幽霊令嬢

猫枕

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 「そろそろ復讐も終わるし、そうしたら私、どうしようかな・・」  

  セレネがいつになく浮かない顔でそんなことを言い出したので、ゼファーは正体不明な不安を感じた。

「どうするって?」

「目的も遂げて、晴れて死ぬしかないのかなって」

「・・・晴れて死ぬ・・・」

「だって、今更『嘘でした~死んでませ~ん』なんて出ていったらどうなると思います?」

「まあ、袋叩き?」

 「でしょ?かといっていつまでもここで居候してるわけにもいかないですし」

「・・・俺は別に構わないけど」

 「本格的に、幽霊として生きる道しか残されていないのかなぁ・・・」

「ちょっと今サラッと聞き逃しそうになったけど、

 『幽霊として生きる』

 ってパワーワードだな」

「幽霊死んでるもんね...ハハ」

「復讐済んだって・・・継母には何もしないのか?」

継母あの人は一連の騒動の責任を押し付けられて離婚になったから。
 カサンドラも退院までは父が面倒を見るみたいですけど、そのあとは放逐されるそうですし。
 本当に形ばかりの資産しか渡されずに追い出されたみたい。

 これからの生活は厳しいものになるでしょうね。

 また美貌を使って誰か捕まえるんでしょうけど、きっと今回の醜聞で まともな家は相手にしない。

 継母あの人にとっては幽霊なんかより貧乏の方がよっぽど怖いんでしょうし」

「違いねぇな」

 セレネはフフっと笑ってから、

「私は、よっぽど父の方が悪いって思うんですけどね。
 
面倒から逃げて問題から目を背けて、後妻母娘の暴走を放置した結果の今なのに、被害者面して継母を罵倒して、離婚して追い出すなんて我が父ながら情けないですわ」

「父親には化けて出ないのか?」

「あーなんでしょうこの感覚。

 今すぐにでも出ていって、亡くなった母の事とかも含めて、言いたいこと全部ぶちまけてやりたい!って気持ちもあるんですよ。

 だけど一方で、関わりたくない、っていうか、放置したいって気分にもなるんです。

 きっとこの人は私の母ともきちんと向き合うことは無かったんだろうなって。

 私は当時幼かったから分かりませんでしたけど、きっと母も父との関係の中で孤独を感じていたのではないかと思うんです。

 私にとって死んだ母は心から信頼できるほとんど唯一の存在だったんです。

 その母を孤独にした父をまともに取り合う必要を感じないっていうか・・ 」

 ゼファーは黙って聞いていた。

「父は母の実家からも責められているみたいですし、邸はあの有り様でしょ?
 気味悪がって後妻に入る人間はいないと思うし、後妻どころか使用人の確保すら難しいのが実情でしょ。

 まあ、このまま、一人淋しく生きていくんじゃないですか?

 それこそ死ぬまで。

 それがあの人の受ける罰なのかな・・・って」

 「そうか」

「『どうして私に相談してくれなかったのだ!』
 とか、『幽霊でもいいから会いに来てくれ!』とか言って嘆いていますけど、私にはそれが白々しいポーズにしか見えないんですよ。

 むしろ幽霊として出ていって相手しちゃったら調子に乗るんじゃないかって」

「調子に乗るって・・・

 まあ、オマエがそう決めたんならそれでいいけど。

 後は・・・ほら、あのオマエの元婚約者」

「アントン?」

「そうそう。アイツもおとがめ無しかよ?」

 ゼファーの声はどこか不服そうだった。

「う~ん。アントンの場合は父に対する気持ちとはちょっと違うのよね~。
 
 確かにカサンドラ側につかれた時はショックだったし、

 『ああ、私は本当にひとりぼっちなんだなぁ』

 って全身から熱が消えていくように悲しかったわ。

 だけど、優しくしてくれたこともいっぱいあるし、良い思い出もたくさんあるの。

 母が亡くなってからは心の支えだったし、・・・うん、やっぱり彼には感謝してるのよ」

「まだ好きなのか?」

「そんなんじゃないわ。

 だけど、彼はデュカキス家の三男だから本来はサマラス家の婿養子になる取り決めだったのよね。

 それが私の死によって無効になっちゃった。

 普通ならカサンドラと結婚してって道もあっただろうけど、事情が事情だからそれは無理になったでしょ。
 
 そもそもカサンドラはサマラス家の養子じゃなくなったしね。

 そんなわけだからアントンを婿に迎えようって家が今後出てくるかどうか分からないし、あったとしても好条件はなかなか望めないんじゃないかな。

 まあ、彼も充分罰は受けてますよ」

「・・・なんかモヤモヤするけどな」
  
「乙女心って言うんですか?

 やっぱり、こうなっても彼の思い出の中の私は可愛くありたいんですよ。

 なんだかんだ言って初恋ですからね 」 


「・・・面白くねぇ・・・」

「ゼファー様。ゼファー様にはとても感謝しています。

 だけどどうして見ず知らずの偶然会っただけの私の復讐をこんなに手伝ってくださるんですか?」

「・・・面白いから・・・?」

「正義感がお強いから、よってたかって私をイジメた人達に制裁を加えずにはいられなかったんですか?」

「正義感?無いよそんなもん。
 俺の行動原理は
 
『どっちの方が面白いか』

 だけだもん」

「・・・・まあ、そんな気はしてたんですけどね・・」









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