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本編
お茶でもしないか
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「お茶でもしないか。」
あら……?
珍しいこと。
私に興味のない旦那様が声をかけてくるだなんて……。
公爵家に恥をかかせないようにするなら何したって……それこそ男を囲ったっていいって言ってたのに、どうしたのかしらねぇ?
こんなの結婚して2年経って初めてのことだわ。
私は旦那様の顔をまじまじと見つめた。
「旦那様…? 只今空耳が聞こえたようで、旦那様のお声を上手く聞き取れませんでしたわ。申し訳ございません、もう一度仰って頂いても宜しいでしょうか?」
旦那様はむすっとしたお顔になって、確かに私に仰った。
確かに仰いましたの。確かにです、た し か に。それは正確に、それは大きな声で、はっきりと。
……騎士団の練習場にでもいるような喋り方で。
……そんなに気難しそうな顔をしないでいただきた………なんでもありませんわ。淑女としてあるまじき発言をしようとしてしまいました。
何たる失態!!
「一緒に、お茶をしようと言っているのだ。」
わお……ああ、だめだわ。(わたくし、大変驚きましたわ)って言わなきゃ。
今日はジメジメとして梅雨らしい日だけれども、雪でも降ってしまうのではないかしら。
「旦那様……。」
びっくりしてしまって私は開いた口が塞がりません。
そんな私を見て、旦那様は表情を今よりもっと歪めました。
「だめなのか。 妻に歩み寄ろうとしたのか失敗だった。」
あ ゆ み よ ろ う と し た ?
2年間も放置して置いてなんだその言いぐ…………なんでもございませんわ。
旦那様が私の部屋から出て行こうとして、踵を返しました。
止めなければ………ならないのでしょうね…………。
めんどくさいな。
あら、わたくしとしたことが本音が出てしまいましたわ。 オホホホホホホ…………。
はいはいはい始めましょーーー。
旦那様を引き止めるおべっかが開始されましたーーー。
私……シャーロット頑張って下さーーーーーーい。
①はい、淑女がよく作る「美しく上品な歯を見せない笑顔」を浮かべます。
②ちょっと上目遣いになります。
③手を神に祈るように組みます。
④甘えた声で言葉を発します。
皆さん覚えておきましょーーーーー。
「旦那様! お待ちくださいませ、わたくし、旦那様と一緒にお茶がしとうございますわ! 旦那様にそう言って頂けて、わたくしとても嬉しくて言葉を失ってしまったのです。どうかお許し下さいませね。是非お茶にいたしましょう。この前、美味しい茶葉を友人から頂きましたのよ。」
旦那様は少し機嫌を良くして、私の手を(乱暴に。紳士じゃない取り方で)取りました。
「テラスに席を用意してある」
準備がいいことで。
仕方ない、今まで読んでいた本を置いて、旦那様にお付き合いしましょう。
旦那様の、気の向いた時の戯れに付き合ってあげましょう。
明日には、きっとこんなことしないで、私と顔を合わせないようにコソコソと女の子達と会うのでしょうけど。
明日には、私の目を見ることも、手を取ることもないでしょうけど。
明日には、首元にキスマークをつけて夜遅くに仕事から帰ってくるのでしょうけど。
明日には、今日のことなど忘れてしまうのでしょうけど……。
私はあなたをずっと前から愛しているから、もう愛を求めることも諦めた。
娼館に通うところも、私に見せたことのないような顔を他の女に見せるのも、全て心の中で悲鳴をあげながら見ていた。
私のことを侮辱する言葉を言われても耐えた。
だから、こんなことでそれまで行われてきたことを忘れてはならない。
今私が旦那様のことを愛していても、今までのことをこれで清算しようと思ってはいけない。
こんなことで胸を躍らせてはいけない。
公爵家の妻として、美しく気高く強かに生きて行かなくては。
完璧な妻にならなければ。
そうでないと、捨てられてしまう。
私には価値がないと思われてしまう。
私はそれが、怖い。
そうして私は旦那様に手を取られながら、旦那様とテラス席に向かうのでした。
作り物の淑女の微笑みを作りながら。
あら……?
珍しいこと。
私に興味のない旦那様が声をかけてくるだなんて……。
公爵家に恥をかかせないようにするなら何したって……それこそ男を囲ったっていいって言ってたのに、どうしたのかしらねぇ?
こんなの結婚して2年経って初めてのことだわ。
私は旦那様の顔をまじまじと見つめた。
「旦那様…? 只今空耳が聞こえたようで、旦那様のお声を上手く聞き取れませんでしたわ。申し訳ございません、もう一度仰って頂いても宜しいでしょうか?」
旦那様はむすっとしたお顔になって、確かに私に仰った。
確かに仰いましたの。確かにです、た し か に。それは正確に、それは大きな声で、はっきりと。
……騎士団の練習場にでもいるような喋り方で。
……そんなに気難しそうな顔をしないでいただきた………なんでもありませんわ。淑女としてあるまじき発言をしようとしてしまいました。
何たる失態!!
「一緒に、お茶をしようと言っているのだ。」
わお……ああ、だめだわ。(わたくし、大変驚きましたわ)って言わなきゃ。
今日はジメジメとして梅雨らしい日だけれども、雪でも降ってしまうのではないかしら。
「旦那様……。」
びっくりしてしまって私は開いた口が塞がりません。
そんな私を見て、旦那様は表情を今よりもっと歪めました。
「だめなのか。 妻に歩み寄ろうとしたのか失敗だった。」
あ ゆ み よ ろ う と し た ?
2年間も放置して置いてなんだその言いぐ…………なんでもございませんわ。
旦那様が私の部屋から出て行こうとして、踵を返しました。
止めなければ………ならないのでしょうね…………。
めんどくさいな。
あら、わたくしとしたことが本音が出てしまいましたわ。 オホホホホホホ…………。
はいはいはい始めましょーーー。
旦那様を引き止めるおべっかが開始されましたーーー。
私……シャーロット頑張って下さーーーーーーい。
①はい、淑女がよく作る「美しく上品な歯を見せない笑顔」を浮かべます。
②ちょっと上目遣いになります。
③手を神に祈るように組みます。
④甘えた声で言葉を発します。
皆さん覚えておきましょーーーーー。
「旦那様! お待ちくださいませ、わたくし、旦那様と一緒にお茶がしとうございますわ! 旦那様にそう言って頂けて、わたくしとても嬉しくて言葉を失ってしまったのです。どうかお許し下さいませね。是非お茶にいたしましょう。この前、美味しい茶葉を友人から頂きましたのよ。」
旦那様は少し機嫌を良くして、私の手を(乱暴に。紳士じゃない取り方で)取りました。
「テラスに席を用意してある」
準備がいいことで。
仕方ない、今まで読んでいた本を置いて、旦那様にお付き合いしましょう。
旦那様の、気の向いた時の戯れに付き合ってあげましょう。
明日には、きっとこんなことしないで、私と顔を合わせないようにコソコソと女の子達と会うのでしょうけど。
明日には、私の目を見ることも、手を取ることもないでしょうけど。
明日には、首元にキスマークをつけて夜遅くに仕事から帰ってくるのでしょうけど。
明日には、今日のことなど忘れてしまうのでしょうけど……。
私はあなたをずっと前から愛しているから、もう愛を求めることも諦めた。
娼館に通うところも、私に見せたことのないような顔を他の女に見せるのも、全て心の中で悲鳴をあげながら見ていた。
私のことを侮辱する言葉を言われても耐えた。
だから、こんなことでそれまで行われてきたことを忘れてはならない。
今私が旦那様のことを愛していても、今までのことをこれで清算しようと思ってはいけない。
こんなことで胸を躍らせてはいけない。
公爵家の妻として、美しく気高く強かに生きて行かなくては。
完璧な妻にならなければ。
そうでないと、捨てられてしまう。
私には価値がないと思われてしまう。
私はそれが、怖い。
そうして私は旦那様に手を取られながら、旦那様とテラス席に向かうのでした。
作り物の淑女の微笑みを作りながら。
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