超絶クールな先輩は俺の前でふにゃふにゃのSubになる

おもちDX

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本編

19.紅に惑う side.暁斗

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 夏休みも終盤になり、文化祭の準備は大詰めを迎えていた。
 お化け屋敷などのクラス展示をやる一年と、物として残る作品制作をする三年の先輩たち。多分いまだけは部活も勉強もみんなそっちのけだと思う。
 
 二年の俺のクラスはスイーツを出す模擬店をやるので、事前にできる準備はあまりない。食べ物を前々から作っておくわけにはいかないしな。
 だから看板の制作やおそろいのティーシャツを作ったり、わいわいと文化祭の空気感を楽しみながら喋っている時間が多かった。逆に前日と当日は大忙しだろう。

 俺は文化祭実行委員としてなにか決め事があるときは中心に立つが、具体的な準備に関してはノータッチを貫いている。集団行動における役割分担は大事なことで、自分の領分を超えた部分に口や手を出すとろくな事にならない、という持論だ。
 というわけで普通にこき使われる側として、いまもペンキがなくなったとかでヤスと買い出し中だ。学校から徒歩圏内に百均があるのはとても助かる。

「あっちぃなまじで! な、帰りにアイス買って帰ろーぜ」
「……ああ」
「おーい、アキ? だーれと連絡とってんのっ?」

 スマホを見ながらうわの空で返事をしたら、ヤスがガシッと肩を組んで画面を覗き込んできた。よせお前、俺じゃなかったら嫌われる案件だぞ?
 まぁ画面に覗き防止フィルムを貼っているから何も見えなかったと確信している。だから許す。いまの俺は上機嫌なのだ。

「ヤス。学校戻ったら、実行委員の仕事でちょっと抜けるわ」
「おーい、いい笑顔すぎるだろ……」

 顔が自然と綻んでしまうのは、朔先輩が学校で会おうと連絡してきたからだ。先輩のクラスは夏休み中に映像制作をしているらしく、俺よりも学校に詰めていたらしい。
 
 これまでにも夏休み中は定期的に『だるい』『もう帰りたい』とメッセージが来ていた。まぁ、先輩がどうしてるか俺が毎日訊くからだけど。
 しかし、そんな愚痴を言ってもらえるだけでも嬉しいと感じてしまうほど、俺の先輩に対する気持ちは変わっていた。

 前はとことん無視されてムカつく人としか思えなかった。でも最近は普通に話してくれるし、ただ連絡を取っているだけでも心が浮ついて楽しい。
 俺は部活にも入らないから先輩で仲良い人なんていなかった。だから、初めて歳上の友だちができたみたいで新鮮だ。



 夏休み中は学校も空き教室ばかりだ。選択科目に使われる教室で、先輩を待つ。窓からは外で文化祭準備をしている同級生の声が聞こえ、廊下の方からは吹奏楽部が楽器を鳴らし演奏している音が聞こえる。

「よ。そっちは準備進んでるのか」

 カラカラ、とドアを閉じる音が聞こえて先輩が入ってきた。学校でこうして会うのは久しぶりで、自然と心臓が跳ねる。
 
「はい! 今はまだ大変な準備もないので。――ん?」
「?」

 パッと顔を上げてその顔を見れば、ふと違和感に気づく。小作りな顔はあらゆる表情を知ってしまってからは可愛いと感じてしまうが、基本的に無表情で目を引かない。
 しかし今はなぜか、黙って小首を傾げているだけでも目が離せなくるほど印象的だった。なんだろう、普段通りの制服だし、なにが違うんだ?

「えーっと、朔先輩。……メイクしてます?」
「あ……っ!!」

 まじまじと見つめると、唇に赤い色が乗っていた。眼鏡と前髪で隠れているけど、切れ長の目尻も黒色で強調されている気がする。
 
 先輩は慌てた様子で口を拭おうとした。でも手の甲じゃ取れないだろう。
 とっさに俺はポケットに入っていたハンカチを差し出すと、受け取った先輩の顔は恥じらっているのか真っ赤だった。えー……なにそれ。

「これは……っ。クラスのやつに、遊ばれて」
「あー、女子ってそういうところありますよね。でも先輩、似合うし可愛いっすね」

 もともと赤みのある唇だけど、なんかこう……リップって唇の形を強調して見せるんだな。小さく形のいい唇に視線が吸い寄せられる。
 俺が素直に感想を伝えたら、先輩はぱくぱく口を開いて言葉が出てこないようだった。
 
 たった一言でかなり驚かせてしまったようだ。なんかプレイのときに可愛いとずっと思ってたから、普段から言ってる気がしてた。
 俺、テンション上がって頭バグってんな。
 先輩もれっきとした男だし、可愛いと言われたら嫌かも……でもまぁ、仕方なくない?事実だし。
 
 プレイのときのふにゃふにゃな可愛さは俺だけのものだ。
 『定期的にプレイの相手をしてほしい』という俺の提案に乗ってくれたということは、先輩にパートナーはいないってこと。威嚇事件のときに気づけばよかったのだが、どうやら石田先輩とはプレイする関係ではないようだ。

「そんな冗談おもしろくもないからやめろ。な……なぁ、あたま痛いんじゃないのか?」
「冗談じゃないっすけど。あー、なんか昨日はちょっと痛くて……でもいまは意外と」
「じゃあやめる! 心配して損した」
「わーっ! 待って!」

 朔先輩はくるっと背を向けて去っていこうとする。
 本気で怒らせてしまったことに気付いて、俺は慌てて追いかける。ドアの手前で夏でも白い腕を掴み、背中に向かって謝った。

「すみません……あの、今日は駄目でもいいですから。怒らないでくれませんか?」

 一度の機会を逃すより、嫌われて二度と会ってくれないほうがつらい。縋っているようで情けないなと思いつつ、メールの返信でさえ遅いと気になるのだからなりふり構っていられなかった。

 なにより朔先輩が俺のことを心配してくれてたんだと思うだけで、喜びに心臓が掴まれたように苦しくなる。、俺のことを見れば舌打ちしてガン無視していた人だぞ?

「怒って……ない。やろう、今日」
「あ……ありがとうございます!」

 振り向いた顔はほんのりと頬が赤らんでいた。いや怒ってただろこれ。皮膚が薄いからすぐにわかるな……

「風谷、脱げとかは無しだからな?」
「分かってますって。――あ。落ちたら危ないんで眼鏡取っていいですか?」

 念を押されて、もちろんと頷く。一瞬妖しい想像が脳内に広がりかけて、別のことに思考を切り替えた。先輩こそ変なことは言わないでほしい。
 
 許可を取って眼鏡を外す。手を近づけるだけで、先輩はキュッと目を閉じ「ん、」と顎を上げる。
 まだグレアも出してないのに素直かよ……。キス待ち顔に見えてしまったのは、俺の都合の良い妄想だ。

 隣の机に眼鏡を置くカチッという音が、合図になった。
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