ドラゴンスケイル

うなぎ

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1章

旅の始まり

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採掘をしながら、僕らは互いをよく知るために身の上話をした。
他種族の出自や歴史を聞くのはとても興味深く、僕は彼の話にドンドン引き込まれていった。
ヴァルカンさんは、スールハイムという国にあるユーヴァスという村の出身だった。
彼の父親は、領主と交流があるほど腕の立つ鍛冶師で、彼はそんな父親に憧れと尊敬の念を抱いていた。
だから子供の頃は、自分も鍛冶師になることに疑いはなかったのだそうだ。
話の語り出しから、順風満帆な生活を送っている人なのかな?
と、僕は勘違いをしてしまっていた。
彼の暮らしは、ドワーフ達の襲撃を境に一変してしまう。
ドワーフとは火の民とも呼ばれる鉱石加工に秀でた種族である。
その情熱が故に見境が無く、鉱石を巡って度々他種族とも揉め事になっていた。
そんな折、村の近くにある鉱山で採掘作業をしていた鉱夫たちが、ドワーフの勢力圏である地底回廊まで地面を掘り進めてしまう。
そもそもの問題として、人間の勢力圏の地下に、何故そんなものがあるのかという疑問があった。
しかしこの時、それを問いただせるものはなく、領土侵犯を理由に村は焼き払われた。
ヴァルカンさんの両親は息子を逃がすためにドワーフ達と戦い、死んでしまったそうだ。
それからの人生は苦労の連続だったと、ヴァルカンさんはため息交じりに話してくれた。
彼はまず父のような鍛冶師になるために、サイクスという鍛冶師の弟子になった。
そこで自分の店を構える為の準備をしようと考えたわけだ。
しかし、実力はあるのに足元を見られ雑用ばかり押し付けられたり、彼の能力を妬んだ先輩に暴力を振るわれ、なかなか独り立ちすることができなかったようだ。
更に詳しく話を聞こうとすると、今度は僕の身の上を語るように言われた。
ヴァルカンさんの話を聞いた手前、黙っていることもできず、僕は渋々故郷を離れた経緯を説明した。
ヴァルカンさんの話と違い、僕の話は単調だったので、話を盛るために僕は今まで見た旅の景色を話すことにした。
彼にまず聞かせたのは、カークスと呼ばれる土の民を見送った時の話だった。
数十メートルほどまで大きくなる土塊(つちくれ)の巨人は、死期が近づくと最後の行進を行う。
何かに突き動かされるように歩けるだけ歩き続け、誰に看取られるでも無く力尽きるのだ。
巨人が倒れた場所は新たな大地となり、それがこの世界に生きる者達の糧となる。
大昔に竜がやっていたことを、巨人達が引き継いでいた。
「それじゃあ、竜はどうやって死ぬんだ?」
ヴァルカンさんが話に興味を持ってくれたので、僕は嬉しくなった。
しかし、この先を簡単に教えるわけにはいかなかった。
何故なら、僕はヴァルカンさんの話の続きが気になってるからだ。
「次はヴァルカンさんが話す番!」
僕がそう言うと、ヴァルカンさんは少し悔しそうにしながらも渋々続きを話し始めた。

ある程度ミスリルが集まると、ヴァルカンさんは帰り支度を始めた。
わかってはいたことだが、泊っていってはくれないらしい。
「……もう、帰ってしまうんですか?」
久しぶりに出会った、お喋りのできる相手。
そんな相手と離れるのが名残惜しかったのだろう。
子供みたいなことを、僕は思わず口走ってしまった。
「……また明日来るから、な?」
寂しいという感情を隠しきれずにいる僕に、ヴァルカンさんは苦笑したようだった。
顔を曇らせている竜の首筋ををポンポンと叩き、来た道と同じ穴を通って男は家に帰っていく。
どうやらこの穴の入り口は、人間の勢力圏、それも辺境にあるど田舎に繋がっているらしかった。
こんなところ、俺以外は誰も来ねえよ。
そうヴァルカンさんは言っていたが、僕は彼の言葉を鵜吞みにすることはできなかった。
正直な話をすると、ヴァルカンさんの村を襲ったドワーフが今にも現れそうで怖かったのだ。
