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しおりを挟む妻の様子がおかしい。
フォルコンリー侯爵は邸内の空気の変化を感じていた。
元々ヒステリックなところのあった妻だが、最近はぼおっと心ここにあらずといった様子で何時間でも座っていたかと思えば、些細な一言に激昂して我を忘れたように怒鳴り続けたりする。
グレアムとソアルーサーの娘との縁談について妻が最初から気に入らなかったことは承知しているが、そんな妻もソアルーサーの財力の必要性は理解していたはずだ。
それなのに最近は以前にも増してしつこく婚約解消をするよう繰り返し迫るようになった。
毎回説得するのが面倒だ。
それとなく友人に相談してみたところ、女というものは子供が成長して手を離れるくらいの年になると精神的に不安定になるものだと教えてくれた。
まあ、そういうもんなんだろう。
近々ノービリス公爵邸でダンスパーティーが開かれる。
貴族の中でも選ばれた一部の者しか招待されない栄誉あるパーティー。
着飾らせて連れていけば機嫌も直るだろう。
新しいドレスで意気揚々と参加したフォルコンリー侯爵夫人の視界に入ったのは、最新デザインの洗練されたドレスを纏ったあの忌々しいアディヤの姿だった。
ファッションの先進国モデュスの最新流行スタイルのドレスにアンティークの破格の値段のするアクセサリーをつけている。
いまだに全く衰えを知らない美貌で周囲の注目を一身に集めている。
夫人の さっきまでの高揚した気分はあっという間に萎んでしまった。
侯爵は急に不機嫌になった妻の顔を見て、またかと溜め息を吐いた。
その晩アディヤは3ヶ月ぶりに帰宅した夫ロバートと共にパーティーに参加していた。
事前にフォルコンリー侯爵夫妻の出席の情報を掴んでいたユージンからの、
『可能ならこなしてくるように』
という任務を託されて。
流石に40才も過ぎてくれば、より条件の良い結婚相手を争奪するために足を引っ張り合っていた少女時代のようにアディヤに面と向かって嫌味を言うご婦人はいない。
むしろ最近では昔のことなど丸でなかったかのように、
「美しいお肌だわねぇ。
さぞかし特別なお手入れをなさっているのでしょうね~」
と秘密の化粧品を分けて欲しいとすり寄ってくる。
輪の中心でチヤホヤとご機嫌を取られているアディヤを見たくなくて、夫人が目を外した瞬間、アディヤは熱の籠った視線をフォルコンリー侯爵に送った。
ほんの一瞬、二人の目が合った。
侯爵はそれが思い違いでないことを確かめたくて、その後も何度も彼女に熱い視線を送ったが、もうアディヤと目が合うことはなかった。
そして妻が、頬を赤らめてアディヤを見つめる自分の姿を嫉妬の炎を燃やしながら凝視していることには気付きもしなかった。
ダンスが始まる。
それぞれのパートナーと踊った後、いつものお約束でロバートは商売の話をするためにアディヤを放置する。
侯爵がアディヤにダンスを申し込む。
「侯爵様のお誘い断るダメね?」
悪戯っぽく上目遣いで微笑むアディヤに侯爵は完全に持っていかれた。
普段アディヤはそんな話し方はしないのだが、コロッと騙される殿方のなんとチョロいことよ。
音楽が始まって、二人は踊り始めた。
「さっき私を見たよね?」
侯爵が確かめる。
「どうだったかなー?」
アディヤがはぐらかす。
「どうして見たの?」
「フフフッ・・・そんなこと言えない」
侯爵はこのダンスが終わることなく続けば良いと思った。
このところのギスギスとした邸内での胃の痛む日々から解放されて、久しぶりの甘い雰囲気を楽しんでいた。
侯爵は愛しいものを見る目でアディヤを見つめた。
その夫の顔を見た瞬間、妻の疑いは確信に変わった。
私は邪魔者。
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