嘘つき女とクズ男

猫枕

文字の大きさ
25 / 39

25

しおりを挟む

 ソアルーサー邸に突撃した翌日、フォルコンリー侯爵夫人は王立図書館にいた。

 前日にアディヤとカトリーヌから聞いた与太話を意識から追放しようとすればするほど気になって一睡もできなかった。

 ニレルの歴史と宗教に関する本を当てずっぽうでめくった。

 司書に訪ねれば早いだろうが、素性を知られている自分がおかしな調べものをしていたなどと妙な噂が立つのも避けたかった。

 とりあえず『エリヤの眼』について調べた。

 真偽不明の伝説として言い伝えられている『エリヤの眼』は時間を巻き戻す力のある神の石で、ニレル王国ヘブロン王朝時代に起源を持つといわれている。

 お伽噺の一種として扱われてはいるが、その存在を現代でも固く信じるもの達も多数いる。

 実際にこの国の王も他国の王も何度となく捜索隊を結成して『エリヤの眼』を探したことも記されていた。


  あの女が言っていた変な名前の王も確かに実在していて、カーボードと呼ばれるニレルの聖典に王でありながら預言者でもある賢者として記されていた。

 『エリヤの眼』は当初複数個存在したが、時代が下るにつれて散逸したとされる。

 その内の一つが賢王の末裔であるアディヤの家系に脈々と受け継がれていたとしても不思議ではない。


 夫人は身体の芯が急速に熱を奪われていくのを感じた。

 あの、いつもおとなしく自分の意見なんか言わないアディヤが激昂して叫んでいた。
 あの異国の言葉で捲し立てたのは呪いの言葉に違いない。

 
 睡眠も食事も取らずに書物を読んでいた夫人は急に目の前が暗くなってふらついた。

 そして待たせていた使用人に抱えられるようにして馬車に乗り込み邸に帰った。


 とにかくこの縁談は避けなければいけない。

 確かにソアルーサーの財力は魅力的だが、待ち受ける未来と天秤にかければどちらを取るべきかは明白だ。


 夫人は侯爵にグレアムの婚約解消をしつこく、それこそ顔を合わせる度に訴えたが、のらりくらりとかわされる。

 そしてあの、ダンスパーティー。

 侯爵は熱の籠った目でアディヤを見つめていた。

 運命は変えられないのか。


『私達、二人とも邪魔になったんですね』

 カトリーヌの仕方なさそうに笑う顔が浮かんできた。



 

 「ですから!!
グレアムとカトリーヌの婚約は解消してください!!」

 今日はいつにも増して妻の苛立ちが酷い。

「あの家に利用価値があることはお前も分かっているだろう?」

「どうしても解消しないのなら離婚してください!!
 私は出ていきますから!!」

 あのパーティーの日以来、異常に興奮するようになった妻。


「どうして?どうしてですか?
 お金を出させるだけなら他にやりようがありますでしょ?

 そこまでして姻戚関係に拘る理由が何か他にありますの?」 

 詰め寄る妻の顔は最早正常な精神状態の人間のものではない。

 「そこまでして あの女の側にいる為のもっともらしい理由が欲しいんですの?」

「君は何を言ってるんだ?」

「どうぞご自由に!私は出ていきますから!」
 
 宥めようとする私の腕を振り払って妻はキーキーと叫び声を上げながら泣き出した。

 こうなるともう、手がつけられない。

 このところ毎晩こんな有り様だ。

 正直疲れてきた。


 こんな妻とは別れてしまった方がそれこそ楽なのかも知れないが、陛下からの特別待遇を受けられるのもこの妻あってのこと。

 
面倒な女でも離婚するわけにはいかない。

 なんとか無難な関係を続けなくては。


 
それでも私にはソアルーサーと縁を切る訳にはいかない事情があった。


 持ちかけられた投資話に乗って作った借金が、もうどうしようもないくらい膨れ上がっているのだから。


しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない

有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。 魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。 「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

処理中です...