可哀想な私が好き

猫枕

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 教室で先生が転校生のローレンシアを紹介すると、都会からやって来た見たこともないような美少女に教室はざわついた。

 男の子達はローレンシアに釘付けだったし、女の子達は都会的なファッションに興味津々で休み時間になったら早速駆け寄ってあれやこれやと質問責めにしたいと思っていた。

 アードルフは隣の席の市長の息子、リーヌス・ファーレンハイトが授業中頬を紅く染めながらチラチラとローレンシアを盗み見るのが不快だった。
 まるで自分の玩具を穢されたような気分がした。

 このリーヌスはいかにも北方系の色素の薄い遺伝子を持った王子様タイプの美形で、物腰の柔らかさも手伝って女の子たちから人気があった。
 あの、くすりとも表情を動かさないローレンシアだって、美しいリーヌスに親切にされれば心を動かすに違いない。
 アードルフは得体の知れない焦りを感じた。

 最初の授業が終わって短い休み時間になると、とたんにローレンシアの周りに人だかりができた。

「そのペンケース可愛いわね!」

「ちょっとその鉛筆見せて。この辺では売ってないわ」

「ねえねぇ、イヌンシュタットって凄い都会なんでしょ?どんな所?」

 有名人に群がるように女の子達がローレンシアをチヤホヤしだした。

 そこにアードルフの大きな声が響いた。


「コイツはウチの居候なんだぜ!!」

 皆の視線がアードルフに集まる。

「コイツさぁ~、親に捨てられたみなし児なんだよ!」

 皆がシンとする。

 ルドヴィカがニヤニヤしている。

「両親がどっちとも引き取らないって言うからさあ、仕方なくお情でウチが面倒見てやってんだよ。
 惨めだよなあ?」

 アードルフは高揚した気分になって調子に乗って喋り続けた。
 朝に受けた屈辱を晴らせる気がした。

「コイツの母親は男作って出てったんだぜ。
 こんなヤツと関わるとロクなことにはならないからお前らも気をつけろ」

 この地方で圧倒的な力を持つベルクホーフ。
 政治家一家のファーレンハイトとてベルクホーフの後ろ楯無しで選挙は戦えない。
 リーヌスも常々ベルクホーフの双子の機嫌を損ねるなと父親に言われていた。

 ファーレンハイトでさえそうなのに、他のせいぜいちょっとした会社を経営している程度の小金持ちの家の子ども達がアードルフに逆らえるはずもない。

 この学校だってベルクホーフから多額の寄付金を得ていて、先生達も理事会も双子を特別扱いしていることは8歳の子ども達でさえ承知していた。

 どんなに仲良くしたい魅力的な人物でもアードルフが相手にするな、と言えば仲間に入れるわけにはいかない。

 
 ローレンシアのボッチ生活が決定した瞬間だった。


 

 
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