十年ぶりに再会した団長が男前すぎる

おもちDX

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「――団長、ユピテル団長。僕、もう戻りますね」
「……あぁ」

 束の間の眠りから覚めると、鮮やかなレモンイエローが目の前をさっとよぎった。メルクは寝袋で俺をきっちりと包み、額にキスを落として天幕を出ていく。
 童貞だったくせにこいつは紳士で、必要以上にべたべたしない。紺青の瞳には献身が宿って見えた。
 
 外はまだ真っ暗だ。メルクが出ていくとき、白い雪がふわふわと舞い降り、木々の葉に薄っすらと積もっているのが垣間見えた。
 初雪だった。
 冬の夜は長いが、騎士の起床時間は変わらない。あと少ししたら皆が起き出し、北の砦へ出発する。長い旅程も最後の一日だ。
 
 性行為で腰が抜けるのは初めてだったものの、少し休めば動けるようになるだろう。俺もメルクもほとんど寝ていないけど、それで動けなくなるようなやわな鍛え方はしていない。
 俺の発情期は軽いとはいえ、薬がないとフェロモンも漏れる。メルクが来てくれて本当に助かった。スッキリとしたのは性欲だけじゃない。何年ぶりかの、どこか晴れやかな心持ちだった。





 平民の生まれだった俺は、身体が大きく力も強かったおかげで幼い頃から騎士を志していた。国境を守る緑騎士団なら、立派な家柄がなくても出世できる希望はある。しかし地域の検診でオメガと診断されたときは、さすがに諦めるしかないと思った。
 落ち込む俺の背中を押してくれたのは両親だ。

『二次性で夢を諦めるような人間が、どうして騎士になれる? ここで諦めるのなら、たとえユピはアルファだったとしても騎士になれないだろうね』

 その言葉はストンと俺の中に着地し、すぐに諦めようとした自分を恥じた。
 再び騎士を目指した。幸いにしてオメガの特徴は少なく、地道に努力を続けることで騎士団に入団し少しずつ出世することもできた。
 定期的に訪れる発情期だけは厄介だったが、抑制剤がよく効いた。下っ端の頃は給料の大半が薬代に消えた。
 
 ありがちな抜き合いの延長線で、同僚の騎士に抱かれたこともある。定期的に肌を重ねるようになり、ある日抑制剤を飲んでいることがバレた。俺がオメガだと知った瞬間あいつは俺を守ると言い出し、適当にいなしていたら突然、あろうことか無許可で俺のうなじを噛もうとしたのだ。
 もちろん投げ飛ばして阻止したのは言うまでもない。俺は守られるまでもなく強かった。

 事件を知った上層部に呼び出され、俺がオメガだというと爺共はひっくり返らんばかりに驚いていた。
 第一線を退くことや番を作ることをそれとなく示唆されたが断固として断った。俺はこれまで充分に騎士団員としての実績を残してきた自負があるし、ひとりでも生きていける。あのとき理解を示してくれた爺が現在の総帥だ。

 出世して余裕が出てきたとき、王都の高級娼館を利用したこともある。秘密厳守のため下手な娼館は利用しないほうがいい。
 プロのアルファに抱かれると性欲は満たされ発情期もあっという間に落ち着く。でも大半のオメガが喜ぶからか、必要以上に甘やかされ『無理しなくてもいいんだ』と言われると違和感が残った。俺はそんなもの、求めていないというのに。

 緑騎士団への異動が言い渡されたとき、番がいるということにした。そうすれば発情期の間休めるし、余計なリスクを負うこともない。ちゃんと薬を飲んでいれば人に頼らずとも生きていけた。
 俺の人生は概ね順調だった。若い頃おれが王都で声をかけた貴族の子息が入団し、若いながらも頭角を表したと聞いたときも嬉しかった。

「……でかくなったな、あいつ」

 十年ぶりに会ったメルキュールは瞳をキラキラと輝かせ、俺を見つめていた。身体は大きく成長し分厚い筋肉に覆われているものの、その目は幼い頃と変わらない。人から憧れの目で見られることには慣れているけど、あいつの視線はどこかくすぐったかった。

 メルク、と呼ぶと喜んで走ってくる。真面目で純情な部下が可愛くて仕方がなかった。きっとあいつの素直な性格はこの先も変わらないだろう。
 まさかメルクと愛だのなんだのと言い合う関係になるなんて思いもしなかったが、だから人生は面白い。砦に到着して休暇に入ったら、俺の借りている家にあいつを呼んで住まわせよう。……どんな反応を見せるかな。

 こんなにもヒート休暇が楽しみなのは久しぶりだった。

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