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夫婦のばらつき

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「小豆あずき殿は、誠に変わった子じゃ(小豆あずきは、本当に変わった子だ)」

それを言ったのは鬼賀乃だ。ベンチのような椅子に赤い布が敷かれたその上に腰を掛けて、串に刺さった笹団子を食べる。

「左様でござろうか?(そうだろうか?)」

その隣に腰を掛ける小豆あずきと呼ばれたソイツは、マナー違反にも胡座をかいており、上半身を揺さぶって話しを聞く。

「初参上の作品にて、せっしゃくずな役者として出しめてもらったでござるが、初参上にてあれは無かったんでないのか?(初登場の作品で、俺はクズなキャラとして出させてもらったが、初登場であれは無かったんじゃないのか?)」

「其れは作者に対す不満でござろうかな?其れとも何ゆえに小豆あずきは新役者をしたためると悪しき人になり申してしまうとかと申す愚痴でござるか?同志には必ず敵が現れて、敵の前には必ず敵が現らるるもとでござる。同志と同志の話しをしたためても面白くござらんでござろう?(それは作者に対する不満ですかな?それとも何故小豆あずきは新キャラを書くと悪い人になってしまうのかと言う愚痴ですか?味方には必ず敵が現れて、敵の前には必ず敵が現れるものです。味方と味方の話しを書いても面白く無いでしょう?)」

「もっと良き設定があったでござるであろうが!前作を読んじゃ人どもに『こやつろりこんでござった』と思われては敵わん!卒爾(そつじ)出させたと思ゐきや斯様な役者として終わらせおって!貴様に書かるる作品の新役者は皆の衆あな申す道を辿る役者御意なゐであろう?こたびは良き役者として出さなゐと斬り刻むぞ!(もっと良い設定があっただろうが!前作を読んだ人たちに『こいつロリコンだった』と思われては敵わん!突然出されたと思いきやあんなキャラとして終わらせやがって!お前に書かれる作品の新キャラは皆ああ言う道を辿るキャラはいないだろう?今回は良いキャラとして出さないと斬り刻むぞ!)」

「かたじけない。こたびは良き役者としてちょーだい書き候(すいません。今回は良いキャラとして書きます)」

しんしんと粉雪が音もなく降り続ける。笠を着用して黒い着物を身に付けて歩く、ブロンドの短い髪の女。その前から歩いて来るのは、この街では目立ったオレンジ色の着物を身に付けており、黒髪の、童顔で低身長な青年がふらふらしていた。

「うぅ…」

ドサッと突然倒れたものだから、女は駆け付けて声を掛けた。

「おゐ!平気か?青年!しかとしろ!青年!(おい!平気か?お主。しっかりしろ!お主!)」

肩を掴んで揺さぶるなり、女の腕を掴んでこう、口にした。

「食べ物を、恵みて下され(食べ物を、恵んで下さい)」

囲炉裏に胡座をかいて座る緑色が掛かった黒髪の高身長で、性的魅力に溢れた色男であるナガレは、薪に火を焚べて暖を取っていた。

「あんた!あんた!」

「?」

その声に反応して立ち上がり、戸を開けた。

「鈴!」

それはブロンドの髪の女であり、肩を貸している男は空腹のあまり、直ぐにでも倒れそうになっていた。

「如何したんじゃ!?青年平気か!?(どうしたんだ!?青年平気か!?)」

「うぅ」

顔を向けるなり、こう口にした。

「食べ物を、恵みて下され(食べ物を、恵んで下さい)」

囲炉裏に上がって残り物だが、雑炊にがっつく。その、がっつき振りを見て鈴の瞳が揺れ、彼はお猪口で日本酒を飲みながらニヤニヤする。

「食ゑ食ゑ!にはんにはん食ゑ!青年(食え食え!じゃんじゃん食え!青年!)」

「美味ゐ!美味ゐ!美味ゐ!(美味い!美味い!美味い!)」

ガツガツガツガツ食い、胃袋が背中にくっ付くほど腹が減っていたのでそこに詰め込む。

「はぁ」

やがて、満腹になった。腹部が膨れ上がっているので満足したようだ。

「感謝しんす!美味でござったでござる!まことに助かりましたでござる!誠、お主者夫婦(めおと)に感謝しんす!(感謝します!美味しかったです!本当に助かりました!本当、あなた方夫婦に感謝します!)」

