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昼河柚黄のお話。
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しおりを挟む僕とソレを隔てるように、女子高生は立っていた。
彼女の言葉が、僕に向けられた言葉ではないと知る。
視線は、顔は、『ソレ』に向いていた。
(……なんだ、あれ……)
人の手が、足が、頭が、胴体が。
バラバラにされて、ぐちゃぐちゃに混ぜられて、一つの生き物にされたような。
そんな化け物が、そこにはいた。
姿形としては、巨大な蜘蛛のようだ。
「私のメインディッシュ、奪いましたね? 返してくださいよう」
女子高生は、手を差し出す。
彼女のいう『メインディッシュ』が何のことかは、検討もつかないし、考えたくもない。
化け物はそこから動かなかった。
逃げもしないが、襲い掛かっても来ない。
その巨体で暴れられたら、僕はおろか、女子高生だってひとたまりもないように思えるが、そうはしなかった。
それどころか、怯えるように。
化け物は、女子高生の動向をうかがっている。
「ああ、お兄さんをどうしても食べたい、と」
「ぼ、僕?」
「いやだとしてもですね、私のメインディッシュは『私の』です。そこは譲れません」
僕は食べられるなんてごめんだ、という暇もなく。
彼女は言葉をつづける。
「横取りした分、貴方には代償を払っていただきたい。そうじゃないなら、そうですね。弁償が必要でしょう?」
にこり。
女子高生が、こちらに微笑んだ。
……うん?
もしかして、僕を?
「ねえ、お兄さん」
頷けなかった。
彼女の口の周りについた臓物とか。
えげつない量の血液とか。
手にした、フォークとナイフとか。
そういうものが、あらゆる想像を掻き立ててしまって。
ぐ、と体を起こして、立ち上がろうとしたが、僕は情けなく地面に崩れ落ちた。
腰が抜けてしまったようだ。
「たす、けて……たすけて……助けてぇ……!」
自分の口から、言葉が漏れる。
「……死にたく、ない……!」
手と、足で。
なんとか、這うように。
地面を進む。
──ざくっ。
「うぐッ!」
「お話はまだ終わってません。ごはんは、動かないように」
ごはんっていった! 今!
「どうします、貴方。その娘の魂を返すか、あるいは別の者を寄越すか。それすら拒絶するか。三つ、選択肢をあげますけど」
女子高生は容赦なく僕の手を地面にとめるように、ナイフを突き刺した。
ずき。ずき。ずき。
痛い。じわじわと赤いものがあふれてくる。
たったこれだけの痛みで、もはや僕の体などは動かない。
化け物から声は聞こえてこないが、どうやら女子高生と別の次元で会話をしているようだ。
女子高生は先ほどから「ふむふむ」と頷いている。
「ええ~、そんなことになります? あー、まあ、なくはないですけどお」
僕のことは放置である。
「うん、うん……むう。それじゃあ、まあ、仕方ないですかねえ」
何か一つの結論を導き出したのだろうか。
双方、合意するようにうなずいた。……ように見えた。
そうして。
「それじゃ、こっちはいただきますね」
──ぶすっ。
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