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 ボン・ワークからの帰り、職場となる場所を確認するためリアンに家まで案内してもらうことになった。

 僕はこっそりと隣を見上げる。隣に立つと、本当に背が高くて首が痛いくらいだ。190cmはあるんじゃないだろうか?
 この世界の人は日本人よりも体格がよくて、見た目は欧米人に近い。僕は165cmしかないから、哀しいかな、ダナなどの女性よりも小さかったりするのだ。

 カラフルな髪色が多いこの世界で、リアンの髪色は黒だ。親近感を覚えてもおかしくないのに、顔立ちが華やかだから自分やキリトとはぜんぜん違う。
 グレーに近い眉は書道家が迷いなく引いた線のようにスッと伸び、綺麗な切れ長の目や高い鼻が絶妙なバランスで配置されている。唇は薄く表情が乏しいため硬質な印象を受けるが、男として憧れる容姿だ。

「なんだ?人の顔をジロジロ見て」
「見たことないくらい綺麗な顔だなって……。あ……ご、ごめんなさい!」
「別にいい。事実だろう」

 つい本音が口から出てしまって謝ったけど……。え、認めるんだ!?
 まぁこれほど美しい見た目なら、幼いころからさぞ褒めそやされてきたに違いない。昔はお人形みたいな……幼さが加わればとんでもなく可愛かっただろう。

 リアンが足を止めたので僕も立ち止まる。僕が彼の自信に納得をしているあいだに、目的地に着いたようだ。

「わ……大きいですね」
「場所は覚えたか?メグ、明日からよろしく頼む」

 ひとりで住んでいるというから小さめの家かと思っていたのだが、五人家族は住めそうな立派な邸宅だ。ここを一人で掃除したりするのはかなり骨が折れそう。
 長く続けられた人がいないと言うのなら、家事が間に合わず解雇されたのかもしれない。僕は特に仕事が早いという訳じゃないし……うう、自信がない。
 とにかく、一生懸命やるしかないよなぁ……
 
 僕はさっそく不安を抱えつつもリアンと別れ、その足で報告のためキリトの家に向かった。

 季節は夏真っ盛りだが、日本の夏よりはカラッとしていて過ごしやすい。この国ファリアスにも四季があるものの、フィンジアスの辺りは寒暖の差が少なく年中過ごしやすいそうだ。
 気候がいいのは嬉しい。しかしキリトの家への道すがら、街道脇の青々とした自然に癒やされたのは一瞬のことだった。



「はぁっ?恵、あのアルファのところで働くのかよ。まじ有り得ねぇ……気分悪いんだけど」
「ごめん……でも、今まで続いた人はいないらしいから、僕もすぐ解雇されるかも」
「そうかよ……はぁ。なーなー、まだ発情期来ねぇの?おれ溜まってるんだけど」
「うん……まだみたい。桐人、我慢させてごめんね。あの、僕下手だけど……抜こうか?」

 いまだオメガになったという実感はなく、この世界に慣れることに必死なせいか性欲も湧かない。気が進まないな、と思いながらもこれまで何度も下手だと言われてきた手淫や口淫を申し出たけど、キリトは気分が乗らないと言って僕に帰るよう促した。

 キリトの部屋はあまり掃除もされていないみたいで荒れていた。半同棲だったときは僕がちょこちょこ掃除していたからまだマシだったように思う。いまはすぐ追い出されてしまうから僕も手を出せない。
 なんだかキリトもこの世界に来てから変わってしまった気がして……不安だ。半年以上付き合っているなかで喧嘩もあったけれど、ふたりで楽しく過ごしていた時間も確かにあったのに。

 僕に発情期がきて番になればまたあの頃みたいに仲良くなれるなかぁ?
 まだこの世界に転移してからひと月。時間が解決してくることを願うしかない。
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