心配性の僕は、念のため人間と同じ大きさの岩でその横穴を塞ぐことにした。
鱗がなく極端に防御力が低いことを除けば、僕は普通のドラゴンと変わらない。
だから岩を持ち上げたりするのに、苦労したりはしなかった。
岩で穴を塞いだ後は、僕は再び採掘作業に戻ることにした。
ヴァルカンさんに頼まれたわけでは無い。
ただ、久しぶりにできた話し相手の役に立ちたかったのだ。

翌日、明け方近くになると、ヴァルカンさんは約束通り僕の寝床にやって来た。
僕は早速、夜通しかき集めたミスリルの山を見せることにした。
喜んでくれると期待していたのだが、それを見たヴァルカンさんは何故だか複雑な表情をして見せた。
「頑張ってくれんのは、ありがてえけど……。ちゃんと休まねえと、体を悪くしちまうぞ?」
どうやらヴァルカンさんは、僕のことを心配してくれているようだった。
ドラゴンは寝だめができる生き物なので、別に1日や2日寝なくても体調不良にはならないのだが、そのことを説明するのは無粋というものだろう。
褒めてもらえないのは残念だったが、僕は彼の忠告を素直に受け入れることにした。
「わかりました。次からは気をつけます!」
威勢よく返事を返すのと同時に、ぐぅ~と盛大にお腹がなった。
穴があったら入りたいほど恥ずかしかったが、ヴァルカンさんの掘った横穴に僕は入ることはできない。
思えばミスリルを掘るのに夢中で、晩御飯を食べていなかった。
ドラゴンは食いだめもできる生き物である。
しかし、それはあくまで成長の終わった古龍や龍神に限った話だった。
育ち盛りの若いドラゴンが、食いだめなどできるはずもない。
「もしかして、飯も食ってねえのか?たくっ、しょうがねーやつだな。」
少し呆れた素振りを見せながらも、ヴァルカンさんは僕に大きな袋を手渡してきた。
なんだろうと思い袋を覗き込むと、いい匂いのする食べ物がたくさん出てくる。
「昨日の分の給料のつもりだったが、徹夜したんじゃ全然足らなそうだな。ほら、遠慮せず食ってくれ。出かける前に腹ごしらえだ。」
出かけるという言葉も気になったが、僕はまず自分の腹を満たすことにした。
袋の中に入っていた肉は生では無く、何かしらかの加工が施されているようだった。
ハムという食べ物らしいが、血の滴る肉とはまた違う優しい味がする。
ただ焼いただけではこんな風にはならないだろう。
人間の食文化にもだんだん興味が湧いてきた。
「ほれで、今日はどほへ行くんでふか?」
デザートの果物を頬張りながら僕が尋ねると、ヴァルカンさんは顎髭を撫でながら歯切れの悪い言葉を並べた。
「……なあ、オーン。お前さん、空を飛んでいる時に塔を見たことはないか?」
塔というのは雲の上までそびえ立つ、あの大きな建物のことだろうか。
遠目では見たことはあるが、正直あまり近づきたくない場所だった。
「もちろん見たことはあります。嫌でも目につきますし。」
「あの場所に俺を連れてっちゃくれないか?」
「うーん。あの場所は、かなーり、危ない匂いがするんですよねー。辞めておいた方が……。」
「危ない匂いって、どんな匂いだよ。」
「竜脈の流れを無理やり塞(せ)き止めているせいで、いつ爆発するかわからない……みたいな?」
「竜脈ってのがなんなのかわからんが、爆発するってんなら危なそうだな。」
「わかっていただけたようで何よりです。」
「でもよぉ。あの塔にいる魔法使いにミスリルの加工方法を聞かねえと……今の俺じゃミスリルの加工は無理そうなんだよな。」
「どういうことですか?」
「ミスリルは加工をする時に魔力を取り出すって話をしたろ?試しに昨日、こんくれーちっこい石を加工しようと穴を開けたら、家が木端微塵になっちまったんだよな。」
「ええ、大変じゃないですか!?」
「そうだな。ミスリルを加工できりゃ、家も買えそうだが……このままじゃ、文無しで野垂れ死にだ。」
文無しで野垂れ死にだ、という部分が冗談であることは、ヴァルカンさんの表情から読み取れた。
しかし、家を壊すきっかけを作っておきながら、他の素材で鱗を作りましょう、なんて言えるはずもない。
だとすると僕のとれる選択肢は一つしかなかった。
