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⑭
しおりを挟む先制パンチを食らったアードルフとリーヌスは魂を抜かれたようになった。
そしてこのままではマズいからローレンシアをなんとかしようと相談した。
初日はオリエンテーションだけで午前中で終わった。
ローレンシアはアードルフに捕まる前に急いで帰ることにした。
高校入学を期にローレンシアはバス通学を始めた。
祖母は渋っていたが、車で送迎される生徒なんか州立高校にはいない、と力説してようやく許可を貰った。
アードルフは車だろうから今後は学校の行き帰りでも顔を合わせずに済む。
とりあえず別邸に逃げ込めば今日は無事でいられるだろう。
早足でエントランスに辿り着いた時、後ろから腕を掴まれた。
驚いて振り返ると険しい顔をしたアードルフとその後ろにリーヌスが立っていた。
「オマエ・・・」
アードルフはどうにかしてクラスメートの誤解(事実なのだが)を解く為にローレンシアを丸め込まなければと焦っていた。
もうイジメないということを条件に、さっきの自己紹介は冗談だった、とかなんだとかアードルフにとって都合の良いことを言ってもらうつもりだったのだ。
周りには他のクラスの生徒たちも続々とエントランスに降りてきている。
ローレンシアは突然大声を出した。
半分叫んでいた。
「申し訳ございません!!
アードルフお坊ちゃま!!
市長の御子息様!!」
周囲の生徒達の注目が集まる中でアードルフが狼狽えている。
「・・・ちょっ・・ちょっ、オマエ」
「お願いでございます、アードルフお坊ちゃま!!
お仕置きは後でいくらでも受けますから、せめて人目のある所ではご勘弁ください!!」
張り上げたローレンシアの声は震えていて目は潤んでいる。
事情のサッパリ解らない他の生徒達には男二人が女の子をイジメているようにしか見えない。
「え?お坊っちゃま?」
「お仕置き?」
「今、お仕置きとか言ってたよな?」
遠巻きにヒソヒソと白い目で見られることに居たたまれなくなった二人が逃げるように立ち去った。
『あ~あ、やっちまったな~。
どうなっちゃうのかな~私。
殺されちゃうかも~ハハッ』
すると背後から、
「やだぁ~先に行っちゃうんだも~ん。
一緒に帰ろう?」
とレギーナがニコニコしながら声を掛けてきた。
「え?」
後ろには更に4人女の子がいる。
えっと、マヌエラは分かる。
あと、・・・なんか一人増えてる。
「この子ドーラ。さっき自己紹介したから分かるよね?」
「あ、うん。ヨロシクね」
ローレンシアは全然覚えていなかったが適当に話を合わせる。
「クラスに女子は6人しかいないから、私達団結しないとね?」
レギーナがお茶目に言うと、さっき紹介されたドーラが女の子としては低い声で、
「そうです。男どもに対抗するためには私達は連帯しなければならないのです」
と言って、その言い方が面白かったので皆で笑った。
「ねぇ、せっかくだから今日は奮発して皆でお昼食べに行かない?」
レギーナが提案して皆でゾロゾロ市街地に歩いて行った。
どこか店に入るのかと思ったらスタンドでビスマルクサンドイッチと飲み物を買って公園に移動するらしい。
ローレンシアも初めての体験に見よう見真似で後に続く。
芝生に円を組んで腰掛けてサンドイッチを食べる。
レギーナが、
「あーあ、イケメンだと思ったら嫌なヤツだったんだ、残念!」
と笑った。
「まあ、どっち道ベルクホーフじゃ相手にもされないんだけどね」
「男には注意しなければなりません!」
ドーラの低い声に皆が笑った。
「だけど、あの市長の息子さん。あんな王子様みたいな顔をして、あの人もイジメっ子だなんてショックだわ」
マヌエラが言うと皆がウンウンと頷いた。
その後の会話の中で、ローレンシアが覚えていなかった後二人の名前をアガーテとアラベラだと確認し、ちゃんと覚えていた体で彼女達の名前を呼んだりした。
「なんだかピクニックみたいで楽しいわ。
私、学校では遠足に行ったことなかったから」
ローレンシアの発言に、えっ?と皆が驚いた顔をする。
「いつもどのグループが私を入れるかで揉めるのよ。
それが決まるまで皆が私の悪口を口々に言うのを黙って聞いてなきゃいけないの。
まあ、当日は『風邪を引いた』って欠席するんだから関係無いんだけど」
「・・・全員にイジメられていたの?」
皆が神妙な顔をする。
「仕方ないのよ。ベルクホーフに命令されたら刃向かえる人間なんていないもの。
『お前の父親の会社なんか簡単に潰せるんだからな!』
なんて言われたら・・・ねぇ?」
ローレンシアがお得意の儚げな困り顔で微笑むと、俄然少女達の正義感が燃え上がる。
「今度は大丈夫だよ。私達がいるから。
6人で結束すれば怖くないって!」
レギーナが真剣な眼差しでローレンシアを真っ直ぐに見た。
「私、命令されたってアンタをイジメたりしないから」
残りの4人も口を真一文字に結んで力強く頷いた。
そうは言ってもアードルフに脅されればこの子達も簡単に寝返ってしまうんだろうな。
そう思いながらも少女達の励ましが嬉しくて、ローレンシアは演技ではなく本物の涙を流した。
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