失われた都市ジャンタール ―出口のない街―

ウツロ

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三章 地下迷宮

22話 アッシュの腕前

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 部屋の中に入ると、少し温度が下がった気がした。
 何かがいる!
 私の目はひっそりと息を潜める複数の影を捕らえた。

 壁がぼんやり辺りを照らす。その壁に張りつく奇妙な影。
 四本の脚に巨大な尻尾、体長1.5メートルはあろうかというトカゲが数匹、壁に張りついていた。
 その数……五匹。さらに、天井を見上げると、もう二匹。合計七匹か。

「ケーブリザード……」

 アッシュのささやく声が聞こえた。
 ケーブリザードとは洞窟などに住むトカゲの名前だ。暗く湿った場所を好んでおり、とくに珍しい生き物ではない。
 だが、大きさが違う。あれはせいぜい手の平ほどの大きさだったはずだが。

 刺激せぬようゆっくりと横に移動、クロスボウの射線を開ける。
 ビンと弦が跳ねる音が聞こえた。
 アッシュが矢を放ったのだ。それはケーブリザードの胴体に命中、やすやすと貫通した。

 ケーブリザードたちはいっせいに動きだす。その向かう先は我々だ。
 逃げるのではなく襲ってくるか。なかなか獰猛のようだ。

 壁に張り付いた個体はそのまま床へ、天井に張り付いた個体は宙に体を投げ出し落下する。
 あまり気持ちの良いものではないな。どちらも着地すると体をくねらせこちらへ迫る。
 驚異的な速度だ。のんきに次の矢を装填しているヒマはなさそうだ。

 数歩踏み込んで剣を振るう。
 狙いは先頭のケーブリザード。低い体勢から掬い上げるように首を刈った。

 続けて次の獲物に向かっていく。
 相手の突進にあわせて剣を突く。剣先は顎先から後頭部へとぬけ、その小さな脳を破壊した。

 さらに次。
 地面すれすれに横なぎの剣を払う。
 パグリという音と共に、トカゲの頭部が上下に分かれた。
 頭部を半分失ったケーブリザードは、勢いのまま私の横を抜けていく。
 これで四匹。のこりは三匹。

 そのとき、一匹が私を迂回してアッシュへと向かった。
 すぐさま左手でスローイングナイフを投擲。トカゲの片目を貫く。

 それでも止まらぬか。悪いなアッシュ、自分でなんとかしろ。
 前方に目をむけると二匹のケーブリザードが迫っていた。今まさに咬みつこうと巨大な口を開けていた。
 
 しゃらくさい。
 口めがけて剣を突きいれる。
 深々とささる剣。やがて背中から皮膚を裂いてあらわれる。

 重いな。
 ズシリと剣にかかるケーブリザードの重み。
 フン、とっとと煙になって消えればいいものを。

 すばやく引き抜き、もう一匹にそなえる。
 が、ケーブリザードはクルリと反転し、背中をみせた。
 逃げる? ――いや。

 ベチン!
 大きな音が響いた。とっさに受けた左手にズシリと衝撃が伝わる。
 尻尾による攻撃だ。ケーブリザードは尻尾をムチのようにしならせてきたのだ。

 なかなかの威力だ。
 これがキサマの奥の手か。だが、残念だったな。私を倒すにはちと足りない。

 受けた尻尾をすばやくつかむ。
 逃れようと足をバタつかせるケーブリザードだが、そうはさせない。
 力強く引っ張るとそのまま地面にたたきつけた。

 大きな音とともにケーブリザードが仰向けになる。
 脳震盪でもおこしているのかピクリとも動かない。

 柔らかそうな腹が丸見えだな。
 そっと剣を這わすと、はらわたを縦にひきさいた。

 さて、アッシュにむかった一匹はどうなった?
 目をむけると頭部に矢がささったケーブリザードの姿がある。
 左目にはわたしのナイフ。やるな、しっかりしとめたか。
 迫りくるプレッシャーに負けず、急所をとらえる。なかなかできることではない。

 しかし、このケーブリザード意外と手こずったな。
 ほんらいなら囲まれぬよう移動しながら一撃を加えるのだが、アッシュがいるしな。
 背後に敵をそらさぬよう戦うのはなかなかに難しい。
 もう少し連携を考えないといけない。

