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しおりを挟むロバートを見てアディヤは驚きの声を上げた。
「どうしてここに?」
テティス号が折り返してくるのは1ヶ月程後のはずだった。
「ユージンが戻ったから仕事は彼に任せて来たんだ」
雇い主にすぐ出航しろと言われ、ろくに休みもなく再出発してきたであろう乗組員をアディヤは気の毒に思う。
この人のこういう他人の都合も考えない強引なところが無理なのよ。
アディヤの目にロバートに対する拒絶が滲んでいるのを感じ取ったのか、
「お願いだから私から離れていかないで」
と情けない声で懇願するロバート。
どう反応していいか分からないアディヤは無言の仏頂面を続けた。
「君がどうしても帰りたくないって言うんなら商会はユージンに全部譲ってニレルに移住してもいい」
アディヤが返事をしないと、
「そうだ、それがいい。
海の見える丘の上の一等地にお城みたいな家を建ててあげるよ。
ここならディベスインスラで採れる宝石も沢山手に入れられる」
「もう、いい加減にして!!」
初めて聞いたアディヤの怒鳴り声にビクッと肩を震わせたロバートにアディヤは冷淡に言った。
「そんな物で私の心は安らがない 」
夕暮れの弱い光がアディアの顔に陰を落とす。
「言葉も通じない外国で、友達もいなくて寂しくてツラくて」
「ゴメン」
「贅沢な物だけいっぱい増えていったけど、虚しくて」
「ゴメン」
「あなたにとって私は外国で仕入れてきた珍しい宝石や織物と同じ」
「違う」
「私が何を考えてるかなんてどうでもいい。
いや、私が何か考えてるなんて思ってもいないのよ」
ロバートは必死でアディヤにかける言葉を探そうとしている。
「違うんだ。違うんだ」
「私はあなたのペットでもアクセサリーでもない」
「・・・ゴメン。君を誰にもとられたくなくて」
「は?」
「美しい君を皆が狙ってた。君が私だけを頼るようにしたかった」
「キモチワル」
ロバートは完全に項垂れている。
「私のこと信用していないってことよね」
「・・・違う。違うんだ。
私は君にできうる全てを与えてやりたかたった。君を幸せにしたかった。
ニレルを復興させるのには金が必要だったから、必死で働いた。
君の故国の為に力を尽くせば君が喜んでくれると思ったんだ」
「・・・私は何も知らされないまま。
久しぶりに戻ってきたら、皆嬉しそうにあなたに感謝の言葉を捧げるの。
それは喜ばしいことだし、ここまでしてくれたあなたに感謝もしてる。
だけど、私は何も知らされなくて、・・置いてきぼりで、・・・帰ってきたら町はキレイになっていて、あの戦乱で破壊された痕跡もなくなっていて、・・・・それは良い事に違いないけど、・・・楽しい思い出もツライ記憶も全部一緒に片付けられてしまったみたいよ。
皆、歩きだしてるのに、私だけ変われない。
・・・やっと帰って来たって思ったのに、やっぱりここにも私の居場所は無い」
アディヤはワーッと声を上げて泣き出した。
ロバートはアディヤを抱きしめた。
逃げられないようにきつく。
「ゴメン、ゴメン」
と繰り返しながらロバートも泣いていた。
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