは、買ひて無かりきや(最近は、買って無かったのかい)?」
「それがしに取とは正室は、『薔薇』そなりしがのの存在。薔薇を買わござらぬても常に側にてひい輪咲ゐておりき(俺に取って妻は、『薔薇』そのものの存在。薔薇を買わなくても常に側で一輪咲いていた)」
「あはは!一輪ぞ。なんぢまこと、愛妻家かな(一輪ね。あんた本当、愛妻家だねぇ)」
人を愛したらとことん一途。浮気もしなければ不倫もしない。だがその愛が、異常なものに変わって行くのも、彼なりの愛情の一つ。
「早う、正室に會おりきゐ(早く、妻に会いたい)」
その言葉に、薌の瞳が、揺れた。
「………………………………………」
仁導…。
その一方、水色のツインテールに鮮やかな水色の着物を身に付けてあどけない可愛い顔をしているのだが、目付きがキッとしている14歳の女の子。朧月夢は、声を掛けた。
「そろそろ行かば(そろそろ行けば)ー?」
「すは、なんぢにやるぞ(おら。てめえにやんよ)」
すると、赤い着物を纏った細身で低身長の、ブロンドの髪を二つ結びに結えた女の子で、夢とは違った美人系の顔をしているが目付きがキッとしており、上品な女性の言葉遣いは一切使わず、口調はとても男勝りな赤(せき)は、狐の面を差し出した。
「………………………………………」
差し出された相手はそれを手に、装着した。
「シャハハ!いとつきづきしからずや(超似合うじゃねえか)!」
「行きておはせよ(行ってらっしゃい)」
「………………………………………」
布団の上から立ち上がり、歩いて襖を引いて部屋から出て行った。
「結末超楽しみ♪」
「人は本気よ?夢も見届くよ(彼女は本気よ?夢も見届けるわ)」
夜道を、提灯も無しで歩く雪の背後から聞こえる、歩く脚音。彼女はふと顔を向けると
「!!!!!!!!!!?」
斧を手にした黄色い着物を身に付け、狐の面を被ったブロンドの髪の女が近付いて来ている事に気付いた。
「きゃああああぁ!」
ダッと走った際、ドスッ!と、背中に斧が突き刺さった。
「ごぶっ!」
血を吹き出し、その場でドサッと、倒れてしまう。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
女は歩いて近付き、斧を抜いた。
「あぁ!」
雪は、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、顔を、向けた。
「鈴?鈴、なる(の)?」
「………………………………………」
そして、斧を首に振り下ろした。
翌日。
「いみじ(ひどい)」
色気のある顔をした胸の大きい高身長の女、大橋ミクは、口を手で塞ぎ動揺が隠しきれない。
「鬼賀乃仁導以外に、かのような。酷ゐ事が出来る人間が在るとは思ゑなゐ(こんな。酷い事が出来る人間が居るとは思えない)」
崗絛は、首が切断された女の子の前でしゃがみ、白い布を掛けてあげた。
「脱走したでござるとか(脱走したのか)?」
「そはあり得ず。脱走など、うまじ(それはあり得ません。脱走なんて、出来るはずがありません)」
「………………………………………」
仁導ではないなら(じゃないなら)。
ひい体何奴が(一体誰が)…。
寺子屋では、生徒たちが騒ついていた。
「寺子屋に来しに申し訳なけれど、犯人の捕まるまでは家にひかへたらなむ(寺子屋に来てくれたのに申し訳ないけど、犯人が捕まるまでは家で待機してて欲しい)さね」
珍しく尊が遅刻もしないで来れたのに、雪が何者かに襲われてしまい、生徒たちを帰らせる事にした。
「………………………………………」
一方で、緑色が掛かった黒髪の高身長で、性的魅力に溢れた色男である白鳥ナガレは、囲炉裏に火を焚べて暖を取っていた。ドンドンドンドン!
