19 / 57
本編
18.
しおりを挟む「お二人、いつの間にそんな仲良くなったの?」
「えっ……そう見えますか?」
「別に仲良くない」
眼鏡を外して出てきた僕を見て、風谷と話していた雪さんが楽しそうに訊く。なぜか照れた風谷をよそに、僕はそっけなく否定する。
それ以上なにか言われるのが小っ恥ずかしくて、さっそく風谷をプレイルームに誘った。
「かざ……アキ、行こう」
「っ、先輩!」
「ウケる。そこはアキくんもあだ名で呼んであげなよー」
ここでのあだ名を呼んだだけで深い意味はないのに、風谷はぱぁっと嬉しそうに顔を綻ばせる。そんな喜ばなくても……友だちにも呼ばれてる名前だろ?
雪さんに指摘された風谷が「……サク?」と呟いて「カイだよ」と教えられている。そもそもすぐ二人きりになるので、あだ名を呼ぶ必要はほぼないと言っていい。
僕は風谷を連れて、使う部屋を知らせるように番号が明滅しているプレイルームに向かった。
プレイルームはどの部屋も同じような構造だ。それでも、目に入ったソファがこの前と色も形も違ったことに安心してしまう。あれから何度も思い返してしまって、悶えるばかりだったのだ。
「カイ、さん?」
「朔でいーよ、プレイの時は」
「えー……じゃあやっぱ、朔先輩で……」
知らない人とプレイするときはカイとしか呼ばれないけど、風谷にはちゃんと名前で呼ばれたい。結局いつもどおりの呼び方になった。
『先輩』と呼びながら命令されることとか、そもそも風谷がプレイのときだけ命令口調になることとか、ぶっちゃけ全てが興奮を煽ることに自分でも気づいている。それを敢えて口にすることはない。
まだ始まっていないのに、期待で心臓がトクトクと音を立てた。
「セーフワードはどうしますか?」
「真面目?」
すぐに口をついて出てくる言葉なら、セーフワードはなんでもいい。僕はよく考えもせず、この前決めた言葉を口にした。
風谷はあははっと笑う。こいつは外で会うと印象がぜんぜん違う。いままでの邂逅がすべて特殊な状況だったのもあるけど、こんなによく笑うやつだったのか……と驚く。同時に、心臓をぎゅっと掴まれたような心地になった。
「我ながらひどいと思ってたんですよそれ」
「まぁいいだろ。なぁ早く、しよーぜ」
「っ……」
この部屋に入ったときから……いや、風谷に会ったときから、期待で身体が疼いていた。Subの本能は本当に厄介だ。
煩わしいと感じる反面、DomやSubというダイナミクスを持つ人にしか分からないプレイ中の幸福感や達成感、それに……例えようのない興奮は、一度経験してしまうと捨てがたい。
自分がただの変態なのではないかという疑問は、すべてダイナミクスのせいにさせてもらう。こんな一面、他の誰にも見せなければいいだけだ。
「朔先輩。――おすわり」
ふわ、とグレアに包まれ、命令に身体の力が抜ける。正面から風谷が僕を見下ろしていた。
ごちゃごちゃ考えていた頭の中がまっさらになっていく。この前教えられた体勢で跪き、高いところにある顔を見上げた。その目にも興奮の熱が灯っていることに気づき、腰がひくりと震えた。
◇
「朔せんぱい。せんぱーい? おーい、朔」
「ん……?」
「やべっ。……起きてます? 身体の調子はどうですか」
気づけば自分がソファに座って、足元から風谷が見上げていた。徐々に記憶が戻ってくる。
「ぼく……寝てた? ごめん」
「いや謝らないで下さい! 一瞬ですよ? あとどっちかというと、眠そうにぼーっとしてる感じでした」
僕は頭を抱えたくなった。寝ていたことにではない。いまは服を着ているけど……記憶はきっちりと残っている。
今日のプレイでも、言われるがまま服を脱ぎ、褒められて、興奮して……『イッて』の命令であっさりと達してしまった。しかもたぶん、風谷の手の中に――
下着一枚になり僕が興奮していることを知った風谷は、なんと直接そこに触れてきたのだ。だけど……気持ちいいのに、そんなことをさせている自分に罪悪感が拭えなかった。
僕の抵抗が残っていることが不満だったのか、風谷はプレイ道具の置いてある棚からアイマスクを持ってきて、嫌ならセーフワードを使うよう告げた。
それで結局……視界をアイマスクで覆われたまま、僕は風谷の手で直接扱かれて、あっさりとイッてしまった。下着を変えた記憶はない。
たくさん褒めてもらって、撫でて甘やかしてもらって……ぼうっとしたまま服を着せられて。それでいまに至る。
「えっと……調子はいい。めちゃくちゃいい。アキは……どうだ?」
「よかった! 俺も絶好調っすね。しばらく薬はいらなそうです。ありがとうございます、先輩」
この反応は……今日のプレイも風谷的にアウトではなかったようだ。喜んでアレをやっているとすれば、やはりこいつもDomなんだなと納得せざるを得ない。
いまは決して俺に触れない距離で、先輩後輩という態度を貫いている。まだ自分にプレイの影響が残っているのか、そんなことが少し寂しかった。
「お前、薬飲んでんの? プレイの頻度増やしたほうがいいか?」
「いいですって! なんか周期とかなく、まだ安定してないみたいなんですよねー。先輩の方が忙しいだろうし、わざわざここへ来るのも大変だし……」
ダイナミクスの持つ本能の強さとか、影響の受けやすさは人によって大きく異なる。ランクもあると聞くし、風谷は上位のDomなのかもしれない。
「無理すんなよ。軽いプレイでいいなら学校でやればいいだろ」
「え。学校……って……」
ほんのりと頬を赤らめた風谷を見て、僕は自分の失言に気付いた。いや、勘違いするほうがおかしい。こんなこと学校でやらないっつーの!
こっちまで恥ずかしくなってくるから、慌てて風谷を睨んだ。
「おい、勘違いすんなよ……」
「あっ、す、すみません! あの……じゃあまた連絡してもいいですか」
「……うん」
夜の帳が下りはじめたころ、表面上はなにもなかったような顔をして、僕らはそれぞれ帰路についた。
心中は複雑な思いでいっぱいだった。胸のなかで、風谷の存在が想像以上のスピードで大きくなっているのを感じているから。まだプレイの快感が身体に残っている気がして、ひとり頬を赤らめる。
次はいつになるだろう。またっていうかここしばらくずっと連絡を取っているから、調子が悪くなればすぐに教えてくれるはずだ。
136
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~
Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい
俺だけに命令して欲しい
俺の全てをあげるから
俺以外を見ないで欲しい
俺だけを愛して………
Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、
でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ
俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を
Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です!
Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。
こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる