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29.いろいろと自覚
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それから僕は、意識が戻るたびにリアンによってお世話された。水分や簡単な食事を与えられ、昂ぶった身体を鎮められ、身体を洗われ、昂ぶった身体を鎮められ、力尽きたように眠り……の繰り返し。
ところどころ記憶は曖昧で……眠りに落ちる瞬間、おでこにキスをされた気がしたけど、都合のいい妄想だったかもしれない。
――あぁ、認めるしかない。僕はリアンに恋をしている。
初対面の印象は最悪だったけど、リアンはただの正直者で、思ったことをすぐ口に出してしまう人だとわかった。雇い主と雇われ家政夫として働き始めてからは、彼の優しい一面に何度も救われた。
嫌なところが全くなくて、こんなにも穏やかな気持ちで働くことができるなんて思ってもみなかったのだ。
しかも、見目がとんでもなくいい。香りまでいい。頻繁に会っていてもその麗しさに見惚れてしまうときがあるくらいで、自分とは格差があることは分かっている。
でも、そんな人に普段から優しくされて、発情期には甲斐甲斐しくお世話されて、好きにならない人いる?
失恋してからそんなに経っていないのに……僕って移り気なのかな。
発情期に入って三日ほどして、リアンに薬を与えられた。それはディムルドとブリギッドがオメガ専門の医者に相談して、『初めての発情期でも数日経過していれば抑制剤を服用してもいい』と聞いて持ってきてくれたものだった。
おかげで僕は理性を取り戻し、爽やかな朝に似つかわしくない盛大な反省会を脳内で催しているところだ。
「うああああぁぁぁ……」
「どうしたメグ!」
ここ数日の自らの行動について、羞恥に悶える暇もない。僕の気配には恐ろしく敏感になったリアンが、すぐに部屋へとやってくる。その姿はちょっとやつれて見えた。
僕はリアンが来てもフェロモンを感じないこと、また身体が熱くならないことを確認して、しおしおと頭を下げた。
「本当にすみません……こんなにも迷惑かけちゃうなんて……あの、減給してもいいですから、どうか解雇だけは……!」
「ああ、薬が効いたんだな。別に迷惑だなんて思ってない。それより、身体は大丈夫か?」
「ちょっと怠い感じはしますけど、大丈夫です。あの、じゃあ、解雇は……?」
「は?するわけないだろ」
「あっ……ありがとうございます!」
「く、その目はやめろ!」
よかった……僕がリアンの家で発情期を過ごしたいなんて思ってしまったせいで、僕が築いてきた信頼とかリアンとの関係とか、全て崩れて駄目になってしまったかと……
つい縋るような目をしてしまったのが不愉快だったようで、リアンは目を逸らした。頬が赤い。怒らせちゃったかな?
今回は親切で申し出てくれたけど、もう流石にリアンも僕の発情期に付き合いたいなんて思わないだろう。
「次は……着替えくらい用意しておいたほうがいいかもな」
「えっ?」
「急きょ俺の服を着せたけど、メグもサイズが合う服のほうがいいだろ?そういうのも、似合わない訳では、ない、けど……」
最後の方はごにょごにょと聞き取りづらかったけど、『次』があってもいいと解釈していいんだろうか。僕は着せられてぶかぶかになっているリアンの服を見下ろして思った。正直もう、ひとりで乗り切れる気はしない。
次の発情期の際は、今度こそニュイ・ドリームへ行くか、またリアンのお世話になるかの二択だろう。
ニュイ・ドリームにはお相手システムもある。さりとて、想い人ができてしまった僕にその選択肢はない。お互いが指名すれば……とオーエンが言っていたことを思い出し、僕は凍りついた。
噂によると、リアンがアルファとしてニュイ・ドリームに登録している可能性は高い。もしかして、もうオーエンと……?
オーエンからは外でも会っていると聞いた。しかもホリデー・マルシェで出くわしたとき、僕は気を利かせてリアンを置いて帰ってしまった。
そんな……僕は敵に塩を送るどころか特大の大砲を送ってしまったんじゃ?
恋を自覚した途端に失恋かぁ。でも……あくまでこれは予想でしかない。
いまはさすがにちょっと、勇気が出ないけど。さり気なく聞き出すことはできるはずだ。
「それより、ご飯を食べましょう!リアンまで痩せちゃって、申し訳ないです」
「もう動いて大丈夫なのか?」
「はい!仕事の遅れを挽回させてください!」
発情期中、何度も緊張と弛緩を繰り返した身体はわずかに怠さを覚えているが、消耗しすぎて動けないほどではない。
これもスパ・スポールで運動を続けた成果だろうか。恥ずかしいけど、ターザにお礼言わなきゃ。
僕は強すぎる快楽に何度か気を失った事実には目を逸らし、立ち上がった。
リアンも何度か寝具を取り替えてくれていたけど、部屋のカーテンを含めた布製品はすべて取り外し、洗濯機に突っ込んだ。干す場所が足りない部分は乾燥機を使うしかない。
床はロボット掃除機が動き回ってくれているが、寝室は拭き掃除をしようと思う。色々と……飛び散っているかもしれないから。
拭き掃除は後にして、僕はキッチンに立った。買い足されることがなかったから食材は少ないけれど、作れるものはいくらでもある。
ところどころ記憶は曖昧で……眠りに落ちる瞬間、おでこにキスをされた気がしたけど、都合のいい妄想だったかもしれない。
――あぁ、認めるしかない。僕はリアンに恋をしている。
初対面の印象は最悪だったけど、リアンはただの正直者で、思ったことをすぐ口に出してしまう人だとわかった。雇い主と雇われ家政夫として働き始めてからは、彼の優しい一面に何度も救われた。
嫌なところが全くなくて、こんなにも穏やかな気持ちで働くことができるなんて思ってもみなかったのだ。
しかも、見目がとんでもなくいい。香りまでいい。頻繁に会っていてもその麗しさに見惚れてしまうときがあるくらいで、自分とは格差があることは分かっている。
でも、そんな人に普段から優しくされて、発情期には甲斐甲斐しくお世話されて、好きにならない人いる?
