引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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「キメル…」

「ブルル」

ソータの元に駆け寄ってきたキメルが鼻を擦り付けてくる。

「どうしたの?キメル?」

ソータはキメルの首に手を当てた。いつものように思念伝播の魔法を使う。

「ソータ、お前が好きだ」

ソータはそれに驚いて後ろによろめいてしまう。分かっていたが直接聞くのは言葉に重みがあった。キメルはすかさずソータのローブを口で掴んでソータの体を支えてくれた。

「キメルってば…」

「俺は本気だからな」

「キメル…」

ソータはキメルの青白く光るタテガミを撫でた。彼の気持ちがとても嬉しかった。

「私はみんなにこういう気持ちを返せない…」

「皆にも伝わっている。ソータが優しいこと、真っ直ぐであること」

キメルの言葉にソータは顔が熱くなった。照れてしまったのだ。

「キメルはそうやって、いつも私を褒めてくれるね」
 
「ソータはいい子だからな」

「キメルだっていい子だよ」

「…そうか?」

ソータもやり返したつもりが上手くいかなかったらしい。キメルが長い首を捻っている。

「ソータ、男には気を付けろよ。お前は魅力的な女の子なんだからな。何かあったら俺がお前を守る。絶対にだ」

「キメル…うん」

キメルの言葉遣いは少し乱暴だ。だがそんなところもソータは好きだった。ソータがキメルの首に抱き着くと、キメルの体温を感じる。

「キメルー」

安心して、だんだんと眠気を覚えてきた。ソータのまぶたが落ちそうになってきている。

「ソータ。眠るなら中で眠れ」

「うん。じゃあ明日ね」

なんとか目をこじ開けたソータは走っていくキメルを見送った。

「キメル、いつも心配してくれてありがとう」

ソータはそっとシオウの家に戻った。

「キメルさんは大丈夫だった?」

大丈夫だったかどうかは良く分からなかったが、上手く説明出来そうになかったので、ソータは黙っていることにした。

「はい。シオウ様はまだ作業されるのですか?」

「あぁ。私のことは気にしなくていいよ。今ノッてるんだ」

「承知しました。無理はなさらず。なにかあったら僕たちは自分で起きるのです」

「訓練されてるなあ」

シオウが感心したように言って笑う。

「シオウ様もそうでしょう?」

「うん、まぁ」

シオウは気弱そうな見た目に反して、自分の意志は、はっきり言うタイプのようだとソータは改めてシオウの情報に訂正をいれる。

「ではおやすみなさい」

ソータは最敬礼をしてソファに横になった。

「おやすみ、ソータさん」

✢✢✢

ソータは起き上がった。まだ目は閉じているが、体は起きようとしている。

「ソーちゃん、寝ながら起きてる」

「ソータ、まだ寝てていいんだぞ?」

レントの面白がるような声とエンジの心配する声。ソータはぱちり、と大きな瞳を開けた。

「おはようございます。エンジ様、レント様」

「おはよ、ソーちゃん。寝顔可愛いね。キスして良い?」

ずしっと重みのある音。エンジの鋭い手刀がレントの頭に炸裂した音だ。

「いってえええ!!!エンジ!もうちょっと手加減してよ!」

「ソータの意思に反する行為をするやつは全員逮捕だ!」

エンジが心配そうにソータを見つめてくる。

「レントのこと嫌いにならないでやってな。こいつ馬鹿だけどいい奴なんだよ。馬鹿だけど」

「なにその大事なことは2回言いましたってやつ!」

「レント!いいか、ソータに謝れ!!立派なセクハラだ!」

なんだかんだエンジはレントのことも心配しているのだ。そんな優しい彼にソータは思わず微笑んでいた。

「大丈夫ですよ、エンジ様。僕は強いのです。レント様くらいなら魔法を使わずとも捌けますよ」

「ソーちゃん、やっぱりくっそ強い」

ぽかん、とエンジとレントがソータの力量に固まってしまっている。

「そういえばシオウ様は?」

ソータがデスクに視線を移すと、彼は机に突っ伏して眠っていた。論文はまだ途中らしい。万年筆が傍らに転がっている。インクはこぼれていないようだ。