「?」
その時、戸をノックされた。
「開ゐてるぜ?勝手に入とは来られよ(開いてんぜ?勝手に入って来い)」
すると戸が開き、中に入った。
「久方ぶりでござる。ながれ殿(久々です。ナガレさん)」
「あぁ?」
顔を向けると、そこに立っていたのは尊だった。
「よぉ尊。久方ぶりじゃな(久々だな)?」
上体を起こし、彼は胡座をかいた。
「寺子屋は如何したで候(どぅーしたよ)?」
「そのままうりふたつお返ししんすで候。今また由々しき事態が起きて、ひい先ず屋敷にて待機するでござる事に成り申したのでござりまするよ(そのままそっくりお返ししますよ。今また事件が起きて、一先ず家で待機する事になったんですよ)」
「あぁ?また何奴か、殺させたとか(また誰か、×されたんか)?」
無責任な言葉だ。だが、彼はそれで今学校に来れていない。何故こうも軽く言えたのだろうか。すると尊はこう、口にした。
「安藤雪。安藤雪が、先日某かに殺させましたでござる(昨夜何者かに×されました)」
「あぁ?雪が?」
意外な人が×害され、ナガレは開いた口が閉じない。
「何故でござる(なんで)?」
「存知奉らずで候!とかく、待機してちょーだい下されとの事でござる(知りませんよ!とにかく、待機してて下さいとの事です)」
そう言い、家から出た。
「………………………………………」
それがし(俺)の居なゐ間に。
様々(色々)と。
起きてるんじゃ(だ)な?
その夜。ザアァッ。声をかき消す勢いで、雨が落ちて来た。斧を持った女は、家へと向かって歩いて行く。
「………………………………………」
ザバァ!
『!!!!!!!!!!?』
寺子屋の廊下を歩いていた時、自分は後ろから、タライに張った水を頭から掛けられた。
『御免。手滑りにけめり(ごめん。手が滑っちゃったみたい)』
振り返りみると、千華夏の姿が。
『掃除、しおけ(掃除、しておいてね)?』
『………………………………………』
不満だった。雑巾を手に、水浸しになった廊下を拭く。そんな中、千華夏は廊下をナガレと共に歩いていた。
『なし。ナガレ(ねえ。ナガレくん)』
いつに無く可愛い声を発し、彼女はすっかり、彼にめくるめく恋の炎に身を焦がしていた。
『今度、我ともろともに(私と一緒に)…』
その時、廊下を歩いていたナガレはふと、立ち止まった。
『鈴』
廊下を拭いている彼女の元へ来て声を掛けた。
『何やら、溢したでござるとか(なんか、溢したんか)?』
鈴は顔を向けると、こう口にした。
『転びけり(転んだんです)』
何をしようとしていたのかは分からないが、タライが落ちていて、しかも自分までも水浸しになっていた。
『ひひひ。さふ(そう)か』
子供のように無邪気な笑みを浮かべた彼はしゃがむと
『早う着替ゑて来られよ(早く着替えて来いよ)。風邪引くぜ?』
雑巾を奪い取り、拭き出した。
『安穏なり。我がせる事なれば、果てまで責めを持つ(大丈夫です。私がした事なので、最後まで責任を持ちます)』
決して言えなかった。不満は感じていたが、ぶっ掛けられたとは言えなかった。
『袖も汚れてるでないか(袖も汚れてんじゃねえか)』
『ナガレも汚るるぞ(ナガレさんも汚れますよ)?』
『貴様が汚らるるにて、それがしが汚れたでござる方が似合うで候(お前えが汚れるより、俺が汚れた方が似合うかんよ)』
千華夏は、とことん上手くいかなかった。下唇を噛み締め、心の地底にあった嫉妬が噴火する。
『………………………………………』
え許さず(許せない)!
いかでかの子ばかり(どうしてあの子だけ)!
優遇するぞ(優遇するのよ)!
