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本編
全ては奥様の為に 2
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旦那様の残虐な行動は、どんどんエスカレートしていきました。
誰も止めることができないので、エスカレートするのは当たり前なのかもしれませんね。
旦那様はどこからか元気で生命力溢れる生き物を集めてきて、今までよりも残酷に、時には器具を使ってまで生き物を痛めつけました。
途中までは私も部屋に呼ばれて見ていたのですが、その残虐さが増せば増すほど私は精神的に参ってしまいました。
生き物が苦しんでいる状態で、旦那様はギラギラとした目で肉の塊となったそれを見つめるのですから。
私が一度目を思い切り背け、胃の中に入れたものを戻しそうになった時から、旦那様はもう私を部屋に呼ぶことはなくなりました。
ですので私は、旦那様がその先から何をしているのかは存じ上げませんでした。
けれども、旦那様がどうしてこうなってしまったのかを思い返すと、たしかにその理由に成り得る出来事があるのです。
旦那様が小さな頃の事ですから、相当記憶に残っているのでしょう。
それが旦那様の良心も脳も蝕んでしまったのかもしれません。
先代の公爵様は、旦那様を折檻していたことがありました。
その理由は「時期公爵としての態度がなっていないから」ということでしたが、私はその頃先代公爵様のご商売が上手くいっていなかったことから、そのはけ口として旦那様を使ったのではないかと思っております。
旦那様が10を越えた頃からは、ご商売も安定して、先代公爵様が旦那様に折檻をすることはなくなり、むしろ旦那様に愛情を注ぐようになりました。
ですが旦那様は、その時にあったことをずっとずっと覚えている状態です。
豹変した父親を怖がって神にすがり、助けを求め、それができないと知ると、ご自分が先代公爵様にされた「弱い者いじめ」のようなことを動物に向けているとしても不思議ではありません。
動物にしていることも、もしかしたら先代公爵様にしたかったことだったのかもしれません。
これはあくまでも私の仮説ですが。
そうこうしているうちに旦那様は15歳になりまして、ある時私に仰いました。
「美しく鳴く鳥を捕まえて来てくれ」
私はまたあの事に使ってしまうのか、と内心呆れながらも(異常なことが身近にありすぎて感覚が麻痺していたのでしょう)美しく鳴く子鳥を捕まえて参りました。
すると、どうしたのでしょう?
旦那様は事もあろうかその小鳥を可愛がったのです。
そうして、地下室にあるおぞましい物を全て…捨てるように指示をなさいました。
すっぱり辞めてくれるのです。
私は歓喜しましたが、またあの時のように恐ろしい趣味を持ってしまうかもしれません。
私は心の中でそれにおびえながらも、そのもの達を私一人で処分致しました。
旦那様の趣味は、屋敷に伝わらないように私が管理しておりましたから。
小鳥を可愛がる旦那様を見て、先代公爵様は安心なさいました。
そうして、婚約者をつけることになさったのです。
そのお相手は、今の奥様…11歳のシャーロット侯爵令嬢でございました。
旦那様は目の中にどこか悲しみを隠していらっしゃる奥様をそれはそれは可愛がりました。
奥様も旦那様に心を開き、2人はお似合いの婚約者同士のように見えましたし、私はお2人を微笑ましく見ていました。
そんな時でしょうか、小鳥が死んでしまったのは。
旦那様はそれを静かに見て、「美しさを永遠に保ちたい。」と仰られて自らの手で剥製になさいました。
その剥製は見事なもので、まるで生きているようでした。
その美しさに、思わず私もため息をついてしまった程です。
そこから旦那様は、事あるたびに何かを剥製にするようになりました。
最初は小さな動物が対象でした。
貴族様の中で、剥製を作ることが趣味になっている方は多くはありませんが確かにいらっしゃいましたので、私は貴族らしい趣味だと思っておりました。
その対象が、人間にまで向こうとは思っていなかったのです。
旦那様が17歳になった時に、先代公爵様はお亡くなりになりました。
馬車の落下事故でした。
旦那様は、公爵様の跡取りとしての相応しさをお葬式やら相続の手続きやらで示しました。
その様子はご立派で、公爵様らしい行動でした。
旦那様は、公爵様の死を聞かされた時には青ざめはしましたが、悲しむ様子は見せませんでした。
そんな旦那様に、優しい奥様は寄り添っておいでになりました。
奥様はまだ13歳でしたが、知識も教養も素晴らしい完璧な淑女でございました。
きっと尊敬していらっしゃったお父様がお亡くなりになって、とてもショックを受けているのですわ、そう言って旦那様の為に行動しておいででした。
あれほどまで人の為に献身的になっている御令嬢を見るのは初めての事でしたので、私は感動致しました。
ですが旦那様はそれでも悲しみを表に出すことはなさいませんでした。
寧ろ公爵様のお葬式の最中に、人に分からないような薄い微笑みを称えていたようにも感じます。
公爵様の遺体はぐちゃぐちゃになっていて、顔だけが綺麗な状態でした。
ですので旦那様は公爵様のデスマスクを作り、それを地下室の壁に飾るようになりました。
今でも時々地下室にこもりきりになり、公爵様のデスマスクを見つめて話しておられるのを見ます。
本当に旦那様はどうなさってしまったのでしょうか?