「良い良い!良かった良かった(良いよ良いよ!良かった良かった)」

「何ぞあったでござるか?(何があったんですか?)」

「あぁ~」

それに関しては濁らせた。何があったのかは口にせず、瞳が揺れ俯く。

「青年名は?(青年名前は?)」

「伊村。伊村尊(たける)で申す(伊村。伊村尊です)」

「幾つ?」

「拙者、弐十八でございます」

「弐十八!?」

あまりにも童顔だった為に、目を見張る夫婦は驚愕が隠せない。

「まぁ。何ぞあったでござるか分からなゐなれど、けふは泊まとははせ参じなで候。布団も湯もあるでござるから(まぁ。何があったか分からないけど、今日は泊まって行きなよ。布団も風呂もあるから)」

その、優しい言葉に、尊の瞳が揺れ一筋の涙を流し

「旦那様!感謝しんす!(旦那!感謝します!)」

頭を下げ、床に付くほどの感謝をする。

「鈴。湯に入れて上げろ(風呂に入れて上げろ)」

「はい」

立ち上がり、彼に話し掛ける。

「尊殿。案内つかまつる(案内致す)」

「感謝しんす!(感謝します!)」

そして尊も立ち上がって人妻に付いていく。ナガレは、クイッと酒を飲む。五右衞門風呂に入って心も体もリラックスし、今日の疲れを癒す。やがて、彼は布団の上で仰向けになって眠る。相当疲れていたんだろう。口を開けて眠る。襖を閉めた鈴は、囲炉裏に胡座をかいて座る夫に話し掛けた。

「床に就いたぞ(寝たぞ)」

「何ぞあったでござるであろうなぁ(何があったんだろうな?)」

「分からぬ。分からぬが、相当疲れておりきのは確かじゃ(分からぬ。分からぬが、相当疲れていたのは確かだ)」

空腹で倒れたあの男に、いったい何があったのか。想像も付かない。

「鈴。来られよ(来い)」

「?」

彼女は歩いて近付くなり、胡座をかいているその膝をポンポンと叩けば、彼女は座るなり、キスをした際に舌を差し込んで絡ませ

「んぅ」

そのまま押し倒す。

「ん……………………ッ…んぅ」

頬を染め、ヌルッと離れれば、舌と舌とで唾液が繋がり合う。

「客人が来ておるのに(客人が来ているのに)」

瞳を揺らし、ドキッドキッと鼓動する。

「客人は寝ておる。心配御無用じゃ。せむ。鈴(寝ている。大丈夫だ。しよう。鈴)」

ザアァッ。雨が絶え間なく街を包むように降る。着物を脱いで美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体姿になる彼女の、なかなかお目に掛かれない綺麗な形のほっそりした片方の脚を肩に掛けて人並み外れて大きな男根を差し込んで出し入れさせる。声を押し殺し、あまりの快感に愛液が糸を引き、唾液を垂れ流す妻の口に舌を差し込んで絡ませて塞ぐ。締め付けられたナガレはゾクゾクし、唾液を垂れ流してその快感にブルッと身震いをする。妻は、背中と脇に腕を回して抱き、腰を振る。

「あぁ…………………ッ…ア……!」

失神しそうな程のエクスタシーが体を駆け抜けて腰を痙攣させて夫に抱かれて潮を吹き出し

「おぉっ!ぐ、おおぉ!!」

腰を痙攣させ、多量の精を放った。それは辺りに飛び散る程の多量だ。射精は力強く、雄々しく、精液はどこまでも濃密だった。きっとそれは子宮の奥まで到達したはずだ。あるいは更にその奥まで。それは実に非の打ち所のない射精だった。そして、卵管を通り卵子を待ち、卵巣から排卵が起こる。精子と排卵をした卵子が、卵管膨大部で出会い、受精をする。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を通り、子宮内へ移動する。子宮に到達した受精卵は、子宮内膜に着床し、妊娠が成立する。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

「はぁはぁ」

すべてが終わったとき、次第に遠のいていく恍惚の中で女がブルッと、身震いをした。やがて、互いに五右衛門風呂に浸かる。彼の膝の上に向き合って座る彼女は抱き締めており、彼は瑞々しい貝殻骨の浮いて見える綺麗な背中に腕を回して抱き、お猪口に注いだ日本酒を飲む。