「……塔、行きましょうか。」
僕がそう発言すると、待ってましたとばかりにヴァルカンさんは笑みを浮かべた。
その笑みを見ていると、覚悟を決めて良かった何故だか思えた。
ヴァルカンさんが背に乗りやすいように、僕は地面にペタンと腹ばいになった。
馬と同じ位の高さになった背中に、男がゆっくりと登ってくる。
ちょっだけ、くすぐったかった。
「重くないか?」
「大丈夫です。それより、しっかり捕まっててください。鱗が無いので、滑るかもしれません。」
「一応、軍手は持ってきたが、もし落っこちたら、地面に激突する前に拾ってくれ。」
「頑張ります!」
いつもは折りたたんでいる羽を大きく広げて、僕はバサリと一度だけ羽ばたいた。
「うおっ!?」
たったそれだけの動作で、僕らはもう既に青い空の中にいた。
急な上昇にバランスを崩し、ヴァルカンさんが僕の背中でぐらつくのを感じた。
僕は慌てて体を水平に保ち、ヴァルカンさんが落ちそうになるのを食い止めた。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
僕が大きな声で尋ねると、男は少し興奮気味に返事を返した。
「ああ、絶景だな!」
僕が根城にしていた小さな山の周りには、見渡す限り森が広がっていた。
ほとんど開拓されることなく残った自然の景色は、ここが風の民(エルフ)の勢力圏だということを如実に物語っている。
進路を定める為に塔の方向へと体を向けると、数キロ先で森が途絶えているのが見えた。
なんとなく、あの辺りがヴァルカンさんの住処なのだろうと、僕はおおよその検討をつけた。
「移動します。しっかり捕まっててくださいね。」
ヴァルカンさんを落とさないように、僕はゆっくりとしたスピードで空を飛び始めた。
鬱蒼と茂る森を抜け、ドラゴンが生の民(リーヴ)と呼ぶ種族の勢力圏に入ると、木々は極端に少なくなってくる。
樹木の代わりに、農作物を作ったり、家畜を飼うのに適した平らな地面が眼下に広がり始めた。
「ヴァルカンさん。」
「ん?」
「こんなに真っ平な場所で暮らしていて、危なくないんですか?」
「一応、馬に乗った兵士が巡回はしているが、この辺りは田舎だからなあ。やばい魔物がでたら、あそこにある砦に逃げることになっている。」
あそこと指さされても、背に乗っているヴァルカンさんの指の動きは僕にはわからない。
しかし、声を放った方角からおおよその検討をつけることはできた。
そこには、家屋よりも、そして僕より大きな建物が建っていた。
外的を阻むような大きな壁と、大きな扉が印象的な建物だった。
壁の上には人間が歩けるスペースがあり、武装した人間達が弓という武器を携え、周囲を警戒するように眺めている。
「なるほど、あれがリーヴの拠点なんですね。見張りに見つからないように距離をおかないと。」
「リーヴ?」
「ヴァルカンさん達の種族のことです。僕らドラゴンからすると、エルフもドワーフもカークスもオケアノスも人間なので……。」
「俺達からすると、エルフやドワーフは亜人扱いなんだけどな。」
奇妙なこともあるものだと僕は思った。
竜が亜竜と呼ぶ生き物は、竜とは比べ物にならないほど非力な生き物達だ。
仮に寝込みを襲おうとも、彼らは竜の鱗に傷一つつけられないだろう。
一方でドワーフはヴァルカンさんの両親を殺している。
つまり、上下関係をつけるほど力の差はないように思えるのだが、亜人などとさけずんでよいのだろうか。
この話を僕はあえて深堀りしなかった。
塔が近づいてきたというのも理由の一つではあったが、自分の両親を殺した種族ならさけずんでも良い気がしたからだ。
「そろそろ着きそうです。」
僕がそう報告すると、ヴァルカンさんは困惑したように僕の背中から声を上げた。
「いや、さっきから全然近づけてねえ気がするんだが……。俺の気のせいか?」
「あの大きな塔は、どうやら塔に魔法の光を当てて作った幻影のようです。なので、あの塔をいくら追っても、本物の塔には辿り着けません。」
「くそっ、そういうことか。だからいくら探しても見つかんなかったんだな。……着きそうってことは、お前は本物の塔の場所がわかるのか?」
