可哀想な私が好き

猫枕

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 それからローレンシアは学校の行き帰りの車の中では双子に足を踏まれたり小突かれたりしながら、教室では幼稚な嫌がらせを受けて過した。

 クラスメート達はローレンシアに嫌がらせをすることで双子達からの評価を上げようとした。

 本心ではローレンシアと話したり一緒に遊んだりしてみたいと思っていた彼らだが、双子の圧の前では素直な気持ちを態度に表すことはできなかった。

「教科書を隠してやりました」

「アイツが教科書を見せて欲しいと言うのを聞こえないフリして見せませんでした」

 誇らしげに報告するクラスメートに、「よくやった」とアードルフは労いの言葉を掛けてやった。

 当初はアードルフに命令された通りにすれ違い際にローレンシアの肩を押すなどしていた彼等は次第に自発的に嫌がらせを考案して実践するようになった。

 今までは何がきっかけでベルクホーフの双子の機嫌を損ねるかビクつきながら学校生活を送っていた。
 そこへローレンシアという生贄が出現したことによって自分たちに矛先が向けられることが無くなって彼等は安心して生活できるようになったというわけだ。

 だから彼等は一方で美しいローレンシアに憧れながらも皆で彼女の悪口を言い合うことで自分たちの複雑な感情を誤魔化していた。



 ローレンシアはそんな現状を祖母に言いつけてやろうかとも思ったが、祖母が人格者には程遠い人物だということを重々承知していたので、その先の更なる面倒を考えて黙っていることにした。

 祖母に叱責された伯母は陰で余計にローレンシアに辛く当たるだろうし、そんな母親に加勢しようと双子も更に調子に乗って嫌がらせをするだろうことは想像に難くなかったからだ。

 ローレンシアもこんな毎日が楽しいわけではなかったが、クラスメートの中に仲良くしたいような人物が唯の一人としているわけでなく、まあ、相手にしなければいいや、と諦めの境地に達していた。

 暫く我慢して12才になれば元いた学校の寄宿生になれるから、それまでの我慢だ。
 こっちの学校を馬鹿にしているお祖母様に頼めばきっと許可してくれるだろう。

 その時のローレンシアはそんな風に楽観的に考えていた。


 
「なあなあ、オマエってさあ、レカー・キャラメルに似てるよな?」

 ある日教室でデニス・ヤンセンが人懐っこい顔でローレンシアに話しかけた。
 デニスはベルクホーフの親戚なので、この教室で唯一双子に対して鷹揚な態度が取れる人物である。
 彼はちょっとぽっちゃりで愛嬌のある顔をしているが、頭もさほど良くなければ勘も鈍くて教室内の勢力図にも疎かった。

 そんなわけでデニスはローレンシアが教室内で孤立していることになど気付きもせずに、ただただ自分の興味だけで話しかけてきたのだ。

「・・・えっ?」

 突然フレンドリーに話しかけられてローレンシアは戸惑った。

「だから、レカー・キャラメルだよ!
あの箱の女の子、君にソックリじゃないか!」
 
 レカー・キャラメルは国民的お菓子とも言える昔からある人気商品だ。
 数年前にパッケージが刷新され、そこに印刷されている女の子が可愛いと評判になり、今や箱の少女はレカー・キャラメルの顔だ。

「あ、・・・あれは、私が5才の頃」

「えっ?!やっぱり?そうか~。スゴイな君!どうやってキャラメルなんかになれたんだい?」

「お父様があの会社にたくさん出資してるから・・・」

「へぇ~、しゅっしって何だかわかんないけど何かスゴイね!じゃあキャラメルたくさんもらえるの?い~な~」

 ニコニコ顔のデニスに比して他のクラスメート達はピリついていた。

「僕、あのキャラメルの箱の女の子がすっごく可愛いって思ってたんだ~。
 まさかクラスメートになれるなんてね!」

 デニスがローレンシアを可愛いと言った途端に皆の顔が引きつった。

 男の子達は自分達がしたくてもできなかったことを薄ら馬鹿のデニスが難なくやってのけたことに衝撃を受けていたし、女の子達は顔を寄せ合ってヒソヒソしだした。

 皆が妬みと羨望の入り交じったような複雑な顔をしている中で、あからさまな怒りの表情でローレンシアを睨みつけていたのはルドヴィカだった。

 






 

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