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お母上様参上!
「楽しかったわ」
「また会いましょうね」
にこやかに挨拶を交わしてお茶会はお開きとなり、カトリーヌはお菓子のお土産を沢山持たせてくれた。
迎えの馬車に乗り込むと、なんとジルベールが待っていて驚いた。
「心配で仕事を早めに切り上げて迎えに来た。
あの女狐に意地悪をされたのではないか?
それなら即座に抗議を申し入れ成敗してくれるわ」
「いえ、そんなことはありませんわ。
皆様とてもお優しくって私の話を聞いてくださって。
私にはお友達がいませんから本当に楽しかったです」
嬉しそうに言うとジルベールが少し面白くなさそうな顔をしたのを即座に感じ取ったクラリスが
「ジルベール様が参加を許可してくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。
ありがとうございます」
と言う。
すると機嫌を直したのか
「まあ、女同士で楽しむ時間も必要だろうな」
と美しい顔で笑った。
『イネス様に誕生日会に誘われたことは今はまだ黙っていた方がいいだろうな』
クラリスは直感的にそう思った。
二人が一緒に帰って来たこと、そしてクラリスが晴れ晴れとした顔でお土産を沢山抱えて自分に渡してきたことがシノの気分を害した。
てっきりご令嬢達に苛められて意気消沈して帰ってくるものとばかり思っていたのに。
それに最近の坊っちゃまはクラリスに執心しているように見える。
まさか坊っちゃまは本気でこの地味でつまらない女と結婚するつもりじゃないでしょうね?
どうにかして邪魔をしたいシノに好機はすぐにやって来た。
ジルベールが広大な公爵領の内のヴァスト ランド地方への一週間の視察に行くことになったのだ。
ジルベールが出発した日、シノは季節のご挨拶という名の告げ口を本邸の公爵夫人、ジルベールの母親宛に出した。
身分の低い美点の一つも無い女がジルベール坊っちゃんに取り入って、こともあろうに由緒正しきタレーラン家に入り込もうとしている。
シノは心配で心配で・・・。
早速、翌日ジルベールの『草庵』に豪華な馬車が乗り付けられ、中から派手なドレスを纏ったやんごとなきご婦人が2名降り立った。
ジルベールの母マルティーナと姉フランシーヌだ。
その時クラリスは自作のモンペを履いて春になったら畑を作ろうと庭の一部を耕していた。
「無名男爵の娘なんかジルベールが相手にするわけが無いと思っていたから油断したわ!」
フランシーヌが忌々しげに顔を歪めた。
お茶会の席でも話題になっていたジルベールの姉であるが、論外だと思われていたクラリスが彼女の襲撃を受けることは無かったのだ。
「どういうことなの?」
マルティーナがシノに詰め寄る。
「坊っちゃまも最初はクラリス様の事など歯牙にも掛けぬご様子で、私も安心しておりましたんですが。
なんとも計算高い女なんです。
惨めったらしく家政婦の真似事なんか始めましてね。
それで坊っちゃまの気を引いたんだと思います。
坊っちゃまはお優しいですからね」
「そんなの一時の気の迷いなんじゃなくて?」
「私も初めはそう思っていたのですが・・・」
「まあ、いいわ。
それでその娘は何処にいるの」
「呼んで参ります」
「待って。私達がこっそり近づいて様子を見た方が本性が顕になっていいんじゃない?」
さすがはフランシーヌ、伊達に『タレーランの つむじ曲がり姫』の異名をとる女ではない。
性格の悪さは折り紙付きだ。
シノの後をついて、ジルベールご自慢の『草庵』に
「いつ来てもみすぼらしい」
だの、
「タレーランの次期当主とも思えない恥ずかしい家だ」
だのとブツブツ文句をつけながら、これまたみすぼらしい庭にたどり着いた二人。
建物の陰に隠れながら
「アレです」
シノが指をさす。
「「えっ?アレ?」」
二人の視線の先には頬っ被りをして呑気に鼻唄を歌いながら鍬を振る、素朴を具現化したような、どこから見ても農家の娘がいた。
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