誰も止めることができないので、エスカレートするのは当たり前なのかもしれませんね。
旦那様はどこからか元気で生命力溢れる生き物を集めてきて、今までよりも残酷に、時には器具を使ってまで生き物を痛めつけました。
途中までは私も部屋に呼ばれて見ていたのですが、その残虐さが増せば増すほど私は精神的に参ってしまいました。
生き物が苦しんでいる状態で、旦那様はギラギラとした目で肉の塊となったそれを見つめるのですから。
私が一度目を思い切り背け、胃の中に入れたものを戻しそうになった時から、旦那様はもう私を部屋に呼ぶことはなくなりました。
ですので私は、旦那様がその先から何をしているのかは存じ上げませんでした。
けれども、旦那様がどうしてこうなってしまったのかを思い返すと、たしかにその理由に成り得る出来事があるのです。
旦那様が小さな頃の事ですから、相当記憶に残っているのでしょう。
それが旦那様の良心も脳も蝕んでしまったのかもしれません。
先代の公爵様は、旦那様を折檻していたことがありました。
その理由は「時期公爵としての態度がなっていないから」ということでしたが、私はその頃先代公爵様のご商売が上手くいっていなかったことから、そのはけ口として旦那様を使ったのではないかと思っております。
旦那様が10を越えた頃からは、ご商売も安定して、先代公爵様が旦那様に折檻をすることはなくなり、むしろ旦那様に愛情を注ぐようになりました。
ですが旦那様は、その時にあったことをずっとずっと覚えている状態です。
豹変した父親を怖がって神にすがり、助けを求め、それができないと知ると、ご自分が先代公爵様にされた「弱い者いじめ」のようなことを動物に向けているとしても不思議ではありません。
動物にしていることも、もしかしたら先代公爵様にしたかったことだったのかもしれません。
これはあくまでも私の仮説ですが。
そうこうしているうちに旦那様は15歳になりまして、ある時私に仰いました。
「美しく鳴く鳥を捕まえて来てくれ」
私はまたあの事に使ってしまうのか、と内心呆れながらも(異常なことが身近にありすぎて感覚が麻痺していたのでしょう)美しく鳴く子鳥を捕まえて参りました。
すると、どうしたのでしょう?
旦那様は事もあろうかその小鳥を可愛がったのです。
そうして、地下室にあるおぞましい物を全て…捨てるように指示をなさいました。
すっぱり辞めてくれるのです。
私は歓喜しましたが、またあの時のように恐ろしい趣味を持ってしまうかもしれません。
私は心の中でそれにおびえながらも、そのもの達を私一人で処分致しました。
旦那様の趣味は、屋敷に伝わらないように私が管理しておりましたから。
小鳥を可愛がる旦那様を見て、先代公爵様は安心なさいました。
そうして、婚約者をつけることになさったのです。
そのお相手は、今の奥様…11歳のシャーロット侯爵令嬢でございました。
旦那様は目の中にどこか悲しみを隠していらっしゃる奥様をそれはそれは可愛がりました。
奥様も旦那様に心を開き、2人はお似合いの婚約者同士のように見えましたし、私はお2人を微笑ましく見ていました。
そんな時でしょうか、小鳥が死んでしまったのは。
旦那様はそれを静かに見て、「美しさを永遠に保ちたい。」と仰られて自らの手で剥製になさいました。
その剥製は見事なもので、まるで生きているようでした。
その美しさに、思わず私もため息をついてしまった程です。
そこから旦那様は、事あるたびに何かを剥製にするようになりました。
最初は小さな動物が対象でした。
貴族様の中で、剥製を作ることが趣味になっている方は多くはありませんが確かにいらっしゃいましたので、私は貴族らしい趣味だと思っておりました。
その対象が、人間にまで向こうとは思っていなかったのです。
旦那様が17歳になった時に、先代公爵様はお亡くなりになりました。
馬車の落下事故でした。
旦那様は、公爵様の跡取りとしての相応しさをお葬式やら相続の手続きやらで示しました。
その様子はご立派で、公爵様らしい行動でした。
旦那様は、公爵様の死を聞かされた時には青ざめはしましたが、悲しむ様子は見せませんでした。
そんな旦那様に、優しい奥様は寄り添っておいでになりました。
奥様はまだ13歳でしたが、知識も教養も素晴らしい完璧な淑女でございました。
きっと尊敬していらっしゃったお父様がお亡くなりになって、とてもショックを受けているのですわ、そう言って旦那様の為に行動しておいででした。
あれほどまで人の為に献身的になっている御令嬢を見るのは初めての事でしたので、私は感動致しました。
ですが旦那様はそれでも悲しみを表に出すことはなさいませんでした。
寧ろ公爵様のお葬式の最中に、人に分からないような薄い微笑みを称えていたようにも感じます。
公爵様の遺体はぐちゃぐちゃになっていて、顔だけが綺麗な状態でした。
ですので旦那様は公爵様のデスマスクを作り、それを地下室の壁に飾るようになりました。
今でも時々地下室にこもりきりになり、公爵様のデスマスクを見つめて話しておられるのを見ます。
本当に旦那様はどうなさってしまったのでしょうか?
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