19 / 35
19
しおりを挟む「黒刀 怜子
知ってる?」
「あ・・・」
「それがオレのばあちゃん」
「怜子さんという人は知らないけど、黒刀さんという家があることは知ってる」
「まだ55才くらいのはずなんだけどね」
黒刀家はK地区の中でも異質な存在だった。
母親と二人で暮らしているという男は、たしか名前を恭司と言った。
働いている風でもなく、どうやって生計を立てているのか不明だが、着物を着流しにして色素の薄い長髪をなびかせてブラブラと地区内を歩き回る姿を見かけたことがある。
修司の話から逆算すると、当時すでに40代後半だったことになるが、透き通るように白い肌に整った顔立ち。
小学生の町子と目が合ったとき、フッと意味あり気に笑った顔が、ゾッとするくらい美しかった。
怜子はその恭司の姉だ。
「前に武藤先生が言ってたでしょ?K村の三人の若者の事件」
そう言って修司は水片のじいさんから聞き出したという話を始めた。
農機具倉庫に押し込めて、羽交い締めにして、殺す、と脅しながら聞き出した話だそうだ。
「三人の中で唯一結婚して子供がいたのが黒刀 雄司だった。
その子供ってのが、当時3才だった怜子、つまりオレのばあちゃんと弟の恭司0才だったんだって。
で、夫を失くした二人の母親は村人の温情で生かせてもらってたってわけ。
意味分かる?」
「・・・」
あの、恭司の母親なら美しい女性だったろうと容易に想像がつく。
「で、美しく育った怜子に水片のじいさんが手を出した。
まあ、簡単に言えばそれだけの話」
「・・・・」
「母さんを生んだ時、怜子ばあちゃんはたったの15才だったってよ」
修司は吐き捨てるように言った。
「おじいちゃんの家の近くで髪の長い着物姿の男の人を見た」
小学生の頃、何気なく言った町子の言葉に母は過剰に反応した。
「あの人には絶対に近づいたらダメ!!」
あまりの剣幕に町子がそれ以上彼について話題にすることはなかったが、彼の浮世離れした美しさは町子の心に強い印象を残していた。
「K地区にいつも着物を着ている髪の長い男の人がいるよね?」
中学の頃、友香子に聞いてみたことがある。
「ああ、あの人。恭司さんね」
友香子はイヤらしい笑みを浮かべてクスクス笑った。
「あの人ねぇ。地区の奥さん達とエッチなことしてお金もらってんだよ」
恭司のせいで何軒もの家がギクシャクとおかしくなったという。
そして恭司には地区の外にも何人もパトロンがいて、お金持ちの未亡人から遺産をもらった、などという噂が真しやかに流れている、ということだった。
「うちの母さんも、水片さんの真理おばちゃんも恭司さんと関係あるんだよ」
ニヤニヤ笑う友香子の顔には侮蔑と怒りがこもっていた。
「大人って汚いよね」
怒ったような悲しいような友香子の声が今でも耳に残っている。
「なんで手首を切ったんだ?って聞いたらさ、そういう決まりなんだってさ。
死んだら棺の中でこうやって手を組むだろう?」
そう言って修司はお祈りをする時みたいに手を組んで見せた。
「でもさ、罪人は神様に祈りを捧げて助けを乞えないように手首を切るんだってさ。
だからオレはじいさんに言ってやったよ。
なら、お前らは両手首切り落とさなくちゃな!って」
「・・・怜子さんは、どうなったの?」
「精神的におかしくなって、今も県北の療養所に入れられているらしい」
「・・・・」
「・・・でさ、そのばあちゃんの父親、黒刀 雄司を殺したのが水片のじいさんの父親だったんだってさ。
つまりオレのばあちゃんは父親を殺したヤツの息子に孕まされてオレの母ちゃんを産んだってわけ。
それで頭オカシクなっちゃったんだな。
笑える」
「・・・ヒドイ」
「でさ、まだ水片の曾祖父が生きてるってんで、会いに行ったの。
姥捨て山みたいな病院に入れられててさ、90近くて耄碌してたけど、
『黒刀の者は転びバテレンの子孫じゃ』
って、バカにしたように言ったんだ。
その場で絞め殺してやろうかと思ったよ」
俯く修司の横顔は確かにどことなく恭司に似ている。
町子は流れる長い髪を揺らしながらフラフラと歩く恭司の姿を思い浮かべた。
どこか皮肉っぽい笑みを浮かべた彼の美しい目には何が映っていたのだろう。
幼い恭司は母親が村の男達に慰みものにされるのを目にして育ったのだろうか。
そして姉の苦しむ姿も。
閉鎖された居心地の悪い土地に敢えて居座ることで住民に罪の意識を想起させ、その類い稀なる美貌で女達を魅了して不和を起こさせる。
それが彼なりの復讐の方法だったのだろうか。
「オレさ、あそこにいたら いつかとんでもないこと仕出かしそうでさ。
怖かった。
だから、もうあんな所とは関係無い場所で新しい自分になって生きていきたかった。
・・・だけど、東京で町子と出会ったんだ」
修司は、しょうがないよな、と小さく呟いた。
27
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる