ペンフレンズ〜犬猿の二人の往復書簡〜

猫枕

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17  続く怪談

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 ~リバティの幽霊といえば、こっちは本物なんだけどさ、通称
〈隅っこの人〉ってのが有名なんだ。
 寮の部屋では必ず部屋の四隅に何か置いとかなくちゃいけない。
 ゴミ箱でもなんでもいいから置いてね、角を空間のままにしちゃいけないって言われてるんだ。
 何故かって?決まってるじゃん〈隅っこの人〉が出るからだよ。

 夜、試験勉強なんかしててさ、そろそろ眠いな~なんてフッと視線を上に移すだろ?

 そしたら天井の角から長い髪の幽霊がスーーッと逆さまに出てきて、そのままスーーッと何も無い角の床に消えていくんだ。

 黒くて長い髪がさ、ストンと下に垂れ下がってるんだ。

 ただ現れて消えていくだけだから、あっ出た!と思ったら目を反らせて見なきゃ大丈夫なんだけどさ、そいつと目が合っちまうと正気を失くして狂っちまうんだってさ。

 だから君も部屋の四隅には鉢植えでもなんでもいいから置いとかないと〈隅っこの人〉が来るかもしれないよ~


 この話は絶妙にラナを怖がらせた。
 作り話にきまってると頭では分かっていたのに、いざ就寝時間になると急に恐怖が襲ってきたのだ。

 気にしないようにすればするほど天井が気になった。
 バカバカしい、とベッドに入ってはみたものの、何も置かれていない部屋の角が気になって仕方が無くなった。 
 勇気を振り絞って寝床を抜け出して、空いていた2つの角のうち1つにはゴミ箱を、もう1つには廊下の壁龕ニッチの上の壺を持ってきて置いてみた。

 再び急いでベッドに逃げ込んだものの、今度は壺から何か出てきそうで怖くてたまらない。

 寝不足で朝を迎えたラナは是非とも皆にもこの恐怖を味あわせたくてランチの席でテレンスの手紙を披露した。

 キャロラインは顔を引き攣らせていたが、グレイスとメグは笑っていた。
 
 『私だって馬鹿馬鹿しいと思ったけど、でも夜に一人になるとそこはかとない恐怖が襲ってくるんだから』

 期待したような反応が得られず、ちょっとガッカリしたラナに追い打ちをかけるようにメグの上機嫌な声が響いた。

「そんなことよりテリー様が私と青空の下を歩きたいって!」

 『・・・別にメグと、とは言ってないじゃん・・・』

 青空の下、少し離れて恥ずかしそうに歩くテレンスとメグを想像して、ラナの心はモヤモヤした。


 それからまた何通かの手紙がやり取りされた。

 当たり障りの無い日常のひとコマを書いていたが、すぐにネタ切れになってしまったラナは、

「本とか映画の話ならいいんじゃない?」

 というガブリエラの提案に乗っかることにした。


~「リベリー イストリア」って、繰り返し舞台や映画にもなっている悲恋物だから、テリー様もあらすじくらいは知っているでしょ?
 特に女性からは人気のある作品だけど、私には正直あんまり良さがわからないの。
 そりゃあ文豪ゼウクシスの流麗な文体を堪能できる感性をお前は持ち合わせていないのだろう?と言われればそれまでなんだけど、主人公の二人って傍迷惑はためいわくで浅はかじゃないかしら。
 お互いに想い合っているのなら、最初から二人でくっつけばいいじゃない?
 それぞれ別の人と結婚しておきながら、「忘れられない人がいるの」とか「たとえどんな罰を受けようと命を賭けてこの愛を貫く」
とか、開いた口が塞がらないわ。

 もちろん創作の世界の話で、女性達は平凡で退屈な日常から連れ出してくれる存在を想像して楽しむのだけで、実際に家族を捨てて愛の逃避行する人は滅多にいないわよ?

 だけど考えてみて?頭が薄らハゲてきた旦那さんが一日の労働を終えて疲れて帰宅するのよ。
 そこには温かい料理で出迎える妻が優しく笑ってるの。

「お帰りなさい、ご苦労さま」
 
 だけど、妻の頭の中では中年太りの薄らハゲじゃなくて、筋肉の引き締まった長身のイケメンが優しくキスをして、

「ホテルのディナーを予約してるんだ」

 って、テノールの声を響かせているの。

 旦那様が渡してきたのは長年使い込まれた垢じみた革の仕事用鞄じゃなくて、真紅のバラの花束なのよ。

 こんなこと知ったら世の旦那様たちはショックを受けるかしら?
 
 それともやっぱり男性達も頭の中で美しい女優の彼女がうっとりとした顔で微笑んでくれる様を想像してるのかしら?

 そしてお互いの頭の中の世界のことなどおくびにも出さないで、淡々と日常を生きていくのかしら~


 







 

 

 
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