医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語

スピカナ

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589話 ほうとう

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 夏がひとしきり泣いて収まったから車に戻ろうとしたら、道路の向かい側で莉子と桃香がじっと俺達を見ていた。

う~ん・・隠しようがない・・しょうがないな。

莉子の元へ二人で行った。夏が恥ずかしそうに下を向いていた。

「夏、ごめんね。私達だけで食べちゃって‥‥‥夏は食べられなかったんだね」

莉子がそう言うと、また夏が泣き出してしまった。はぁ‥‥‥。

「莉子、大丈夫だよ。夏もわかっているんだけど、ここまで身体を壊したことを悲しんでいただけだよ」

「おにい・・」って桃香が泣いて夏にしがみついた。夏が桃香を抱きしめた。

ああ、観光地のど真ん中で何をやっているんだよ。全く・・。

「さあ、夏も泣くのはもう止めろ。湖の回りをドライブしようよ。お昼はほうとうを食べないか?」

なんだか湿っぽくなってしまった。

この気分を変えられるか?。

夏は見た目と違ってまだ病人だ。先に目星をつけておいた店に電話した。

空いているそうだから予約した。それとちょっと特別注文をした。

「さあ、車に乗るよ」

湖に出ると本当に静かだった。真夏は学生などで混むのかもしれないけど、ここはちょっと奥まっているからな。

「夏はここに来たことがあるのか?」

「はい、中学の頃にテニス合宿で来ました。テニスコートが沢山あるんですよ」

「俺も大学時代にテニス合宿で来たことがあるよ。あの頃は学生だらけだったなあ」

目当ての店はすぐに見つかった。

大きな三角屋根のどっしりとした山小屋風の建物だった。

名前を言うと、すぐに案内してくれた。

「みんなほうとうでいいかな?」

莉子「うん、いいよ。だって食べたことがないからわかんないもん」

ほうとうは大好きだ。麺自体がすごく美味しい。

形が似ているからうどんと間違われるけど、味は全然違う別物だ。

どちらかというと、強力粉を使ったすいとんに近い。

もちもちの触感が癖になるんだ。

すいとんなら何回か莉子にも食べさせたから分かるはずだ。

大事なポイントは絶対にカボチャを入れないといけないということだ。

これは地元の人に教わったんだよね。

普通のうどんつゆのように、カボチャを煮ながらつぶして溶かした汁を飲むんだよ。

そんな話をしていたら、運ばれてきた。

夏が「あっ」と言いながらきょろきょろと見比べていた。笑う。

「夏は特別に作ってもらったよ。ほうとう抜きのおじやだ。良かったねえ」

夏 「ええ‥‥‥?」

莉子「春ちゃん、それはかわいそうでしょう?」

「うん、だから、俺のほうとうを1本だけ夏にやるよ。お前はそれを100回噛むんだぞ。そしたらおなかを壊さないからな。ほうとうは腰が強いから、うどんよりももっと消化に時間がかかるんだよ。でもおじやにしても中身は同じだからうまいはずだよ」

そうは言っても、なんだか夏は納得していないように不満そうだった。ふふふ。

そして俺のほうとうを1本夏にやった。

そしたら、それをすぐ口に入れて、カミカミと100回噛むアピールを俺にした! ふふふ、笑う。

「そうそう、その調子だ。かぼちゃはつぶして溶かすんだよ。まあ、そのまま食べても良いけどさ」

桃香が「おいしいね」と余計なことを言った。ククク・・苦しい・・。

夏がじろっと桃香を睨んでいた。

食べものの恨みは恐ろしいからなあ・・。あははは


さて、クリニックの皆にお土産を買おうよということになって、地元のものが集まるJAの大きな市場に行った。

「どれがいいかなあ?」そういうと、なぜかみんなトウモロコシの所へ行った。

なんでそうなるかなあ? みんなの目が点になっていると思ったら、その先には例の<ホワイトショコラ>があった。

ったく・・はあ・・。これが運命なのか?

「ふ~ん、ここで買うと1本500円なんだ」皆が俺の顔を見た。「はいはい、分かったよ!」

俺はホワイトショコラを大きな段ボールに40本入れて貰って買った。大人買いもいいとこだよ。

夏は実家用にも買っていた。これでいいか? 

みんな安心したように帰ろうとした。

えっ? 他はいいのか? みんな振り返りもしなかった。どういう家族だよ。

「さあ、ホテルに帰るよ」
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