触らせないの

猫枕

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 「姉さん、明日結婚式だよね」

 シーリアは返事の変わりにしかめっ面をルネに見せた。

「大丈夫。この部屋は借りたままでいいって所長が言ってるから。
 離婚して戻ってくるから安心してこのまま使ってて」

 結局アパートの家賃は全額所長が払い続けてくれている。


「・・・そういうことじゃなくて、明日の準備とか何もないの?」


「現地集合現地解散!」


「・・・解散」






  役場に併設された式場は身分に関係なく誰でも使える施設なので装飾も控え目で簡素な造りだった。

 人によっては豪華な飾り付けをしたりするようだが、サイモンとシーリアの式には申し訳程度に花が飾られているだけで至ってシンプルな様相だった。

 いつもは市長さんが立会人で届け出にサインをするらしいのだが、その日は市長さんが多忙で不在だったらしく代理の人が緊張気味に慣れない司式をしてくれた。


 式の参列者も極めて少なく、レイダー家からはサイモンの両親、シーリアの側からはハモンド伯爵のみで体調不良を理由に継母の出席はなかった。

 ルネは、もはや義弟なのかすら怪しい立場だから、と参列を渋っていたが、シーリアの懇願に負けて微妙な顔で居心地悪そうに並んでいた。

 そこに友人としてセイラさんと仏頂面のリンダという摩訶不思議なメンバーで式は執り行われた。

 ウェディングドレスではなく、ちょっと良いワンピース姿のシーリアと同じく高級品ではあるがフォーマルとはいえないスーツ姿のサイモンが、二人ともニコリともせずに淡々と手続きを進めていく。

 おめでたさも温かみも一切感じられない異様な雰囲気に戸惑いを隠せない哀れな代理人は額に汗をかきながら何度も式次第を確認し、

「・・・えっと、次は指輪の交換で」

「省略で」


「・・・えっと、次は、誓いのキ」


「省略で」


 食い気味のシーリアの「省略で」に、プッと噴いたルネが必死に咳払いで誤魔化そうとしていた。


「えっと、以上で式は終了です」


代理人はお礼の言葉を言う暇すら与えず、逃げるように退室していった。


 シーリアに何か言おうとしたサイモンを遮って、

「そちらのお宅に行くのは来月の披露パーティーが終わってからでいいですよね?」

 と有無も言わせぬ調子で言うと、サイモンの親にも自分の親にも挨拶もせず、ルネとセイラさんを連れて

 「なんか美味しい物でも食べよう」

 などと談笑しながら式場を後にし、一方のサイモンは恋人リンダと手を繋いで出ていくというカオス状態を前にして親達は一瞬顔を見合わせた後、無言で解散した。




 

 
 町のオシャレなカフェで向かい合うサイモンとリンダは傍目には素敵なカップルそのものだった。

見るからに高価そうなスーツのイケメンと華やかなドレスの美女は周囲の客の注目を集めていた。
 なにせリンダの衣装は花嫁主役のより遥かに豪華だったから。


 「まさか君が式に来るとは思わなかったよ」


 サイモンは困惑していた。


「だって、嫌だったんだもの。

 指輪も無いしキスもしないから安心してってシーリアは言ったけど、信用できないでしょ?

 シーリアが心配なら見に来れば?

 って招待してくれたから来たの」


 「・・・シーリアに会いに行ったんだね」


「そうよ。
 サイモンが愛してるのは私だけだってこと、ちゃんと分からせとかなくちゃいけないから」


「・・・そうだったんだね」





 一方のシーリア達はスイーツ専門店でタワーパフェに挑戦し、先程の傑作な式の様子を肴に盛り上がりルネと一緒にアパートに帰って来た。


「姉さん。今日 結婚したんだよね?」

 

 



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