お姉様、ごめんなさい。でも……

やぎや

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悪夢が続く エイミーside 1

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 全てが悪夢のよう。
 生まれてきたことも、こんな女になったことも、全部が全部嫌で嫌でたまらない。
 私の心は何度洗っても汚れがこびりついて剥がれることはないでしょうし、この身体なんて、人の手垢まみれで擦ったってどんな石鹸で洗ったって落やしないだろう。

 そう思いながらも、オリバー様お義姉様の婚約者とキスをする。
 うっとりした表情を作って、仮面を被って被って被って。
 
 「ねえ、オリバー様……。好きよ…………。」

 嘘までついて。

 この男なんて好きなわけがない。

 これが悪い事だって、きちんと分かってる。
 他の人の婚約者を寝取るという事がどんな事かなんてちゃんと知ってる。

 だけど、こうしなければお義姉様まで壊れてしまう。
 私はとっくに壊れてる。だから私はどうなったってどうでもいい。

 でも、お義姉様はこんな感情を持ってはいけない。こんな風になってはいけない。
 だから、そのために。

 仕方ないんだ。
 

 これで私はあの男から逃れられるし、お義姉様からこの屑みたいな奴を引き離せる。

 だから、私がどうなったってこれは私の為。
 お義姉様に嫌われたって、これはお義姉様の為なんだから…………。




 ね、仕様がないでしょう?










 私は馬小屋で生まれた、らしい。
 産婆などいなくて、一人で産んだのだから本当に死ぬかと思ったわ、と母に睨まれながら言われたのを覚えている。

 母は私をみるたびに言った。
「お前を身籠もらなければ、お前がそんな容姿で生まれて来なければ、今頃私は愛する方と幸せに暮らせていたのに。」

 小さい頃からそう言われ続けた。

 母は本当に惨めな人だった。
 過去の話ばかりして、過去の栄光に縋っていた。
 それでしか自分の価値を認められなかったのかもしれない。

 豪華な生活から一気に貧しい生活に落とされた為か、まとまった金額が手に入ってもすぐに使ってしまった。

 母は仕事柄家に男を連れ込むことが多かったので、私はその間に小さくて埃っぽい物置部屋に放り込まれていた。

 私には玩具と呼べるような物はなかったから、母が服や装飾品(これらにお金が消えていったのだ)を買う為に街へ行くと、服屋のお姉さんやおじさんに話を強請った。
 彼らがしてくれたのは、美しいお姫様が出てくる、キラキラとした物語。

 私はそれが大好きだったから、薄暗い物置部屋ではその話を思い出して、ずっと空想をし続けていた。
 そうすれば母の嬌声を聞かずに済むし、物置部屋で孤独を感じることもなかった。

 孤独というのものは恐ろしくて、いくら叫んでも喚いても誰も助けてくれやしない。
 鍵のかけられた物置部屋からは出られない。
 
 母は孤独に苛まれてパニック状態に陥った私を見て、顔を分かりやすく歪めて罵詈雑言を吐く。
 当時の私にその言葉の意味は分からなかったけれど、母が怒っていて、私のことを鬱陶しく思っていることはよく伝わった。

 私は母しか縋る物はなく、母の愛情が欲しかった。
 だから、孤独に耐える事を学んだ。









 でも、母はあっけなく死んだ。








 お母さんが寝たきりで起きないの、私は隣の家に駆け込んだ。
 その時は、私は母が死んでいるとは思っていなかった。
 ただ何か理由があって起きられていないだけ、と思っていた。

 
 隣の家のおばさんはすぐに私とお母さんの家に来て、母がもう事切れていることに気づいた。

 そうして神父様を呼んでくれて、母の葬儀の日まで私の面倒を見てくれた。

 私には、母が死んだことの説明をしてくれた。
 母が死んだことを最初は上手く飲み込めず、ただただ呆然としてしまった。
 何故か涙は出てこなかった。

 隣の家のおばさんの子供は、大きくなって別のところで暮らしていた。
 だからなのか、私のことを可愛がってくれた。

 三食美味しいご飯を作ってくれて、私の下らない話に耳を傾けて、真剣に聴いてくれた。寝る前には絵本を読んでくれた。
 布団は少し硬かったけれどふわふわの羽布団が乗せられていて、寝心地がよかった。
 安心して眠って、スッキリと起きる。私は幸せだった。

 それが2週間ほど続いた。
 おばさんは母の葬儀に付き添ってくれて、私に同情して泣いていた。
 やっぱり私はその時も泣けなかった。
 心に大きな穴が空いている感覚があるだけだった。
 
 今から思えば、おばさんと過ごした時間が一番私の身の丈に合っていたのではないかと思う。

 私がずっとおばさんの家に居たいと言っていれば、何かが変わったのかしら?
 そんなのはもう、遅いけれど。




 その後に、私は困った人に手を繋がれて、馬車に乗せられた。

 私が今まで乗ったことのある馬車は荷台のような壊れかけの馬車ばかりだったが、その男の人が乗せてくれた馬車は座席がふわふわと柔らかく、リラックスできる空間だった。

 男の人と私は馬車に乗っている間に何も話さなかった。

 ただ、「今日から私の家族になるんだよ。」と、馬車に乗る前に囁かれた。
 私は驚きのあまり何を言っていいのか分からなくなったので、ただただその言葉に頷いた。


 その男の人の、家の門の前に着いた。

 私はあれほど大きな門を見たのは生まれて初めてだった。
 遠くに見えるお屋敷はとても大きそうで、真っ白な壁に緑色の屋根をしていた。
 門の外から見える、馬車が通る道の端には美しい花が咲き乱れていた。


 お姫様が住んでいるのは、こんな家なんだろう。
 そう思いながら、私は馬車に揺られて門を潜った。







 それで、私はあの素晴らしい方にお会いした。













 










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