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しおりを挟む6月。
シーリアとルネは、(ついでにサイモンとリンダも)めでたく学園を卒業した。
祝ってくれる家人もいない静かな卒業だった。
卒業パーティーになど出席するつもりもなかったシーリアとルネだったが、寮生仲間達がしきりに誘ってくれるので参加することにした。
元々通学生と寮生の間には積年の確執があったらしいのだが、何代か前の先輩が大喧嘩をして、以来卒業パーティーは別々の会場で開催されるようになったという。
傾向として親の目が届きにくい寮には自由な気風が蔓延していて、自治体制が確立している。
民主主義思想を標榜する者も増えていて近年当局の監視対象になったりしているらしい。
当然パーティーの形態も対照的なくらい違っていて、フォーマルなドレスとタキシードで貴族然としている通学組に対して寮のパーティーはディスコスタイルである。
ファッションもいたってカジュアルでお金もかからないので、通学組からも庶民を中心に造反者が続出していた。
もっとも造反者達の真の目的は女子のミニスカートだったのだが。
通学組の会場に行くには寮生組の会場の横を通らなければいけない。
寮生組のパーティー実行委員は事前に調査した内容を基に開始時間を通学組より一時間以上前に設定する。
敵は既に盛り上がっているこちらを横目に馬鹿みたいに着飾って会場に向かわなければいけなくなる算段である。
寮生の会場は全面ガラス張りなので、見たくなくても見えてしまう。
更にいやらしいことに外に向かってスピーカーを設置していて最新の音楽が大音量で流されている。
爆音の鳴り響く薄暗い会場に赤や紫のライトが点滅する中で露出の多い衣装の女の子達が男の子達と踊り狂う様子を 眉をしかめながらも羨ましそうに通りすぎる通学組を外で待ち構えて、
「ダッサ、舞踏会ですか~?」
ズンチャッチャズンチャッチャと男同士でワルツの真似をして煽るのも後輩達の大切な任務である。
サイモンが見たシーリアはレザーのノースリーブのミニワンピースを着てルネと笑いながら手足を激しく動かして踊っていた。
「なにあれ?
弟が死んで1ヵ月も経たないのに、神経がおかしいんじゃない?」
リンダが同意を求めるように眉をひそめてサイモンを仰ぎ見た。
サイモンは小さな声で
「そうだな」
とだけ言った。
話は卒業より少し前に遡る。
卒業後すぐに予定されていたサイモンとシーリアの結婚は当然のことながらロバートの喪が明けるまでは延期となった。
ホッとした一方でシーリアは寮を出た後どこに行けばいいのか、という問題に直面することになった。
「ルネ、アンタどこで暮らすの?」
「さあ」
「・・・さあ、って・・・」
「テキトーに友達のとこ渡り歩くかな」
ルネは実母の離婚に際して実父からそこそこの額の預金を持たされているらしい。
すぐに生活に行き詰まる危険はなさそうだが、一体自分の将来をどう考えているのかさっぱり分からないルネを見ているとシーリアは不安を覚えた。
しかしその不安の本当の理由が別の所にあることにシーリアは気づいていた。
ある日フイっといなくなったルネとそれっきり会えなくなってしまう予感。
「ねぇ、ルネ。私を置いてきぼりにしないでね」
背中を丸めて足の爪を切っていたルネは、振り返って薄く笑った。
「なに言ってんだよ、姉さん」
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