暫くして寺子屋の縁側に座っていると
『鈴氏(ちゃん)』
尊は声を、掛けた。
『あのさぁ。先刻村にて、鬼賀乃仁導と歩ゐておったの、見掛けたんじゃ。仲良きの(この前村で、鬼賀乃仁導と歩いてたの、見掛けたんだ。仲、良いの)?』
どことなく、気になっていた。なので思い切って聞いてみた。鬼賀乃仁導と言えば、評判の悪い男だが、そんな人と歩いていたのでどんな関係かを知りたくなった。興味本位だった。
『仁導は、我がをひとなり(私の夫です)』
『………………………………………』
間が開き
『うえっ?うええええぇ!?仁!うええええぇ!?』
胸の中が煮え返るように動顚する。
『ななななななな!何故でござる(なんで)!?うえええぇ!?』
『さる、驚く事なりや(そんな、驚く事ですか)?』
『たまげるたまげる!いずれから輿入れしておったの(驚く驚く!いつから結婚してたの)?』
隣に座り、更に深掘りしていく。
『二月前なり。我が家に、日ごろ彼岸花を持ち来たまへるなり(2ヶ月前です。私の家に、いつも彼岸花を持って来て下さってたんです)』
出会った当時、鈴に彼岸花を持って来てくれていたようだ。だけどどうして彼岸花なのだろうか。女性に差し出す花と言えば、いつの時代も薔薇なのに、彼は彼岸花を持って来ていたらしい。
『彼岸花?何故でござる(なんで、彼岸花)?』
『我。花に一番恋しきは彼岸花なり(私。花の中で一番好きなのは彼岸花なんです)』
『へ~。意外。もっとかく、可愛ゐ花が好いておると思とはた(こう、可愛い花が好きだと思ってた)』
『彼岸花は、けしきに反してらうたき花なり。いづこに我が彼岸花の恋しきを知りしやは分からねど、仁導より貰ひし彼岸花が、わざとらうたく。仁導にも惹かれゆきけり。申し込みは、彼岸花の数に明らかになりき。なれば、あひせり(見た目に反して愛らしい花です。どこで私が彼岸花が好きなのを知ったかは分かりませんが、仁導さんから貰った彼岸花が、特に愛らしくて。仁導さんにも惹かれていったんです。プロポーズは、彼岸花の数で明らかになりました。なので、結婚をしました)』
『へ~』
申し込み(プロポーズ)は、彼岸花の数?
其れとは(それって)、なん本?
だが、夫の話しをする鈴のその端麗な横顔が、染まっていた。こんな照れ臭そうにする彼女を見るのは、初めてだった。
『………………………………………』
まことに(本当に)、大好き。
なんでござるな(なんだな)。
仁導の、事。
その夜。事件が起きた。
『………………………………………』
石段の下に倒れる自分は、頭から血が流れていた。石段の上に立つ雪は、震えていた。
『はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ』
遠のいて行く意識の中で、鈴は聞き逃さなかった。
『死にし(死んだの)?』
ザアァッ。雨はずっと、降り続ける。その一方で、鉄格子越しに大橋ミクが立ち、仁導に声を掛けた。
「鬼賀乃仁導。死罪のほどなり(死刑の時間だ)」
彼は、俯いたままこう、口にした。
「つゐに参ったか(ついに来たか)」
正室との再會を(妻との再会を)。
願とはおりきなれどな(願っていたんだがな)。
戸を、開けた。冷たい空気が流れており、囲炉裏に上がり歩いて部屋を見て回る。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
布団の中で疼くまる影は、震えていた。
雪死にき(雪が死んだ)!
よも(まさか)!
よも鈴が、生きて(まさか鈴が、生きて)…!
