可哀想な私が好き

猫枕

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 40才くらいの男性教師が入ってきて皆に着席を促した。

 先ほど受付で渡された資料を参照して今後のスケジュールについての説明があった。

 教師の声をうわの空で聞きながら、ローレンシアは前方窓際に並んで座る二人の少年から目が離せなかった。

『どうして奴等がここにいるんだろう?』

 ローレンシアは手のひらに冷たい汗が滲むのを感じた。

 入学試験では見かけなかった二人が当然のように座っている。

 庶民とは別の場所で特別な試験でも受けたというのだろうか?

 それにしたって授業は皆一緒なんだろうに。

 しかも3人ともクラスが同じなんて。


 ローレンシアには彼等が何かの権力を使ったとしか思えなかった。

 そこまでしてアードルフが自分を追い詰めたい理由が分からなくてゾッとした。

 或いはテレーゼ伯母様の差し金か。

 しかしそんな事に市長の息子を付き合わせるのも驚きだけど、おとなしく付き合う市長の息子にも呆れる。

 ベルクホーフの腰巾着。

 彼等を馬鹿にしてみたところで、ローレンシアが危機に瀕していることに変わりはない。

 またしても地獄の三年の幕開けか。



 両親が離婚して、知らない場所に厄介払いされた。

 この場所に馴染めずに、友達もできずに学校ではイジメられ、それでももうすぐ故郷に帰れると我慢してきた。

 でも、叶わなかった。

 それなら別の方法で自分の未来を切り拓こうとこの学校を選んだ。

 やっと、今度こそ新しい人間関係を作って居場所ができると思ってたのに・・・。


 だけど、また私は追い立てられるらしい。

 
 ローレンシアのペンを持つ手は冷たく震えていて、書きとめた文字が不細工に曲がっていた。

『どうやら私は結構ダメージを食らっていたらしいわ』

 無視されても仲間外れにされても、持ち物を隠されたり罪をでっち上げられても、悪口を言われたり暴力を振るわれても、

 私は大丈夫

 ずっとそう思ってきたけど。

  
 またか。また、始まるんだ。


 フフフ・・・突然ローレンシアから笑い声が漏れて、隣のレギーナがギョッとした顔でローレンシアを見た。


 
 一通り説明が終わると、一人ずつ自己紹介をさせられることになった。

 教室を見渡すと圧倒的に男子の数が多い。

 勉強重視の学校だから、そうなるのも当然だろう。

 前方に座ってる人から順になされていく自己紹介をローレンシアは聞き流していた。

 どうせ友達にはなれないんだ。

 そして隣に座っているレギーナだってアードルフに命令されれば態度を変えてしまうのだろう。

 せっかく仲良くなれそうだったのになあ。


 リーヌスとアードルフも自己紹介をした。

 彼等の名前を聞くと教室がどよめいた。

 ローレンシアは二人がもっともらしい将来の抱負を語るのを白けた気分で聞いた。
 二人とも何故か出身中学の話はしなかった。

 アードルフがいかにも好青年風にヨロシクと爽やかに微笑んで見せたのにはヘドが出そうだった。

 そしてローレンシアの番が来た。


「ローレンシア・ベルクホーフです」

 ただでさえ注目を集めていた超絶美少女の口からベルクホーフの名が語られると教室内は驚きに包まれた。

「ベルクホーフと言っても正式なベルクホーフの一員では無いんですよ。
 
 私は両親の居ないみなし児で、ご厚意でそこにいらっしゃるアードルフ・ベルクホーフさんのお宅にご厄介になっているんです。

 中学まではセント・カタリナ学院に通っていました」

 カタリナの名前を聞いて教室は再びどよめいた。

 何故将来を約束されたカタリナから州立高校に入学するのか、庶民には理解し難いことだったからだ。

 ザワザワする教室の中で隣のレギーナは

『私は理由を知ってるもんね~』

 とでも言いた気な若干の得意顔で次の自分の番で何を言おうか考えている。

「カタリナの高等科に進まずにこの学校を選んだのは、私はカタリナでイジメに遭っていたからです」

 教室中がシーンとした。

「初等科中等科を通してずっと嫌がらせを受けてきて、友達も一人もいませんでした」

 こう言いながらローレンシアはちょっとデニスのことを思い浮かべた。

 まあ、彼には感謝しているけど、友達ってわけじゃなかったよね。  

「ここに来れば友達ができて互いに励まし合いながら勉学に打ち込めるって、そんな希望を胸に入学したんだけれど・・・」

 ローレンシアはそこで言葉を切って儚げな微笑みを湛えてフゥと溜息をついた。

 男子達が息を呑んだ。

「どうやら無理みたいですね。
 
アードルフ・ベルクホーフさんやリーヌス・ファーレンハイトさんから命令されて従えない人なんていないもの。
 
大丈夫です。
 
 私、皆さんにイジメられても恨んだりなんかしませんから」

 そう言ってローレンシアは俯いた。

 シーーーーン・・・静寂に包まれた教室にはシーーーーンという音が鳴っていると錯覚をするくらいシーーーーンとしていた。

 アードルフはわかりやすく顔を赤くしていたし、リーヌスは

『えっ?僕?僕も?』

 と動揺していた。

 彼には自分がイジメに加担した自覚がなかったのだ。



 先生が、

『どうすんだよ、この空気』 
 
 とでも言いたそうな顔で、

「この学校は課題も多くて勉強に忙しくてイジメなんかしてるヒマはないからな」

 と釘を刺した。

 ローレンシアの後から自己紹介した生徒達は、えーと、とか、あの、とか連発しながら、名前と出身中学を言うと、

「よ、ヨロシクお願いしま~す」

 と遠慮がちに言って着席した。


 
 家に帰ったらどんな目に遭わされるんだろう?

 殴られるのかな?蹴られるのかな?
 ベルクホーフの権力で退学させられるのかな?

 自暴自棄のローレンシアの脳内にヤバい物質が分泌された。

 どうとでもなれ!!

 むしろ私をあの家から追い出してくれ!

 
 さっきの自己紹介でクラスメート達もドン引きした事だろう。



 ボッチ上等!

 ビバお一人様!

 なにやらぶっ壊れたローレンシアは机の下で拳を固くした。
 


 

 
 
 

 

 

 
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