糠味噌の唄

猫枕

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 予想通り新聞図書館では目新しい情報を得られなかった町子はもう一つ別の図書館に寄って帰ることにした。

 地方の歴史について書いてある本はないだろうかと探していると、紀行文の並ぶ棚を見つけた。
 有名な人なのかどうなのか町子は全然知らなかったが、近藤 定行という人物が今のN県を旅した時の記述が見つかった。
 近藤という人物は、どうやら近江地方の豪商の息子だったらしく、諸国漫遊よろしく日本全国を旅した人物だったらしい。

 財力にあかせて自費出版したものらしいその本は、文語体と旧仮名づかいと旧漢字でちりばめられていて、非常に読みにくいものだった。
 どういう内容かというと、ざっと以下のような感じだ。

 ~K村は市街地からは距離にして七里半程に位置している。
 距離はさほど遠くはないのだがその陸路は急峻な岩山に阻まれていて道は無く、周囲から隔絶された生活を送っているという。
 唯一の交通手段は船ということになるのだが、無論定期便があるわけでもない。
 
船を都合してもらおうと何人かの漁師に声を掛けるも色好い返事はもらえず。

 ようやく米五俵分の値段で請け負ってくれた者の船で早朝出発する。

 港は無く、浅瀬近くに船を停泊させ小舟を降ろす。

 手こぎ舟は荒波に何度も押し流されながら断崖に着いた。

「この先を海岸づたいに歩けば坂道がある。それをずっと登って行けば集落に出る。
 必ず未の中刻までには戻って来てくださいよ。
 来なかったら置いて帰りますから」

 ついて来てはくれないのか、と訊くと男は とんでもない という顔をして頭を左右に振った。

 「ダンナも物好きですねぇ。
 ここの奴等はよそ者には容赦ないですからね気を付けた方がいいですよ」

 無事に帰れればいいですね、と男は皮肉に笑って船に戻って行った。

 言われた通りに石だらけの海岸を歩いていくと背丈程の高さの草に隠されるように坂道の入り口があった。

人一人がやっと通れるくらいの細い道を上がっていくと、山道になる。
 本当にこんな所に集落があるのかと心配になる頃に拓けた場所に出た。

 眼前に広がっていたのは色とりどりの一面のケシの花畑だった。

 それはさながら極楽浄土のような美しさだった~


 察するに村人との交流や聞き取りは一切できなかったのではないかと思う。

 村人に関しては非常に排他的、との記述があるのみ。
 ただ、今まで訪問した寒村ではありえないほど村人は良い着物を身に付けていて生活に困窮しているようには見えなかった、と書かれていた。

 ケシ?町子の顔が強張る。

 村ぐるみで大麻の栽培でもしていたのだろうか?

 外から人が入って来ない隔絶された世界で麻薬を作って売っていた?

 『翡翠堂』の主人が言っていた『とんでもないお宝』って・・・。

 もちろん『翡翠堂』の主人とK村出身の若者たちの殺人事件とは無関係なのかも知れないが、町子の頭はグラグラしてきた。


 

 週が始まって町子は気持ちを入れ替えて仕事に邁進する。

 仕事帰りに武藤がひょっこり現れやしないかと期待するがそう都合良く会えるわけはない。

 神出鬼没な武藤とはどうでもいい時にしか会えないようになっているらしい。

  武藤に話を聞いてもらうということは母のことも話すことになってしまうかもしれない。
 そう思うと会わない方がいいのかな、とも思う。

 そんな悶々とした気持ちで週の半ばを迎えた水曜日、帰宅すると郵便受けに可愛い封筒の手紙が入っていた。

 差出人は黒崎 友香子、小中の同級生だ。

 在学中はそれなりに仲良くしていたが、中学卒業以来ほとんど交流のなかった友香子の手紙は挨拶もそこそこに、

『金曜日の最終便で行くから羽田まで迎えに来て』
 
だった。

 これ、ウチに泊まるつもりだよね。

 町子は手紙を握りしめてしばし呆然とした。

 金曜日って、明後日じゃん。

 航空会社と便名くらい書けよ。

 町子はブツブツ言いながらコンビニに時刻表を立ち読みに行った。
 

 

 

 

 
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