「どうやら作業しながら寝落ちしちまったみたいだな」

うーむ、とエンジが顎に手をあてながら言う。

「ん…はっ…」

シオウががばりと起き上がる。そして周囲を見渡した。そしてソータたちを見るとほっと息をつく。

「あ、もう朝か。みんな起きていたんだね。今、食事の支度を…」

シオウが立ち上がろうとして崩れる。それを抱き留めたのはエンジだ。

「シオウ、君、しばらくちゃんと寝てないだろう?
体の消耗が激しい。家事なら俺は何でも出来るから言ってくれ。中央都市に行くんだろ?みんなで」

エンジの言葉にシオウはふっと笑った。

「あなたはいいの?エンジさん。中央都市は、あなたを苦しめた場所かもしれないのに」

「いいんだ、俺は。もう逃げないって決めた。新しい仲間が出来たから」

シオウはエンジの言う事を聞くことにしたらしい。
寝室で休んでくると言って自室に戻った。

「で、エンジ?家事ってなにすんの?」

ソータもなんでもしよう!と張り切って控えている。

「とりあえず飯だな」

エンジが唸って食料庫と冷蔵庫の中を確認する。この世界の冷蔵庫には氷結魔法がかかっているものと、単純に電力で動くものがある。どちらも有名なメーカーでいつも何かと張り合っている。シオウの所持していたものは魔導式だった。

「しそジュース以外、何も無いですね」

「シオウはずっとレイモンド氏に付いて回っていたみたいだしな」

ソータも不思議だった。何故レイモンドにシオウは従っていたのだろうと。
シオウは言っていた、復讐をするためだと。あんなに穏やかなシオウからは考えられない台詞だ。
だが人というものは多様な側面を持つ生き物だ。仮面を使い分けるといえば言い過ぎだが、みな場所や状況によって役割りを演じ分けている。

「よし、分かった。とりあえずなにか食うものを買いに行こう。洗濯物が溜まっていたようだからそれは洗濯機に任せる。俺は部屋の掃除をするから、ソータとレントで弁当を買ってきてくれ」

「お、酒買ってきていい?」

「馬鹿野郎。飯食ったら情報を集めるぞ。中央都市の現状を知っておきたい」

「えー」

「嫌なら飯抜きだ」

「はい、やります」

ソータとレントは暑い陽射しの中を歩いていた。

「あっちぃ…ソーちゃん、大丈夫?」

「はい。レント様はお優しいですね」

ふふ、とソータが笑うとレントが目を逸らしてなんのこと?と呟いた。それがますますおかしい。

「レント様の細やかな配慮、私たちはいつも助けられています」

「は?、配慮なんてしてないよ。たまたま。まぁソーちゃんにならいくらでも配慮するけどね」

「ありがとうございます」

「あ、あれ弁当屋じゃない?ソーちゃんの食べられるやつあるかな」

レントが店に駆け寄ったのでソータもつられた。近付くと、弁当以外に惣菜の量り売りもある。色とりどりの野菜の炒め物やマリネ、ピクルス、他にも鹿肉の煮込みや魚をじっくり煮付けたものもあった。

「エンジ、ケチだから銀貨一枚しかくれなかった。しかもちゃんと余らせてこいとかさ」

「レント様、十分余りますよ」

ソータにもだんだんこの世界の相場が分かってきている。

「ソーちゃんはどれにする?」

「僕はこの野菜炒めを食べます。あとパンも」

「ソーちゃんもメニューが分かってきたね!」

「残念ながらこの世界で僕の食べられる料理は少ないようなのです」

「あ、だからメニューをもう把握したんだね」

「はい。エンジ様たちはどうしますか?」

「んー、鶏肉の揚げたやつとか?まぁ男はみんな、肉が好きなんじゃない?」

「そうなのですね…勉強になります」

「よっし、決めた」 

レントが店員に注文している。ソータはそれを聞いていたが、随分たっぷりだった。

「れ、レント様?!頼み過ぎでは?」

横からソータは慌てて言ったが、レントは大丈夫と片目を閉じる。

「エンジ、めっちゃ食うから大丈夫!俺も食べる方だし?」

「そ、そうなのですね」

この後、エンジがレントに怒ったのは言うまでも無い。
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