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【話は少し遡る】
中等科の卒業後、夏休みが始まって暫く経った頃リーヌス・ファーレンハイトはこっそり一人で職員室を訪れていた。
ベルクホーフの双子程ではないが、彼もまた市長の息子として、また他にも何人もいる州議会議員やらなんやらの政治家の親戚たちを持つ人物として学院内では優遇されていた。
そんな彼が内々でお願いに来たのである。
「先生、高等科は外部入学者が増えてクラス替えもあるでしょう?
そこでお願いしたいことがあるのですが」
何でしょう?と微笑んだ校長にリーヌスは言葉を濁してハッキリとしない。
校長が辛抱強く聞き出したところによるとリーヌスの希望とはこういうことだった。
「高等科ではリーヌスとローレンシアを同じクラスにして、双子は別のクラスにして欲しい」
ホウホウとニヤけた相槌を打つ校長にリーヌスは、
「これ以上ローレンシアさんがイジメられるのを黙って見てはいられないんです」
と必死で言い訳をした。が、
「なるほど、君はローレンシアさんのことを気遣ってくれていたわけですね。
将来政治家を目指す人物としては素晴らしい心がけだと思いますよ。
しかし、」
そこでリーヌスはローレンシアは先日実施された第一高等学校の試験に合格しており、この学校の高等科には進学しない、という事実を知らされた。
リーヌスはその場ではどうにか自分を保って校長に挨拶をして学校を後にしたが、どうやって家まで帰ったのかよく覚えていない。
とにかく衝撃的すぎてパニックを起こしそうだった。
それから彼がやったのは父親の権力を使って無理矢理第一高等学校に追加の入学試験を行わせ、特別入学という聞いたこともない体裁で入学資格をもぎとることだった。
リーヌスは優秀なので、入学に必要な成績条件は十分に満たしてはいた。
ただ、突然、しかも既に試験の終わった学校にどうしても入りたいと狂ったように騒ぎ立てたのには両親も困惑した。
「今の学校は本当の名門校とは言えない。
僕は将来立派な政治家になる為に一流の大学に行くつもりなんですっっ!!
その為には第一高等に行かなければっっ!!
第一高等には優秀な庶民が沢山いるから、そういう人達と交友関係を築いておくのは将来の票の獲得に必ずや・・・」
うんぬんかんぬんと嘘八百を力説した。
そしてまんまと騙された父親が権力とコネを使ってリーヌスを第一高等学校にねじ込んだわけだ。
リーヌスはほくそ笑んでいた。
これで、ベルクホーフの双子から離れて自分はローレンシアと楽しい高校生活を送るんだ。と。
一方のアードルフも第一高等に行くと騒ぎだした。
何故?と訝しむ母親に、
「アイツを野放しにしたらウチを貶めるようなことを有ること無いことあちこちで広めるかも知れないだろう?」
ともっともらしいことを言った。
「見張っとかないとアイツ何するかわかんないから!」
テレーゼにはアードルフの言うことがもっともに聞こえた。
「それに母さん、アイツが俺達の見てない所で自由に羽根伸ばして楽しそうにやってても平気なの?」
テレーゼかゴクッと唾を呑んだ。
「・・・でも、せっかくカタリナにいるのに・・・」
「馬鹿だな母さん。カタリナなんて地方の私立学校だよ。俺はもっと本物の名門大学に行くんだからさ」
テレーゼは息子の言葉に気を良くした。
そしてベルクホーフの更なる繁栄の為に一流大学に行く、という、本当ですか?という決意を以てどうにか第一高等に入れるようにしてくれ、と父親に泣きついた。
ライムントは急にアードルフがそんなことを言い出すのはおかしいと思ったが、一方で息子を信じたい気持ちもあった。
そしてそれ以上に、
「あなたはローレンシアの為には動くのに、実の息子は可愛くないのですか?」
と鬱陶しく責め立てる妻の相手をするのが面倒で折れてしまった。
ベルクホーフにはファーレンハイトのような回りくどい事は必要なかった。
何故ならカルトシュタットの教育長はベルクホーフに借金があったからだ。
アードルフはリーヌス程ではないにしろ勉強はできたので、後々学力が足りないのに裏口入学させた、と言われる心配はなかったが、不正は不正である。
第一高等の教師の中にはそのような特別措置に対して疑問を持つ者もいたが、市の教育長からの直々のお達しで入学許可となった対象の生徒がベルクホーフの子弟だと知ると、
「詮索するのは止めとこう」
と長いものには巻かれろ精神に徹することになった。
この街でベルクホーフに盾突くことは『すなわち死』。
カルトシュタットではそんな噂がまことしやかに囁かれていた。
そうやって迎えた第一高等学校の入学の日、お互いを出し抜いたつもりの二人は校門で鉢合わせした。
気まずい沈黙の後、
「あ、・・・オマエもここ?」
「あ、・・・うん、将来はイヌンシュタットの大学に行こうと思って・・」
「・・・だよな?」
「ああ、またヨロシクな」
「うん、ヨロシク・・」
そうやって二人仲良く?連れ立って教室に向かった。
学校側が気を遣ってくれたのか、同じ学校出身の二人は同じクラスだった。
そして着いた先にはもう一人同じ学校出身の生徒がいたわけで。
「ちょっと、ちょっと、イケメン来たーーー!!」
興奮するレギーナの視線の先にいた人物を見て、ローレンシアは気が遠くなった。
中等科の卒業後、夏休みが始まって暫く経った頃リーヌス・ファーレンハイトはこっそり一人で職員室を訪れていた。
ベルクホーフの双子程ではないが、彼もまた市長の息子として、また他にも何人もいる州議会議員やらなんやらの政治家の親戚たちを持つ人物として学院内では優遇されていた。
そんな彼が内々でお願いに来たのである。
「先生、高等科は外部入学者が増えてクラス替えもあるでしょう?