 床に転がるケーブリザードの頭部を踏みつけていく。
 トカゲだけあって生命力が高い。反撃する力はないものの、そう簡単には死なぬようだ。

 フワリ。
 頭部を踏みつけたケーブリザードがケムリとなった。
 残されたのは青い宝石。
 死んだか。わかりやすくてよい。
 
 それから、一匹ずつ確実にトドメを刺していく。そんな私にアッシュが近づき、声を掛けてきた。

「スゲー音したけど、手大丈夫かい?」
 
 複雑そうな顔でこちらを見るアッシュ。
 尾の一撃だな。確かにかなりの衝撃だった。だが所詮トカゲ、痛いで済む程度だ。

「普通、盾持ってても吹き飛ばされるぐらいの威力あるんだけどな。アニキ、からだ鉄で出来てんの?」

 鉄ではない。頑丈だとはよく言われるが。

「くだらないこと言ってないでジェムを集めろ。死んだふりに気をつけてな」
「へ~い」

 こうして手にいれた宝石は全部で七個。
 すべて青色で7ジェムとなった。労力の割にはささやかのものだ。

「しかし、アッシュ。最初によく矢を射かけたな。七匹いれば多少ためらうかと思ったが」

 クロスボウの射線をあけたのは私だ。意図を読み取って矢を放ったのはいいことなのだが。
 ただ、相手の戦力を見極めることも重要だ。
 少ない敵をねらう。
 それがたたかいの基本だからだ。

「あー、ほんとうは矢を撃ったら部屋から出ようと思っていたんだ。扉を閉めてしばらく待つ、ふたたび開けて矢を撃つ。そうやってちょっとづつ倒していくんだ」

 ……確かにそうか。トカゲは扉開けられないしな。
 何かセコイ気もするがそれが正解かもしれない。
 しかし……。

「アッシュ、そういうことは事前に言うんだ」
「いや、ごめん。てっきりアニキもナイフ投げるのかと思って。まさかあの数に剣で切りかかるとは」

 迷宮ならではの戦い方か。
 お互い、認識の差を埋めなければならないようだ。

 この後、密集する扉を一つずつ開けていった。
 アッシュは矢、私はナイフを投げて扉を閉める。なんとも楽な戦い方だ。
 けっきょく、中にいたのはケーブリザードばかりで、大して苦戦することもなく18ジェムを手に入れることができた。

 アッシュによると、ここは穴場的狩場なのだそうだ。小部屋がいくつもあり魔物と出会う確率が高いのだと。
 部屋なら扉を盾に戦える。通路と違って時間さえかければ手堅くかせげるんだと。


 小部屋で少し休憩をとると、来た道を引き返していく。
 18ジェムといささか稼ぎが少ない気もするが、今日はこれで切り上げだ。無理をすることもない。
 後ろを歩くアッシュの表情は明るい。金を稼げて気分が高揚しているのであろう、多少の疲れなど吹き飛ぶというものだ。

 ちなみに稼ぎの取り分は、私が二に対しアッシュが一だ。
 今回の場合私が12ジェム、アッシュが6ジェムとなる。割り切れない分が出たら宿代、飯代にあてる。
 負債の天引きは……まあ、いいか。
 アッシュが言いだせば受けとればいい。

 そうして、真っすぐ続く通路が終わりをむかえたころ、何やら音が聞こえてきた。

 チリン、チリン。

 鈴の音か? 前方から聞こえてくるようだが。

「アニキ、ヤバい。引き返そう」

 アッシュが怯えた声で話す。
 先ほどの明るい顔がウソのように、彼の表情は血の気を失っていた。
 どうやら歓迎すべき事態ではなさそうだ。
 しかし、戻った所で行き止まりなのだが。……部屋に入り、やり過ごそうという事か?

「わかった」

 アッシュの勧めに従い、来た道を戻る。後ろではやはり鈴の音が聞こえる。追って来なければよいのだが。

「スペクターだよ。剣で切っても死なないんだ。矢だって素通りしちまう」

 スペクターか。童話であったな。良い子にしてないと夜やって来て連れ去られてしまうって奴だ。
 確か顔を見たら狂い死ぬとか。
 くだらん作り話だと思っていたが、ここジャンタールには存在するのか。

 チリン。

 また聞こえた。今度は前からだ!
 この先は行き止まり。部屋にいた魔物も全て倒した。それがなぜ!!

 チリリン。

 背後で鳴る鈴の音がさらに大きく聞こえる。
 近づいてきている……

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