幽霊令嬢

猫枕

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 「あー面倒くせぇ」

「どうしたんですか?」

「そろそろ王宮主催の舞踏会の時期だからさ、兄貴から呼び出しかかるだろうなって」

「王宮からの呼び出しってどうやって来るんですか?
 ゼファー様が用事がある時は勝手に会いに行くんでしょうけど、向こうからじゃココに入る事も手紙を届ける事もできないじゃないですか。

 王様がゼファー様に用事がある時はどうやって連絡取るんですか?」

「まあ、その内わかるよ」


 ゼファーとセレネは毎日のように馬に乗って森を駆け抜けたり、森の動植物を観察したりして楽しんだ。

「毎日楽しいんですけど、な~んか宙ぶらりんな感じなんですよね~。

 このままでいいのかな、って」

「ああ、わかるよ」

「学校も途中で辞めちゃったし、勉強もちゃんとできなかったし」

「俺は成績優秀だったぞ!」

「へー。

 私は元々勉強って特別好きなわけでも出来る方でもなかったけど、あの頃は陰口に怯えて、授業中頭になにも入って来なかった。

 今になったら、もう少しちゃんと勉強しておけばよかったなって思うの」

 「そうか~?」


「だって、植物見てもキレイだな~とか珍しいな~くらいにしか思わないけど、知識があったら見方も変わるでしょ?
 もしかしたら何か人の役に立つ発見ができるかも知れないじゃないですか」

「向上心、なにそれ美味しいの?」

「私だってこんな風に考える余裕ができたのってここ最近なんですから。

 ゼファー様のお陰ですね」

 セレネがニコッと笑うと、

「俺はただオマエと一緒に悪ふざけしてただけだよ・・・」

 と照れている。

「あ、そうだ!ゼファー様が勉強教えてくださいよ!」

「それは無理」

「どうしてですか?成績優秀だったんですよね?」

「ザ・カンニング!!」

「・・・・」

 「・・・・そういう心底蔑むような顔ヤメロよな~」

「ゼファー様の一番得意な魔法って、やっぱりお水関係ですか?」

「お水って、言い方がちょっと・・・。違うよ俺の名前ゼファーだよ、風の神よ」

「ああ~なるほど~良いこと考えた!」





 「で、なんで俺がオマエの洗った後の髪を乾かしてやんなきゃいけないわけ?」

 「有効利用、有効利用。他人の役に立つって嬉しいでしょ?」

「・・・俺が本気出せば全土が一瞬で更地になんのよ?

 オマエの頭なんて草木の一本も生えない状態になっちゃうのよ?」

「文字通り不毛地帯!ってヤメテよね。
 
  だけど、そんな凄い魔法使いなのに、なんでこんな所で蟄居してるんですか?

 それこそ本気だしたら世界征服も夢じゃないでしょうに、王宮に忍び込んでコソ泥とか盗み食いしてるだけなんて、才能の無駄遣いじゃないですか?」

 「もう頑張りたくない」

 そう言ったゼファーが今までみたこともない寂しそうな表情だったので、セレネは余計なことを聞いてしまったのかと少し気まずくなった。

 すると鏡の中から王様の声が聞こえてきた。



「おい!ゼファー!返事しろ!」

 王様が大きな声でゼファーを呼んでいる。

「ゼファー!ゼファー!聞こえてるんだろう?返事しろよ!」

 イライラしたように空中をあちこち睨みつけながら次第に声が大きくなってくる。

「用事があるんだよ!!
 返事しろ!おい!ゼファー!」


「見て見て、あの顔!真っ赤!」

 ゼファーは鏡の中の王様を指差してゲラゲラ笑っている。

「悪いんだ~」

 セレネも一緒になって笑っている。

「ゼファー!ゼファー!いい加減にしろ!私は忙しいんだ!
 早く返事しろ!」


「なんかメッチャ怒ってますけど~」 

「赤鬼みたい~」

 二人でプフフと笑いあってから、
ゼファーが鏡の中に移動した。

「どうした?兄ちゃん」

「呼ばれたらさっさと来んか!」

「悪りー悪りー。ウンコが固くてさ~」 

 ゼファーはヘラヘラしている。

「用事って何?」

「お前、ヴィクトリア王女からの婚約の打診にまだ返事をしていなかったんだな?」


 ゼファー様の縁談・・・王様の言葉を聞いた途端なぜだかセレネの胸がズキンと傷んだ。

 ヴィクトリア王女って、近隣の国のお姫様なのかな・・・・まあ、ゼファー様はちっとも王子様っぽくないけど一応は王子様だし、しょうもないことにしか使ってないけど大魔法使いだもんね。

 縁談があって当たり前だよね。

 セレネは王家に関わるプライベートなことに首を突っ込むべきでは無いと判断し、そっと鏡の前を離れて自分の部屋に戻った。


 こんな生活がいつまでも続くわけがないことくらい最初からわかっていたけれど、一体私はこれからどうすればいいのだろうか。

 セレネは漠然とした不安を抱えながらベッドに入った。

 ゼファー様が結婚したら、おそらくこんな森の中で暮らすわけはない。

 王様からちゃんとしたお城を貰うのか、それとも外国に婿入りするのかも知れない。

 その時ゼファー様は私を使用人の一人として連れて行ってくれるだろうか?

 ああ、そうか。私は掃除も洗濯も料理もお給料をもらえるほどにはできないのだった。

 グルグルと色んなことを考えているうちにセレネは自然と涙を流していた。

 変なの。

 ついこの間まで死ぬつもりだったのに。

 気がついたらゼファー様との日常が離れ難くかけがえのないものになっているなんて。
 
 


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