僕は返事をする代わりに、ほんの少しだけ羽ばたきの速度を速めた。
魔法使いが管理する領域に侵入すれば、ヴァルカンさんの目にも本物の塔が見えるようになると思ったからだ。
案の定、ヴァルカンさんは目の前に広がる答えを前に、喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
周囲を湖に囲まれた島の上に、雲の上とはいかないまでも、100メートルほどの高さの塔が建っている。
僕らが旋回しながら様子を伺っていると、その塔の中からローブ姿の人間が現れた。
空を飛んでいる僕らを警戒しているのか、地面からこちらを真っ直ぐ睨み続けている。
攻撃されないかびくびくしながらも、僕はゆっくりと島の上に降り立った。
僕の背中から降りたヴァルカンさんが塔に近づこうとすると、ローブの男はヴァルカンを静止させようと手の平をこちらに向けてくる。
「待たれよ。若きドラゴンとその乗り手よ。何用でこの塔を訪れた。速やかに用件を述べよ。さもなくば、我らの敵とみなす。」
僕が心の中でアワアワと慌てふためいていると、ヴァルカンさんがずいっと前に出てくれた。
体は全然隠れ切れていなかったが、それだけで物陰に隠れた時のように落ち着くことができた。
「俺達はミスリルの加工の方法を教えてもらいに来ただけだ。争うつもりは無い。」
「ん?」
「あ”?」
この間は、なんだろう?
そう思えるほどの沈黙が、僕の周囲に流れた。
「竜脈を塞き止めている我らを糾弾しに来たのではないのか?」
「いや。違うよな?」
「うん。」
個人的にはもう少し塞き止める量を緩めた方が良い気がしたが、ここに来たのはそれが理由では無い。
「では、パストラルに天使や悪魔が侵入した。という話では……?」
「天使や悪魔?なんだそりゃ。」
「この世界の外にいる……考え方が極端な人たちのことだと思います。この世界を自分色に染めようとしているヤバい思想の持ち主なので、パストラルにいる人々が関わらないようにドラゴンが食い止めています。」
「……俺達には関係なさそうな話だな。」
「そうですね。」
鱗さえあれば、僕も今頃その戦いに参加していたことだろう。
しかし、故郷を飛び出した今となっては、他人事のような話だった。
「では、本当に……ミスリルの加工方法を知るためだけに、ドラゴンと連れだってきたというのか。」
「なんだよ。悪いってのか?」
「すまない。いささか警戒しすぎたようだ。なにせ相手がドラゴンだったのでな。万が一にそなえなければならなかった。」
そこでようやく、男は警戒心を解いたようだった。
表情が幾分和らぎ、ぎこちない笑顔を浮かべている。
「私はこの塔の主、アーヴィング。あなた方の訪問理由はわかりました。ですが、このままこの塔に入らせるわけにはまいりません。」
「どうすれば中に入れてもらえる?」
「この塔に住む他の魔法使いの様に、試練を突破してもらいます。」
「試練?」
「本来ならば、この場所に来ること自体が試練なのですが……。あなた方は、試練を無視するようなやり方で訪問されているので、皆を納得させるためにももう一つ試練を受けていただきます。」
なんとなくそんな感じはしてたものの、めんどくさがって故意に無視した僕は、アーヴィングさんの視線を避けるようにヴァルカンさんの背後で縮こまった。
後から聞いた話によると、塔の幻影を正しい角度で眺めると、本物の塔が見え、その瞬間にここに召喚されるという仕組みだったそうだ。
ドラゴンの目は真実を見抜いてしまうため、召喚陣の設置された場所に行かなくても本物の塔が見えてしまったというわけだ。
「試練の内容は?」
ヴァルカンさんは全く悪びれもせずに、アーヴィングさんに質問をした。
「……そちらにおられるドラゴンを人間に変身させること。それができれば、塔に入る許可を出しましょう。」
「まあ、このままだと塔に入れねえからな。オーン。お前さん、人間に変身できたりするのか?」
ヴァルカンさんの問いに対して、僕は申し訳なさそうに項垂(うなだ)れた。