失恋してからそんなに経っていないのに……僕って移り気なのかな。
発情期に入って三日ほどして、リアンに薬を与えられた。それはディムルドとブリギッドがオメガ専門の医者に相談して、『初めての発情期でも数日経過していれば抑制剤を服用してもいい』と聞いて持ってきてくれたものだった。
おかげで僕は理性を取り戻し、爽やかな朝に似つかわしくない盛大な反省会を脳内で催しているところだ。
「うああああぁぁぁ……」
「どうしたメグ!」
ここ数日の自らの行動について、羞恥に悶える暇もない。僕の気配には恐ろしく敏感になったリアンが、すぐに部屋へとやってくる。その姿はちょっとやつれて見えた。
僕はリアンが来てもフェロモンを感じないこと、また身体が熱くならないことを確認して、しおしおと頭を下げた。
「本当にすみません……こんなにも迷惑かけちゃうなんて……あの、減給してもいいですから、どうか解雇だけは……!」
「ああ、薬が効いたんだな。別に迷惑だなんて思ってない。それより、身体は大丈夫か?」
「ちょっと怠い感じはしますけど、大丈夫です。あの、じゃあ、解雇は……?」
「は?するわけないだろ」
「あっ……ありがとうございます!」
「く、その目はやめろ!」
よかった……僕がリアンの家で発情期を過ごしたいなんて思ってしまったせいで、僕が築いてきた信頼とかリアンとの関係とか、全て崩れて駄目になってしまったかと……
つい縋るような目をしてしまったのが不愉快だったようで、リアンは目を逸らした。頬が赤い。怒らせちゃったかな?
今回は親切で申し出てくれたけど、もう流石にリアンも僕の発情期に付き合いたいなんて思わないだろう。
「次は……着替えくらい用意しておいたほうがいいかもな」
「えっ?」
「急きょ俺の服を着せたけど、メグもサイズが合う服のほうがいいだろ?そういうのも、似合わない訳では、ない、けど……」
最後の方はごにょごにょと聞き取りづらかったけど、『次』があってもいいと解釈していいんだろうか。僕は着せられてぶかぶかになっているリアンの服を見下ろして思った。正直もう、ひとりで乗り切れる気はしない。
次の発情期の際は、今度こそニュイ・ドリームへ行くか、またリアンのお世話になるかの二択だろう。
ニュイ・ドリームにはお相手システムもある。さりとて、想い人ができてしまった僕にその選択肢はない。お互いが指名すれば……とオーエンが言っていたことを思い出し、僕は凍りついた。
噂によると、リアンがアルファとしてニュイ・ドリームに登録している可能性は高い。もしかして、もうオーエンと……?
オーエンからは外でも会っていると聞いた。しかもホリデー・マルシェで出くわしたとき、僕は気を利かせてリアンを置いて帰ってしまった。
そんな……僕は敵に塩を送るどころか特大の大砲を送ってしまったんじゃ?
恋を自覚した途端に失恋かぁ。でも……あくまでこれは予想でしかない。
いまはさすがにちょっと、勇気が出ないけど。さり気なく聞き出すことはできるはずだ。
「それより、ご飯を食べましょう!リアンまで痩せちゃって、申し訳ないです」
「もう動いて大丈夫なのか?」
「はい!仕事の遅れを挽回させてください!」
発情期中、何度も緊張と弛緩を繰り返した身体はわずかに怠さを覚えているが、消耗しすぎて動けないほどではない。
これもスパ・スポールで運動を続けた成果だろうか。恥ずかしいけど、ターザにお礼言わなきゃ。
僕は強すぎる快楽に何度か気を失った事実には目を逸らし、立ち上がった。
リアンも何度か寝具を取り替えてくれていたけど、部屋のカーテンを含めた布製品はすべて取り外し、洗濯機に突っ込んだ。干す場所が足りない部分は乾燥機を使うしかない。
床はロボット掃除機が動き回ってくれているが、寝室は拭き掃除をしようと思う。色々と……飛び散っているかもしれないから。
拭き掃除は後にして、僕はキッチンに立った。買い足されることがなかったから食材は少ないけれど、作れるものはいくらでもある。
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