引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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「むうう…」

 その日の夕方、エンジがペンを片手に唸っていた。先ほど、ソータ、エンジ、レントはセキヒにあるギルドに向かったのだ。アオナと違い、ここでは新聞が当たり前に売っている。エンジは全ての種類の新聞を購入した。この間のキタ村の一件で、ソータは新聞の面白さを知った。食い入るようにそれを読み耽る。やはりどの誌でも経済不況の見出しが目立っていた。

「なんか今更って感じだけど、世界はもう不況になっていたんだな」

「西北の戦争がそもそものきっかけだったんですね」

 新聞に書かれていたことから知ったが、ここから遥か遠く、西北にある小さな国同士で資源や宗教信仰を巡る紛争が起きていた。世界のネットワークはまだまだ不十分である。

「魔力を元から持たない人がいるなんて知りませんでした」

 ソータはそれに驚きを隠せなかった。自分にとって魔力があることは呼吸をすることくらい自然なことだったからだ。魔力を持たない人間は蔑視されている。それも初めて知った事柄だった。

「宗教かぁ…これも問題としては根深いな。中央都市もやたら金をばら撒いているみたいだし」

 エンジがため息を吐いている。世界は今、波乱に波乱を呼んでいるのだ。

「神は信仰の違いで人々が争いをすることなど望みません」

「あぁ、ソータの言う通りだよ」

「あ…」

 ソータは思い出していた。ソータの顔をエンジとレントが何かと見つめてくる。

「キメルが言っていたのですが、闇神がこの件に関わっているのかもしれません」

「闇神?」

「なにそれ?」

「災いを呼ぶと言われている神です。人間のマイナスな感情から生まれてきます。それを祓わないと、人間たちは次の段階へ進めないのだと昔、聞いたことがあります」

「つまり、それを祓えばこの世界はなんとかなるってこと?」

「いやいやいや、俺たちが祓うのか?」

 レントをエンジが慌てて止める。

「だってこっちには強い聖女のソーちゃんがいるんだし」

「ソータは確かに強いけれど…」

 ちらりとエンジに見つめられて、ソータは頷いた。

「宗教の違いで紛争が起きるのは非常に遺憾なのです。僕は僕の出来ることをしたい」

「うーん、俺たちは世界を救う勇者パーティーじゃないからなあ。」

 エンジがペンを机に放って腕を組んだ。

「なにか楽しいお話?」

 シオウがニコニコしながら現れた。よく眠ったのか明らかに元気そうだ。

「シオウ、よく休めたみたいだな。君の分の弁当があるぞ」

「ありがとう。良く寝たらすごくお腹が空いて」

「沢山食べてくださいね」

 ソータも両拳を握り、シオウに示す。彼にガッツを入れているつもりだ。

「そうするよ、ありがとう。ソータさん」

 弁当の他にもまだ手を付けていない惣菜がいくつかあった。ピーマンの甘酢漬けが載った白身魚のフライや、春雨のサラダなんかもある。冷たくなっても美味しいようにと配慮されているものだ。

「わぁ、美味しそう。いただきます」

 シオウが本当に美味しそうに食べるので、ソータたちもなんだか腹が減ってきたような感覚を覚えていた。時間からして間もなく夕飯である。

 じいっと三人はシオウが食べる様子を見つめていると、シオウが困ったように笑った。

「もしかして、お腹空いてる?出前を頼もうか、ここから選んで」

シオウは立ち上がってチラシを数枚差し出してきた。
定食から軽食まで、その種類は様々である。

「色々あるんだな」

「僕、パンが食べたいのです!」

「ソーちゃん、ぶれないねぇ」

レントの言葉にみんなが笑う。ソータの好物はいつの間にかパンになっていた。特に柔らかくて甘いパンが好きなのだ。

「パンならここのサンドイッチにするか」

沢山のサンドイッチが食べられるというメニューをエンジが示した。サイドメニューに細切りのポテトフライや鶏の唐揚げもある。

「俺もそれがいい!ソーちゃんは?」

「はい。僕もそれで」

シオウが電話で出前を頼んでくれる。ソータは電話を見るのが初めてだった。まず聖域にはないものである。アオナでも使われているはずだが、ソータはアオナの民家に入ったことがない。

「電話ってすごく便利なのですね」

「あぁ。ソータは電話じゃなくて、フクロウか」

「はい」

「フクロウ…ってなに?」

レントとシオウが首を傾げている。

「ソータの連絡手段だ、な?」

「はい。今は聖域にいますが」

彼は大丈夫だろうか?とソータは今更心配になった。半ば強引にキメルに森の守護者に任命されたのだ。フクロウのことだからそれなりに上手くやっているだろう、今はそう信じることしか出来ない。

「シオウ、論文の進捗はどうなんだ?」

「うん、もう今日には仕上がるし、論文ならどこでも書けるよ」

「なら明日出発して、ダイダイに向かうか」

「ダイダイ…」

ダイダイまで行けば随分中央都市に近付く。ソータはドキドキしていた。

「ダイダイなら、今お祭りやってるよね!」

レントが嬉しそうに言う。

「あぁ、ミツキ祭か」

エンジがふむ、と顎に手を当てた。

「そのお祭、行ってみたかったんだ!」

シオウが顔を輝かせている。ソータもミツキ祭については前聖女から聞いていた。その祭は色々な神々が祀られている伝統的な祭である。

「お元気でしょうか、シンラ様…」

「ソータさんはシンラ様とも知り合いなんだね!」

「はい、聖域によく遊びに来られていました」

「すごいなあ、聖域」

ほう、とシオウが息をつく。シンラというのは古き神々の一柱だ。キメルと親しかったはずだとソータはおぼろげに思い出していた。インターフォンが鳴る。

どうやら出前が来たらしい。
ソータたちは食事を楽しんだ。
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