「魔法を習う前に故郷を離れたので、僕は魔法を使えません。ごめんなさい。」
「別にお前さんが謝ることじゃねえさ。今から勉強すればいいだけの話だ。おい、アーヴィング。こいつに魔法書を貸してやってくれ。」
「ふむ……。ミスリルを担保にしてもよければお貸出ししましょう。お持ちなのでしょう?」
「わかった。それでいい。」
「では、ここにミスリルを置いて、湖の外の森に向かってください。魔法書はそこに置くよう手配しました。」
「俺達をはめようってわけじゃねえよな?」
「ドラゴンを敵に回すほど、我々は身の程知らずではありません。」
「ヴァルカンさん、この人の言っていることは本当です。使い魔が森へ魔法書を運んでいるのが見えます。」
僕の言葉に納得したヴァルカンさんは、ミスリルを地面に置いて、再び僕の背に乗った。
僕らが島から飛び立つと、障壁のようなもので塔が覆われるのが見えた。
人間のみを立ち入らせる魔法であることから、取引を反故にするつもりがないことが僕にはわかった。
「これが魔法書か。」
湖の外にある森の中の切り株の上に、ぽつんと魔法書が置かれていた。
ヴァルカンさんが本を開くと、中には僕らが使う文字とは違う文字がいっぱいかかれている。
「何て書いてあるんですか?」
僕の質問に対して、ヴァルカンさんは少し驚いたようだった。
「ドラゴンってのは、文字は使わねえのか?」
「ええと、ドラゴンの使っている文字と違うみたいです。」
「そういうことか。わかった。代わりに俺が読んでやる。」
変身の魔法、変身の魔法。
ブツブツとヴァルカンさんが本に書かれた文字を読み上げている。
僕はその言葉を耳で追いながら、本に書かれた文字と照らし合わせ、人間の文字を少しずつ覚え始めた。
「これだな。変身の魔法を行使するには、何より変身する相手をよく知る必要がある。大きさ、重さ、手触り、匂い、色。様々なものを正確にイメージできなければ、対象に変身することはできない。呪文の言葉は……オウロ・ベルデ・フォス・ディウスだな。」
「呪文の言葉は短いですが、なんだか難しそうですね。」
「そうだな……。とりあえず、俺に変身できりゃ、塔には入れるか?」
「そうですね。」
アーヴィングさんとのやり取りとは違う意味で、気まずい沈黙が僕達の間に降りた。
人語を理解する相手の匂いを嗅いだり、感触を確かめる為にペロペロ舐めるのは、とても恥ずかしい行為のような気がしたからだ。
「よし。」
覚悟が決まったのか、僕の目の前でヴァルカンさんが服を脱ぎ始めた。
周りに人の目はないようだったが、一応翼を広げて球体上の天幕を作り、男の裸体が他の人間に見えないよう配慮した。
「感触や匂いを確かめるなら、この方が手っ取り早いだろ?」
ヴァルカンさんの言う通り、服を脱いだ途端、男の芳醇な香りが鼻腔をついた。
その匂いを嗅いだ途端、僕は何をすればいいのかを悟ってしまった。
ドラゴンとしての本能とでも言うのだろうか。
僕は無意識に、匂いが一番強い所に顔を近づけていた。
男は少し驚いたようだったが、怯むことなくドラゴンのするがままに任せていた。
くんくんと匂いを嗅ぎ、ペロリとそこをひと舐めすると、男は生理的な反応を僕に返した。
それが堅くなり、上に反り返ると、男の匂いが強くなった気がした。
僕は当初の目的を忘れて、丁寧にその場所を舐め続けた。
男は何も言わずに仁王立ちになり、僕のやることを受け入れている。
だから僕は男が精を放つまで、ペロペロとそこを舐め続けた。
やがて、声を押し殺しながら、男は精を僕の口の中に放った。
ごくりと飲み込むと、生の民(リーヴ)を形作る遺伝子が、頭の中に流れ込んできた。
今なら変身の魔法が使える。
そんな予感がした。
「オウロ・ベルデ・フォス・ディウス」
魔法の言葉を僕が呟くと、竜脈を伝い体の中に大量の魔力が流れて来た。
その魔力を使い、僕は人間の姿を形成する。
「誰だ……お前は……?」
そこにはヴァルカンさんとは似ても似つかない、素っ裸の偉丈夫が立っていた。
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