4人の女

猫枕

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 スタール侯爵家の素晴らしい庭園に造られた温室の中で女4人の小さなお茶会が開かれている。
 
 いずれも咲き乱れる華やかな花々にひけをとらぬ美しきご婦人達。

 この4人がこうして集まるのは今回で2回目。
 
 年齢も出身地も違う4人が集うようになったのは彼女達のある共通点のためであった。

  4人は全員ある一人の男性、ジルベール・タレーラン公爵令息の元妻なのである。

 そして、これも何かの縁だから仲良くしましょうと集まってみたものの、話は共通の話題、あの男のことになるのは自然な流れであって。

 
 まずはこのお茶会の主催者であるカトリーヌ・スタール侯爵令嬢28才。

 かつて傾国の美少女と呼ばれた美貌は今もなお健在である。
 
彼女がジルベールと結婚したのは学校を卒業したばかりの18才の時であった。
 
 血統といい美貌といい教養といい文句のつけようのない完璧な令嬢であったカトリーヌは本来であれば王子妃になるのが妥当と思われる人材であったが、幸か不幸か同年代に王子はおらず、結果として当時の結婚適齢期の男子としては一番身分の高いタレーラン公爵令息ジルベールに嫁ぐことになったのである。

 当時21才のジルベールは絶世の美男子、氷の貴公子と謳われ、彼との結婚が決まったカトリーヌは周囲からたいそう羨ましがられた。
  
 公爵という家柄に加えてジルベールの母親は王妹、そして莫大な資産を有し、どこをどう見ても将来への不安要素のカケラも無いことも、周囲の妬み混じりの羨望をかきたてた。

 しかして、その結婚生活とは。


「皆さんはどうでしたの?
 
 私は

『私に愛を請うな。お前を愛するつもりなどない』

 って初夜に言われましたけど」



「私もですわ。こーんな顔をして」



 眉間に不機嫌そうなシワをこさえて真っ先に答えたのはセリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢27才。

 カトリーヌが2ヶ月ともたずに実家に逃げ帰った後、ジルベールの二番目の妻になった令嬢である。

「私も馬鹿だったのですわ。

 最初にジルベール様との縁談が来た時は舞い上がりましたの。

 『あんな美しい男性の妻になれるなんて』
 って。

 きっとカトリーヌ様はジルベール様を怒らせるようなことをしたに違いない。

 私ならそんなヘマはしないって」

 セリーヌは浅はかな過去の自分を恥じるように顔を赤らめて俯いた。

 
 
「私は加えて

ジルベールわたしから用がない限りお前から私に話かけるな』

 とも言われましたわ 」

 そう答えたのはイネス・フーリエ伯爵令嬢25才だ。

 全員がフッと吐き捨てるような笑みをこぼす。


 「私の時は少し事情が違っていました」

 遠慮がちに言ったのはミレイユ・リオンヌ子爵夫人23才だ。

「私が嫁ぐ時には既にジルベール様について冷酷無慈悲だという噂が広まっていました。
 貴族の中でも有力な家のお嬢様達はタレーラン家を敬遠していて、打診があると、

『他に決まった人がいる』

と逃げるようになっていたんです」


 当初は我儘で氷の貴公子の不興を買ったと悪く言われていた令嬢達だったが、こうも続くとさすがにおかしいのはジルベールの方でないかと噂が立った。

 次第に大事な娘を傷物にされたくない親達は、タレーラン家からの縁談に理由をつけて断るようになった。

 この頃になると結婚までは至らなかったものの、結婚前提でジルベールと生活を共にして、逃げ帰ったり追い出されたりした令嬢が多数おり、その数は両手の指では足りないほどだと言われていた。

「ですから、皆様のような高位貴族のお嬢様方はいなくなって、とうとう私のような弱小子爵家の娘にまで話が来たのですわ」 

 
他の三人と比べてミレイユは遥かに怒りの度合いが大きく見えた。


「私には子供の頃から将来を誓い合っていた今の主人ジャン様がいたのに。

 圧倒的な権力の差があるお相手からのお話を断れるわけがありませんでした」


 今にも泣きそうな顔をするミレイユに、


「辛かったわね。

 でも、本当に愛する人と結婚できて良かったじゃない」

 とイネスが慰める。

「それはそうなんですけど、どうしてもと言われて嫁いだのに、あんな仕打ちをされて・・・」

「許せない気持ちは分かるわ」

 とカトリーヌ。


「私の場合は皆さんと違って、ジルベール様だけでなくお義母様からの嫌がらせが酷かったんです。

 『アンタみたいな身分の低い女がタレーラン家の嫁だなんて認めないわ』
 って。

 私はジャン様と無理矢理別れさせられたのに」

「ハッ!あのババア」

「私、思わず

『好きで嫁いだわけじゃありませんわ』

 って言ってしまったら引っ叩かれましたわ」


 4人それぞれが自分の身に起きた腹立たしい記憶を想起させて表情に怒りを露にしていた。





 ジルベールは自分の性格を棚に上げて、ヒステリックな母親のことを批判し嫌っていた。

 その為、王都の一等地にある本邸に住まずに郊外の日が落ちたら真っ暗闇になる、タヌキの棲みかのような場所に小さな家を作って、子供の頃から面倒を看てくれていた『心の母』シノと二人で暮らしている。


「あの小屋も、

『身分が高くてお金持ちなのに敢えて贅沢しないボクちん』
 
みたいなスタイルなの見え見え」


「ホントに質素に暮らす覚悟があるのなら全財産寄付でもしてみればいいじゃないですかね?」


 ミレイユの発言に皆が吹き出す。


「草庵、とかカッコつけてほざいてましたね」

「私達のことはあばら家に押し込めておいて、ご自分は王都で贅沢してお帰りになるのだから大した

『庶民に寄り添う慎ましやかな公子様』
 
よね」

 皆の乾いた笑いが温室の暖かい空気に溶けていく。


「それとほら、シノ?でしたっけ?家政婦の」


「あー、あのババアね」



「私、本当に何にもしてないんですよ。

 それなのにあのババアが、

『セリーヌ様は私のことがお嫌いみたいで・・・』

 とか弱々しくジルベール様に言いつけて、

『シノを苛めるような女は許さない!
 今すぐ出ていけ!!』

 って追い出されたんですの」


「あー、私もあったわー

『私の考え過ぎかも知れないんですけどぉ~』

 とか

『気のせいだと思うんですけどぉ~』

 とか。

 その度にジルベール様が睨み付けてくるのよね」 


「あの人、自分がジルベール様のお嫁さんになりたかったんでしょうね」


「気持ち悪~ぅ」
 
 
 このままだとシワが増えていきそうな4人の悪口大会はまだまだ続くのであった。









 







 



    
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