可哀想な私が好き

猫枕

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 中等科も双子と同じ学校に通うことになってしまったローレンシアはさすがに落ち込んだ。 

 あとちょっとだからと耐えてきたクソつまらない生活は少なくともあと3年は続くことになったわけだ。

 そして何よりも嫌だったのは父の籍から抜かれたことで名前までベルクホーフの一員になってしまったことだ。


 この頃になると第二次性徴期を迎えローレンシアも周りの同級生達も特に見た目に変化が現れてきた。

 女子の中には体重増加に悩む者もいたし、顔一面にニキビができた男の子もいた。

 話題の中心は異性のことになり、数人集まればすぐに誰が誰を好きだとかそんな話で盛り上がっていた。

 そんな中で相変わらず孤高のローレンシアは美しさに磨きをかけて誰も近づくことも出来ない断崖に咲く幻の花よろしく浮世離れした輝きを放っていた。

 かといいローレンシアへのクラスメート達からの扱いに変化はなく、むしろ成長した分嫌がらせの方法も陰湿さの度合いを増していた。
  
 紛失したクラスメートのペンケースがローレンシアの机の中から発見されて泥棒扱いされたり、教室の壁時計をローレンシアが壊したと責め立てられたりと罪をでっち上げられたりした。

 連絡事項を教えて貰えない、あるいは嘘の情報で間違った集合場所に誘導される、などというのは基本中の基本。

 ローレンシア自体も先生に確認するということを敢えて行わず嘘に乗っかって面倒くさい行事参加をサボったりしていた。

 皆にとってお楽しみのお茶会のごときもローレンシアにとっては単なる時間の無駄であり、そんなものに参加するくらいなら裏庭で寝てるかいっそゴミ拾いでもやっていた方がずっとマシだと思っていた。

 相変わらず遠足だの校外学習だの時はどのグループもローレンシアを入れることを嫌がって揉めた。

「ローレンシアさんと一緒はイヤです」

 生徒達は先生の前で堂々とそんなことを言ってのける。

「彼女は協調性がありません」

「私達と仲良くやっていく気が最初から無いんです」

「この前のお茶会だって、私達とはお茶を飲みたくないって言って裏庭でサボってました」
 
 生徒達が嘘を言っていることなどお見通しの先生は、それでも彼らを叱責することはできずに短く溜息を吐くだけだった。

 もっともスポーツデーにしろ文化祭にしろ当日になるとローレンシアは必ず熱を出して欠席することになっていたので心配する必要は一つもなかったのだが。

 ただ、何かしら行事がある日の朝は何故かアードルフが別邸まで出向いて直々にローレンシアを迎えに来る。

 「ローレンシア様はお熱で起きられません」

 とメイドが伝えると、仮病だなんだと騒ぎ立て、最終的に祖母に追い払われる。
 それが毎度のお約束だ。

『きっと何か特別な趣向でも凝らした嫌がらせを企画しているんでしょうね。
 なんという執念深さ』

 二度寝を満喫しながら思わず笑ってしまったローレンシアは、

『どんな嫌がらせなのかちょっと見てみたい気もするけど?』

 なんて残念がってみたりもした。


 

 そんな基本図太いローレンシアではあるが、正直一人も友達がいないという状況で学校生活を送るのはツライというか、実際問題として困ることもある。

 この学校では各教科の先生に「お手伝い係」の生徒が決められていて、宿題のプリントなどはその生徒を介して配られるシステムになっている。

 当然ローレンシアには配布されない。

 ローレンシアは毎回後から先生の所に

「一部足りませんでした~」

 と貰いに行くことになるわけだが、宿題があること自体を知らされない場合もある。
 そしてそれは決まって成績や単位に直結するような重要な場合だった。

 そこでローレンシアが利用するのがデニスだ。

 最近のデニスはコロコロ太って陰では豚と揶揄されていたが、親の身分もあって表だっては冷遇されない、そんな立ち位置の少年になっていた。

 良く言えば物事にこだわらない、有り体に言えば鈍感、そんなデニスは

「なんで皆ローレンシアのこと嫌うんだろうね?可愛いのにね?」

 などという発言で度々周囲を凍らせた。

 ローレンシアは寂しげな微笑みを浮べて、

「私、皆に嫌われてるでしょう?
 だから大事な連絡事項を教えて貰えないことがあるの。
 だからデニス、私の力になってくれない?」

 上目遣いでデニスを覗きこむローレンシアが何を話しているのか遠くからでは聞こえないが、その様子を盗み見て多くの男子達は胸をドキドキさせた。

 当のデニスは親切にしたお礼にローレンシアがくれるお菓子の方を喜んでいたし、

「ローレンシアのお陰で宿題の分かんないところ写させてもらえて助かってるよ」

 となんにも考えていない顔でニコニコしていた。


 放課後に

「いつも親切にしてくれてありがとう」

 と他のクラスメート達には絶対に見せない笑顔をデニスに向けているのを見て男子達は苛つきと敗北感を味わっていた。

 ローレンシアは男子達の視線を感じる時にわざと極上の笑顔をデニスに向けて見せたし、キャラメルの包み紙を剥いて手ずからデニスの口に入れてやったりした。

 するとデニスは

「よせやい!自分で食べれるよ~」

 と笑い、

「前の家に住んでた時、こんな貯金箱もってたの。口からお金入れるのよ」

「俺はブタの貯金箱じゃねぇぞ」

 などと冗談を言いあったりもした。

 
 女子達はそんな二人を見て、

「豚とお似合い」

 と鼻で笑った。

 彼女達はローレンシアがへこたれずにニコニコしているのは面白くなかったが、まあ、相手が豚デニスだから見逃しているのだった。

 もしこれが皆の王子様リーヌス・ファーレンハイトだったりしたら「タダじゃ置かない」ということになっていただろう。



 

 


 
 


 
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