そこでお願いしたいことがあるのですが」
何でしょう?と微笑んだ校長にリーヌスは言葉を濁してハッキリとしない。
校長が辛抱強く聞き出したところによるとリーヌスの希望とはこういうことだった。
「高等科ではリーヌスとローレンシアを同じクラスにして、双子は別のクラスにして欲しい」
ホウホウとニヤけた相槌を打つ校長にリーヌスは、
「これ以上ローレンシアさんがイジメられるのを黙って見てはいられないんです」
と必死で言い訳をした。が、
「なるほど、君はローレンシアさんのことを気遣ってくれていたわけですね。
将来政治家を目指す人物としては素晴らしい心がけだと思いますよ。
しかし、」
そこでリーヌスはローレンシアは先日実施された第一高等学校の試験に合格しており、この学校の高等科には進学しない、という事実を知らされた。
リーヌスはその場ではどうにか自分を保って校長に挨拶をして学校を後にしたが、どうやって家まで帰ったのかよく覚えていない。
とにかく衝撃的すぎてパニックを起こしそうだった。
それから彼がやったのは父親の権力を使って無理矢理第一高等学校に追加の入学試験を行わせ、特別入学という聞いたこともない体裁で入学資格をもぎとることだった。
リーヌスは優秀なので、入学に必要な成績条件は十分に満たしてはいた。
ただ、突然、しかも既に試験の終わった学校にどうしても入りたいと狂ったように騒ぎ立てたのには両親も困惑した。
「今の学校は本当の名門校とは言えない。
僕は将来立派な政治家になる為に一流の大学に行くつもりなんですっっ!!
その為には第一高等に行かなければっっ!!
第一高等には優秀な庶民が沢山いるから、そういう人達と交友関係を築いておくのは将来の票の獲得に必ずや・・・」
うんぬんかんぬんと嘘八百を力説した。
そしてまんまと騙された父親が権力とコネを使ってリーヌスを第一高等学校にねじ込んだわけだ。
リーヌスはほくそ笑んでいた。
これで、ベルクホーフの双子から離れて自分はローレンシアと楽しい高校生活を送るんだ。と。
一方のアードルフも第一高等に行くと騒ぎだした。
何故?と訝しむ母親に、
「アイツを野放しにしたらウチを貶めるようなことを有ること無いことあちこちで広めるかも知れないだろう?」
ともっともらしいことを言った。
「見張っとかないとアイツ何するかわかんないから!」
テレーゼにはアードルフの言うことがもっともに聞こえた。
「それに母さん、アイツが俺達の見てない所で自由に羽根伸ばして楽しそうにやってても平気なの?」
テレーゼかゴクッと唾を呑んだ。
「・・・でも、せっかくカタリナにいるのに・・・」
「馬鹿だな母さん。カタリナなんて地方の私立学校だよ。俺はもっと本物の名門大学に行くんだからさ」
テレーゼは息子の言葉に気を良くした。
そしてベルクホーフの更なる繁栄の為に一流大学に行く、という、本当ですか?という決意を以てどうにか第一高等に入れるようにしてくれ、と父親に泣きついた。
ライムントは急にアードルフがそんなことを言い出すのはおかしいと思ったが、一方で息子を信じたい気持ちもあった。
そしてそれ以上に、
「あなたはローレンシアの為には動くのに、実の息子は可愛くないのですか?」
と鬱陶しく責め立てる妻の相手をするのが面倒で折れてしまった。
ベルクホーフにはファーレンハイトのような回りくどい事は必要なかった。
何故ならカルトシュタットの教育長はベルクホーフに借金があったからだ。
アードルフはリーヌス程ではないにしろ勉強はできたので、後々学力が足りないのに裏口入学させた、と言われる心配はなかったが、不正は不正である。
第一高等の教師の中にはそのような特別措置に対して疑問を持つ者もいたが、市の教育長からの直々のお達しで入学許可となった対象の生徒がベルクホーフの子弟だと知ると、
「詮索するのは止めとこう」
と長いものには巻かれろ精神に徹することになった。
この街でベルクホーフに盾突くことは『すなわち死』。
カルトシュタットではそんな噂がまことしやかに囁かれていた。
そうやって迎えた第一高等学校の入学の日、お互いを出し抜いたつもりの二人は校門で鉢合わせした。
気まずい沈黙の後、
「あ、・・・オマエもここ?」
「あ、・・・うん、将来はイヌンシュタットの大学に行こうと思って・・」
「・・・だよな?」
「ああ、またヨロシクな」
「うん、ヨロシク・・」
そうやって二人仲良く?連れ立って教室に向かった。
学校側が気を遣ってくれたのか、同じ学校出身の二人は同じクラスだった。
そして着いた先にはもう一人同じ学校出身の生徒がいたわけで。
「ちょっと、ちょっと、イケメン来たーーー!!」
興奮するレギーナの視線の先にいた人物を見て、ローレンシアは気が遠くなった。
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