襖が、開いた。
「えっ!?」
自分しか居ない家で、勝手に襖が開くなどあり得ない。ガバッと上体を起こすと、狐の面を被った女が。
「きゃあああぁ!」
甲高い悲鳴を上げ、彼女は部屋の隅に急いで移動した。
「誰!?誰なる(誰なの)!?」
斧を手にしたまま、歩いて部屋に入った。
「来で(来ないで)!」
地袋の上に置いてあった習字を書く際に抑える石を手にして投げ付けた。それは見事に額に当たり、狐の面にヒビが入り、パキンと割れた。
「やうやう再会すべかりしに。なかなかな挨拶ぞ(やっと再会が出来たのに。随分な挨拶ね)?」
額から一筋の血を流し、顔が曝け出された。
「鈴!いかで(どうして)?」
「階段より突き落とししは雪なれど、命ぜられたりしは明らか。さらむ(階段から突き落としたのは雪だったけど、命じられてたのは明らか。そうでしょう)?大原芽衣」
芽衣の瞳が揺れ、震えが止まらない。
「我は、救はれき(私は、救われた)。村人の子に」
その晩、たまたま通り掛かった妊婦のように腹の突き出た元服を迎えた15歳の乙女であり、黒髪を一つで結んで、鮮やかな緑色の着物が良く似合うが、際立ったところのない平凡な顔立ちをしている、新島唯子に救われた。
『この人を助けたまへ(助けて下さい)!』
連れて来たのは、朧月邸が営む病院だ。そこに雇われている看護師である赤が対応をしてくれた。
『頭より血流したるならずや。病人置きてなんぢは帰れ(頭から血流してんじゃねえか。患者置いてお前は帰りな)?』
口の悪さは誰に対しても同じのようだ。そこへ、院長である夢の元に伝えに行った。彼女が目を覚ましたのは、1週間も前の事だった。
「御免たまへ!御免たまへ御免たまへ!御免たまへ!我、すがらに伊村恋しく!いと恋しくいと恋しく!されど鈴!おどろかばたより側に二人に居りて、楽しからむとし話せるなれば!鈴にはナガレの居るに!他の子にもいろひいだして!こすがりしなれば(ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい!私、ずっと伊村くんが好きで!大好きで大好きで!でも鈴ちゃん!気付いたら縁側に2人で座って、楽しそうに話してるんだもん!鈴ちゃんにはナガレくんが居るのに!他の子にもちょっかい出して!ずるいと思ったんだもん)!」
全ては、恋愛関係から成る嫉妬。それで、同い年組の仲の良い雪を使ってまでも、鈴を、陥れたかった。
「いろひ?我が?我には、をひと居る。あぢきなき嫉妬に我巻き込みしきみがえ許さず。よりて、死罪執行す(ちょっかい?私が?私には、夫が居る。つまらない嫉妬で私を巻き込んだあなたが許せない。よって、死刑執行します)」
斧を構え、刃先がキラリと光る。獲物を捉えて。
「ぎゃああああぁ!!」
芽衣は立ち上がり、走って逃げようとした彼女の髪を掴んで引っ張り、斧で首を、刎ねた。髪の毛を掴んでいた手を離せば首が落ち、赤い彼岸花は歩いて部屋から出、薔薇を求めて走って家から出て行った。
そんな中。仁導は警察長屋の裏庭のゴザにうつ伏せになって後ろ手にされて縄で縛り付けられていた。その隣に立つ湊は、刀を握っていた。彼は今、何を思っているのだろう。
「………………………………………」
生きろ。
鈴!
そして、刀を振り下ろした。スパン!
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
家の前に来た時、『売家』と言う張り紙が、貼られているのに気付いた。
さる(そんな)。
仁導いづこ行きし(どこ行ったの)?