「あんた。酒も程々にしてちょーだい(酒も程々にして)」

「何ゆえに?(何故?)」

笑みを浮かべ、抱いていた妻のアゴを掴んで見詰める。

「飲み過ぎ」

「それがしの酒好きを是非に及ばぬ訳にはござらんであろう?(俺の酒好きを知らない訳じゃ無いだろう?)」

「酔った勢ゐにて抱かるたのが嫌でござった(酔った勢いで抱かれたのが嫌だった)」

自分が帰って来てからもずっと彼は飲んでいた。実際、飲んでいる夫が好きじゃなかった。

「外に出るのはそれがしが酔っとるからか?(外に出るのは俺が酔ってるからか?)」

「否!あんた無しにては生きられぬもの。其れは否(違う。あんた無しでは生きられないもの。それは違う)」

「では何ゆえに何時も、外に出る?(じゃあ何故いつも、外に出る?)」

「…………酔とはなゐあんたが好いておる。お慕い垂き。じゃから誠は、酔とはなゐあんたと子作りがしたかったでござる。酔った勢ゐにてけふもあんたに抱かるた。普段外に出すあんたが、けふは中にて出したでござる。わらしが生まれても、それがしが妊娠しても、酔うとか?(…………酔ってないあんたが好きだ。愛してる。だから本当は、酔ってないあんたと子作りがしたかった。酔った勢いで今日もあんたに抱かれた。普段外に出すあんたが、今日は中で出した。子供が生まれても、私が妊娠しても、酔うのか?)」

「………………………………………」

何も、言い返せなかった。自分がアルコール中毒なのは認めている。外に出るのは、酒ばかり飲む自分と居たく無いからなのかもしれない。それも分かっている。結婚した当時は、酒を飲まなかった自分が、飲むようになってから、妻が少しずつ自分から気持ちが離れていっているのも知っている。

「あんたが好いておる。お慕い垂き。少しとはいえ良きから、酒を控ゑてくれ(あんたが好きだ。愛してる。少しでも良いから、酒を控えてくれ)」

「………………………………………」

酒を摂るか、妻を取るか。この2択しか無い自分は、アルコール中毒者であり、妻を愛しているのにも変わりない。だが、その選択を迫られた時、何も言えなかった。

翌日。

「おはようでござる!すっかり、御身も達者になりましたでござる(おはようございます!すっかり、体も元気になりました)」

尊は目覚め、すっかり元気になったようだ。

「其れは良かった。御身が達者だがひい番じゃ!(それは良かった。体が元気なのが一番だ!)」

ナガレは囲炉裏に胡座をかいて座っており、鈴はまだ横たわって眠っていた。

「所にて、旦那様。酒は好いておりますか?(所で、旦那。酒は好きですか?)」

「あぁ。酒は毎日飲みてるが、其れがいかがさせた?(酒は毎日飲んでるが、それがどうされた?)」

「実は、それがし酒中毒者にてあとは、正室に追ゐ出させたみてす(実は、私アルコール中毒者であって、妻に追い出されたんです)」

その時、彼は自分と同じアルコール中毒者である尊を目に、目を見張り瞳が揺れる。

「お主が!?酒中毒者!?飲めなささふに見ゑるが、酒中毒者だか(君が!?アルコール中毒者!?飲めなさそうに見えるが、アルコール中毒者なのか)」

「はい」

すると彼は座り、俯く。

「正室の夢から、選択を迫られたでござる。酒か、己か。どっちをお慕い垂きんであると。ござるが、酒を止める事がござらぬて、其れにて正室と私闘になり、追ゐ出さされてしもうて。後悔しておるみてす。酒を止めらば、正室に手放されるでござる事は無かったみてす。酒を止められぬのみて、正室に捨てられたでござるみてす!口惜しき!かのような事になると思とはも無かったみてす!(妻の夢から、選択を迫られたんです。酒か、自分か。どっちを愛してるんだと。ですが、酒を止める事が出来なくて、それで妻と喧嘩になり、追い出されたんです。後悔してるんです。酒を止めれば、妻に手放される事は無かったんです。酒を止められないだけで、妻に捨てられたんです!情けない!こんな事になると思っても無かったんです!)」

ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、事実を語った。アルコールは、人を変える。それが、人生を変える事になるとは思っても無かった。だが、酒を止めるきっかけがなかった為彼は飲み続けていた結果、愛する妻から追い出されてしまったようだ。ナガレはそれを聞き、瞳を揺らして一筋の汗を流す。

