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しおりを挟むソアルーサー邸に突撃した翌日、フォルコンリー侯爵夫人は王立図書館にいた。
前日にアディヤとカトリーヌから聞いた与太話を意識から追放しようとすればするほど気になって一睡もできなかった。
ニレルの歴史と宗教に関する本を当てずっぽうでめくった。
司書に訪ねれば早いだろうが、素性を知られている自分がおかしな調べものをしていたなどと妙な噂が立つのも避けたかった。
とりあえず『エリヤの眼』について調べた。
真偽不明の伝説として言い伝えられている『エリヤの眼』は時間を巻き戻す力のある神の石で、ニレル王国ヘブロン王朝時代に起源を持つといわれている。
お伽噺の一種として扱われてはいるが、その存在を現代でも固く信じるもの達も多数いる。
実際にこの国の王も他国の王も何度となく捜索隊を結成して『エリヤの眼』を探したことも記されていた。
あの女が言っていた変な名前の王も確かに実在していて、カーボードと呼ばれるニレルの聖典に王でありながら預言者でもある賢者として記されていた。
『エリヤの眼』は当初複数個存在したが、時代が下るにつれて散逸したとされる。
その内の一つが賢王の末裔であるアディヤの家系に脈々と受け継がれていたとしても不思議ではない。
夫人は身体の芯が急速に熱を奪われていくのを感じた。
あの、いつもおとなしく自分の意見なんか言わないアディヤが激昂して叫んでいた。
あの異国の言葉で捲し立てたのは呪いの言葉に違いない。
睡眠も食事も取らずに書物を読んでいた夫人は急に目の前が暗くなってふらついた。
そして待たせていた使用人に抱えられるようにして馬車に乗り込み邸に帰った。
とにかくこの縁談は避けなければいけない。
確かにソアルーサーの財力は魅力的だが、待ち受ける未来と天秤にかければどちらを取るべきかは明白だ。
夫人は侯爵にグレアムの婚約解消をしつこく、それこそ顔を合わせる度に訴えたが、のらりくらりとかわされる。
そしてあの、ダンスパーティー。
侯爵は熱の籠った目でアディヤを見つめていた。
運命は変えられないのか。
『私達、二人とも邪魔になったんですね』
カトリーヌの仕方なさそうに笑う顔が浮かんできた。
「ですから!!
グレアムとカトリーヌの婚約は解消してください!!」
今日はいつにも増して妻の苛立ちが酷い。
「あの家に利用価値があることはお前も分かっているだろう?」
「どうしても解消しないのなら離婚してください!!
私は出ていきますから!!」
あのパーティーの日以来、異常に興奮するようになった妻。
「どうして?どうしてですか?
お金を出させるだけなら他にやりようがありますでしょ?
そこまでして姻戚関係に拘る理由が何か他にありますの?」
詰め寄る妻の顔は最早正常な精神状態の人間のものではない。
「そこまでして あの女の側にいる為のもっともらしい理由が欲しいんですの?」
「君は何を言ってるんだ?」
「どうぞご自由に!私は出ていきますから!」
宥めようとする私の腕を振り払って妻はキーキーと叫び声を上げながら泣き出した。
こうなるともう、手がつけられない。
このところ毎晩こんな有り様だ。
正直疲れてきた。
こんな妻とは別れてしまった方がそれこそ楽なのかも知れないが、陛下からの特別待遇を受けられるのもこの妻あってのこと。
面倒な女でも離婚するわけにはいかない。
なんとか無難な関係を続けなくては。
それでも私にはソアルーサーと縁を切る訳にはいかない事情があった。
持ちかけられた投資話に乗って作った借金が、もうどうしようもないくらい膨れ上がっているのだから。
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