「仁導。仁導ぉ!仁導おぉ!仁導おおおおぉー!!」
ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、戸をドンと拳で突き、泣き崩れた。
「仁導おぉ!仁導ーーーーーー!」
翌日。
鈴はふと、目を覚ました。
「………………………………………」
自分は布団の上におり、上体を起こした。襖が引かれ、彼女は顔を向けた。
「!!!!!!!!!!?」
「おはようでござる(おはようございます)」
声を掛けたのは湊だ。
「………………………………………」
「お主(あなた)、鬼賀乃仁導の」
「をひとを、ご存知なりや(夫を、ご存知なんですか)?」
鈴の瞳が揺れ、夫の事を知っている人だが、この人が夫とどんな関係を持っているのかは分からないので、直ぐに心を許す事は出来なかった。
「拙者は、鬼賀乃仁導をこの漆年間追とはおりき警察の者でござる(私は、鬼賀乃仁導をこの7年間追っていた警察の者です)」
彼が村の人間を食べたのは、つい最近ではない。自分と結婚をするよりももっと前に事件を起こしていた。
「鬼賀乃仁導が起こしたでござる由々しき事態。ご承知でござろうか(起こした事件。ご存知ですか)?」
それに対し、彼女はこう口にした。
「知れり(知ってます)」
「一大事の事を知とはゐて何ゆえに、輿入れを(事件の事を知っていて何故、結婚を)?」
「思へる以外に、あふよしやある?思ひたらずは、あひなど、せず。仁導はいづこにおはすや?逮捕されけりや(愛してる以外に、結婚する理由ってありますか?愛していなければ、結婚なんて、しません。仁導はどこにいらっしゃるんですか?逮捕されたんですか)?」
鈴は知らない。処刑された事を。
「會おりきゐ、でござろうか(会いたい、ですか)?」
処刑をされたのにどうやって会わせようとしているのだろうか。首を持って来ているのだろうか。湊は、そんな冷酷な人間ではない。なら、何故そう言ったのだろうか。
「会はばや!会ふまじきよしすずろになし!をひとに!をひとに、会はせたまへ(会いたいです!会いたくない理由なんかありません!夫に!夫に、会わせて下さい)!」
その時。襖が、開かれた。体を這って部屋に入って来た仁導が、目に入った。
「鈴」
「仁導!」
彼女は四つん這いになって近寄るなり、両脚が無い事に、気付いた。
「仁導!脚が…!」
「左様な事にて(そんな事より)、抱かせてくれ」
彼は腕を伸ばすと、鈴はギュッと抱き締め、女の子座りした。
「仁導…」
前髪の陰に隠れて表情を覆い、一筋の涙を、流した。
『………………………………………』
生きろ。
鈴!
そして、刀を振り下ろした。スパン!風を、切った。
『鬼賀乃。貴様は正室を、まことに殺したでござるとか(お前は妻を、本当に殺したのか)?』
人を喰ったこの男に対し、彼はある一つの疑問を、感じていたようだ。
『何ゆえにさふ(何故そう)聞く?』
『赤ゐ薔薇。赤ゐ薔薇は、正室そなりしがのなんであろう(赤い薔薇。赤い薔薇は、妻そのものなんだろう)?』
その時、仁導は顔を向けた。
『たまに、貴様に會ゐに来る女性との密談を聞ゐておりき。正室を真剣にて慕っておる事が、ひしひしと伝わとは参ったんじゃ。貴様は人を食べたが、正室に対するでござる愛を強く感じた。今一度聞く。貴様は、鬼賀乃鈴殿を、正室を殺したでござるとか(お前に会いに来る女性との会話を聞いていた。妻を本気で愛している事が、ひしひしと伝わって来たんだ。お前は人を食べたが、妻に対する愛を強く感じた。もう一度聞く。お前は、鬼賀乃鈴さんを、妻を殺したのか)?』
それに対し、仁導はこう口にした。
『正室は、生きておる。診療所に在る。拙者正室を深く、慕っておる(妻は、生きている。病院に居る。俺は妻を深く、愛している)!』
『………………………………………』
彼はその言葉を、信じた。
『三浦殿!倒れておる女性を発見候成り(三浦さん!倒れている女性を発見しました)!』
そこへ純也が走って来て報告した。その人物こそが、鈴だった。
「すがらに、会はまほしかりき(ずっと、会いたかった)」
「それがしもじゃ(俺もだ)。鈴」
「………………………………………」
すると湊は部屋から出ると、夫婦は口付けを、交わした。死刑が確定していた赤い薔薇と、眠りから覚めた彼岸花は、また再会し、愛し合う。
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