「………………………………………」

恐ろしい。昨日、迫られた選択だ。彼は、その結果を招いた夫婦喧嘩に、ハッとされた。ふと、妻の鈴を見た。彼女は横たわって寝ており、その頭の上に、手を乗せた。

鈴…。

やがて、尊と共に家に向かった。謝罪の為だ。

「あなおそろし(怖い)」

彼は、戸の前で震えてしまう。

「男であろう?腹を括れ。家内に謝るんじゃ(男だろう?腹を括れ。奥さんに謝るんだ)」

「いやはや左様な勇気がござったら昨夜分謝とは屋敷に入れしめてもらとは候!(いやそんな勇気があったら昨夜謝って家に入れさせてもらってます!)」

「騒ぐな!近所迷惑千万であろうが!(騒ぐな!近所迷惑だろうが!)」

ガタン!と、戸を開けられた際に、長い水色の髪をツインテールにした、鮮やかな水色の着物を身に付けた女が出て来た。

「たわけ!(うるさい!)」

気付いたらナガレは消えており、尊はわたわたしていた。

「尊…」

その時、彼はバッ!と、頭を下げた。

「夢!面目次第もござらん!それがしが悪しかった!ひい晩存念てたでござるよ!それがし、酒止めるで候!夢をお慕い垂きから!夢に愛されるでござるごとくまた壱から頑張るから!許してちょーだいくれ!夢!(夢ちゃんごめん!俺が悪かった!一晩考えてたよ!俺、酒止めるよ!夢ちゃんを愛してるから!夢ちゃんに愛されるようにまた1から頑張るから!許してくれ!夢ちゃん!)」

すると彼女の瞳が揺れ、ギュッと、抱き締めた。

「よくぞお帰りになられた。追ゐ出してかたじけない。それがしもお慕い垂きで候(おかえり。追い出してごめんね?私も愛してるよ)」

仲直りが、出来た。彼は最後まで見届け、家に帰って行った。

「いずことはたのか?(どこ行ってたんですか?)」

帰った時には鈴が起きており、彼女は心配をしていたようだ。

「魂配掛けてすまん。鈴。お主の為に酒を止める。弐人にて、愛し合とはゐかく(心配掛けてすまん。鈴。お前の為に酒を止める。2人で、愛し合っていこう)」

鈴の瞳が揺れ、笑みを浮かべた。アルコール摂取しない為に、彼は日々の努力をした。たまに飲みたくて飲みたくて、堪らない時があるが、その代わりに自分の好きな事をしてその欲求を抑えた。簡単ではなかった。毎日飲んでいたお酒とおさらばをするのは、そんな簡単なものでは無い。

「あんた!あんたぁ!」

妊娠している妻の手を後ろ手にさせて縄で華奢なくびれた両手首から肘の関節まで縛り付け、乱暴に扱った事さえした。

「止めて!あんたぁ!」

一筋の涙を流す彼女は、自分の子供を守る為に横たわり、髪の毛を引っ張られて手を挙げられ続けた。それから、10ヶ月が経った。

「あぁっ!ゔ、あああああぁ!!」

自宅で、彼女は出産を試みた。唾液を垂れ流し、夫の手を握って力む。

「鈴!頑張れ!鈴!」

「あああああああああぁ!!」

妊娠の激痛は、生きて来た中でもっとも経験をした事が無い激痛で。力を抜けば、子供は窒息してしまう。だが力を入れれば入れる程、痛みが増す。それの葛藤が繰り広げられる。すると彼女は、あまりの激痛に白目を剥き、舌を出す。意識を失い掛けたのだ。

「起きろ!鈴!わらしが死みてしまう!鈴!戻とは来られよ!鈴!(起きろ!鈴!子供が死んでしまう!鈴!戻って来い!鈴!)」

「が、あぁ…」

鈴は、ピクピクと痙攣を起こす。

「ぎゃあああぁん!ぎゃあぁ!」

やがて、元気な女の子を出産した。

「鈴!よくぞ頑張った!(鈴!よく頑張った!)」

「うぅ!ああああああぁ!」

だが、一人だけじゃ無かった。

「ぎゃあぁん!ぎゃあぁ!」

双子の息子も、生まれたのだ。

「よくぞ頑張った!鈴」

ギュッと抱き締めて、涙を流しながら喜ぶ夫の頬に触れて笑みを浮かべる鈴は、いつまでも家族4人で、幸福に暮らすのであった。

「儂の出番が無い!」

「かたじけない鬼賀乃殿。忘れておした(すいません鬼賀乃さん。忘れてました)」
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