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36 甘いパンケーキ。
しおりを挟むゆうくんとのエッチも見られちゃったし、俺の粗相の始末に二度もつきあわさせたし、今さらゆうくんとのアレコレを隠しおおせるわけがない。逆にゆうくんのことをコイツに説明しなきゃ、コイツのなかで俺は深夜の病室でアクロバットなひとりエッチを愉しむ変態さんになってしまう。
俺が話してるあいだ、美濃は「うぅっ」だの「あぁ…」だの、難しい顔をして呻いていた。前のように俺の話を否定してこないのは、美濃自身なにか思いあたるふしがあったんだろう。そういや昨日、ゆうくんに突き飛ばされてたっけ?
「そう、それに、一昨日、学校でだってゆうくんが……俺に……もにょもにょ……」
ここだけは、ちょっとねぇ。恥ずかしいったらない。
「ゆうくんはテクニシャンなんだよっ。だーかーらー、ねぇ、…あのハンカチについてるの、俺の×××なんだからぜったいに警察に渡さないでよねっ、ね?」
眉間に手のひらをあて、美濃が唸る。でも、やっと信用してくれたみたいだ。
「……わかったよ」
と、美濃は返事した。俺はほっと息をついた。
ひとごこちついてから口に運んだパンケーキの欠片は、舌にあまく、身体にやさしく糖分をいきわたらせる。
(おいしい)
残りもパクパクと口に運んで、あっというまに二枚を平らげた。
「おかわり注文しろよ?」
「いいの? やった」
これってけっこうな特別待遇だよな。一教師に一生徒がこれだけえこひいきしてもらってるなんて。これって、これって……ありがたいことなのかも。
食欲が満たされると心も満たされるっていうからかな? 俺って人生の最大のピンチに、いい担任に当たったのかもしれない、と素直に感謝の気持ちが沸いてきた。ウェイターに次々にメニューを追加してくれている美濃を見上げる。
「藤守」と名まえを呼んで、そして俺に視線を向けた美濃は云い淀むようにしてツバを飲んだ。
「お前が氏家の病室に通うことは反対しない。卒業式に出たくないなら、出なくていいようにお前の親を説得してやる。家で過ごしやすくなるようにもとりはからう。それでもどうしてもお前が親に会いたくないっていうなら、なんとか考えてやる。しっかり考えてやるから――、竹中たちとのことをちゃんと先生に解決させてくれ」
「……それって?」
「先生、警察に行ってもいいか?」
俺は黙りこんだ。警察はやっぱり怖い。行ったあとどんな展開になるのかわからないから。
「問題がなくなって平穏な生活ができるようになるまでちゃんと藤守のことサポートしてやる。お前が学校を卒業したあとでもだよ?」
俺のフォークを握った手が力なく膝のうえに落ちていく。
(哲也くん、俺、このひとのこと信用していいの?)
伏せた瞳のさきに彼の姿はないけども、それでも俺の胸のなかにいる哲也くんの、温かい手のひらが、そっと頬に添えられた気がした。
「……うん」
俺がちいさくうなづくと美濃は安堵したようで、背後の背もたれに凭れかかった。
「ねぇ、先生」
「なんだ? 何でも聞いてやるよ」
「俺、昼はオムライスが食べたい」
きっと心のものさしで美濃のことを計ってるんだろうな。つけ入る気持ちは微塵もないが、甘えたことを云ってみる。すると美濃は笑って、「わかったよ」って。
「晩御飯はステーキ」
「……わかったよ」
嬉しくなって続けた俺のリクエストには、顔を引き攣らせていたようだけどね。
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