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しおりを挟む学年末テストに向けて連日6人は放課後勉強会を開いて苦手克服に努めた。
元々勉強で苦労したことは無い6人だったが、優秀なのは他の生徒達も同じだから気が抜けない。
「いい?必ずや皆で好成績を残して薄らハゲに目に物見せてやるんだからね?!」
レギーナが息巻いた。
「問題はむしろ『リカルド・アイスクリーム』の歌が脳内に侵入するのをどう阻止するか、じゃない?」
「あーもー、アラベラがいらんこと言うから既に流れはじめたよ~」
「脳みそ♪溶け~・ちゃ・うよ~♪」
すぐにアガーテも悪ノリする。
「なんかさ、何の関連性があるのか分からないけど『これをやり始めるとこの風景が浮かぶ』みたいなのない?
私は数学の問題解き始めると必ずイヌンシュタットの某中学校のグランド裏の道の風景が目に浮かぶの。
特に思い入れのある場所じゃないんだけど」
ローレンシアが話を振ると
「あるある~。私はなぜだかグラーシュを食べると幼少期に庭で水遊びしていた光景が蘇るんだけど、あれって何?」
とマヌエラ。
それぞれが『謎の条件反射』について語り出し、一向に勉強が始まらない。
「でも、これって勉強会あるあるだよね~。皆徹夜して頑張れ~」
とレギーナが言って皆で笑った。
ローレンシアには友達と勉強会なんて初体験だったので、あるあるというよりナシナシだったが。
そんな楽しそうな勉強会にリーヌスも参加したがっていたが、
「打倒男子!」
を掲げていたため仲間に入れてとは言いづらかったようだ。
クラスの男子の中には放課後しれっと教室に残って自分も仲間に入れてもらおうとする者もいたが、彼女たちの頭に巻いたハチマキの「打倒男子!」の文字に、
「何だよお前ら感じ悪いな~。
前は一緒に弁当食べた仲だってのにさあ!」
などと文句を言った。
「ローレンシアなんかウチの母ちゃんの卵焼きで育ったようなモンだろう?」
「あれは美味しかったわよね~。今でも時々食べたくなるわ。
『忘れじの味』ってヤツね」
「卵焼き持って来たら私達のランチ会に入れてやってもいいわよ」
とレギーナ。
「ホントか?」
「卵焼きだけね」
「なんだよソレ~」
最近はちょっとした冗談が言い合えるくらいにはクラスの男女間の空気も改善されつつある。
そんなこんなで時々脱線しつつも共に勉強し、帰宅後も夜遅くまで勉強し、励まし合い臨んだ試験は6人全員が学年で30位内に入る好成績を納めた。
特にドーラは総合2位という輝かしい成績を残した。
ちなみに1位はリーヌス。
それが気に入らなかったレギーナは自分のことは棚に上げてドーラに、
「なんであと3点獲れ無いかな~」
と八つ当たりし、ドーラは
「2位じゃいけないんですか?」
と笑いを誘った。
そして夏休みになった。
ローレンシアは今年の夏休みはカルトシュタットに残った。
そして6人でプールに行ったり、デニスも誘ってレギーナのおじいちゃん達と公民館ダンスをしたり、市立図書館で一緒に宿題をしたり、ついお喋りに夢中になって司書さんにつまみ出されたりして過ごした。
マヌエラの家の庭でキャンプもやった。
毎日が楽しかった。
生まれて初めての気持ちだった。
それがローレンシアを不安にさせた。
私がこんなに幸せなわけがない。
調子に乗っていると今に足元を掬われて、どん底に落ちていくんだ。
そしてその不安はローレンシアの思いもよらない形で実現した。
恋人に捨てられたローレンシアの母親エヴェリンがベルクホーフに出戻って来たのだ。
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