32 / 92
32
しおりを挟む
「ん…」
ソータが目を覚ますと誰かがこちらを見下ろしている。どうやらバスから投げ出されたらしい。幸いなことに、怪我はしていないようだ。もう日が暮れかけている。
「キメル?」
もしかして…という希望は簡単に打ち砕かれた。
「ソータ、やっと僕の物になる気になったか」
相手は十歳前後の少年だ。だが彼から立ち昇る威圧は凄まじい。
「ハ・デス様…私は…」
ソータは起き上がり、ハ・デスを見上げた。彼の視線が突き刺さる。
「ソータ、怖いのか?僕はお前を傷付けない。約束する」
「私は闇神を祓いたいのです」
「…ソータは人間だから人間に優しいよな。闇神の暴走は僕も想定していなかった。まだ僕は生まれたばかりだ。沢山エネルギーが要ると思って人間を利用したんだ。やり方を間違っていた」
ハ・デスが困ったように言う。生まれたばかりの神はエネルギーが枯渇している。特にハ・デス程の特別な神は特にだ。
ソータは立ち上がった。
「誤ちは誰でも犯すものです。今から闇神を祓いましょう」
「ソータ…」
後ろから蹄の音が近付いてくる。
「キメル!!」
キメルの出現にハ・デスは「げ!」と顔をしかめた。ソータにはその理由が分からない。ソータはキメルに抱き着いた。
「キメル、良かった。来てくれたんだね」
「ソータを守ると言った。男に二言はない。おいハ・デス。お前がやったことを他の神々も見ている、分かっているのか?」
う、とハ・デスはたじろいだ。神々のネットワークは人間のものを遥かに凌ぐ。
「人間の負のエネルギーは僕にとってはご馳走で…」
いじいじと両手を弄びながらハ・デスは言い訳した。
「何人もの人間が被害に遭っている。それがソータだったらどうする?」
は…とハ・デスは息を呑んだ。
「や、やだよ。僕がソータを傷付けるなんて!
ソータは僕の物なんだ。僕のお姫様にするんだ」
「お前にソータは絶対にやらないが、まあそういうことだ」
なんだか知らないが話がまとまってしまった。ソータは何が起きているのかよく理解していない。
「ソータ、僕が闇神を祓うよ。こいつらは所詮低級の神だし、すぐ祓えるはず…」
「いや…」
ソータもキメルの言葉に勘付いて振り返った。
黒い巨大な影が立ち塞がっている。闇神が合体した姿だ。一体では弱いが集まればそれなりに手強い相手である。
「助けてくれ!頼む!!」
黒い物体の中心にはレイモンドが囚えられていた。おそらくエネルギーの核にされているのだ。上手く助けなければ彼の命も危ない。
「レイモンド様!今助けます!!頑張ってください!!」
ソータは大きな声で叫んだ。レイモンドは分かってくれただろうか。不安だったが杖を取り出す。
「ソータ!!」
他の者も駆け付けてくる。
「レイモンド様が囚われていて!!」
「先生!」
シオウが身構える。他の者も構えて、戦闘が始まった。黒い鬼たちが巨大な体から次々と出てくる。
「く…これ正直キリないぞ!」
エンジが剣にしがみついてくる鬼たちをなんとか振り払い斬り捨てる。だが、どんどん湧いてくるのだ。ソータも攻撃魔法で応戦する。
「ソータ、お願い。祈ってあげて」
リヒが笑いながら言う。こんな時でも余裕があるところは、やはり聖騎士団団長である。ソータは頷いた。相手は巨大化しているとはいえ、基本的には闇神である。ソータはその場に跪いた。両手を組む。それに襲いかかろうとした鬼は一撃で倒される。
「ソーちゃん守るの任せてよ」
「ソータには指一本触れさせない」
「私達に任せてください」
レント、エンジ、シオウがソータを守るように立ち塞がった。
「フレン、僕たちも負けていられないね」
リヒが剣で鬼を一刀両断にする。彼の剣がギラリと輝いた。
「お前、いつもこれくらい本気出せよな」
フレンが呆れたように言うが、リヒは聞いていない。
「僕のことも忘れないでもらいたい」
ハ・デスも負けじと鬼を倒す。
「ソータ、俺の力も使え」
キメルが魔力をソータに分け与えている。ソータはまだ祈りによる浄化に慣れていない。だからだろう。
「ガハハ、なんか祭りみたいじゃねえか」
「お祭りにしては深刻な事態みたいだけど」
獅子と鬼も馳せ参じる。ソータを守りたい、その気持ちは皆一緒である。ソータは一心に祈っていた。闇神の元となる感情は負の感情だ。それを人から吸い取り力を蓄えていくのである。レイモンドの負の感情から力を吸い取り、闇神の根本を精製する。ハ・デスはそれを蓄えて一気に吸収しようと考えたらしいが、まだ生まれたばかりの彼に、その吸収は難しかった。
「おいおいハ・デス。この闇神、エラい濃縮されてんな」
獅子の言葉にハ・デスがうぅ、と小さくなった。
「僕だってこんなつもりじゃ…」
「ハ・デス。僕たちの聖女さんが大変になる事くらい分かっていただろう?」
神々の言葉にハ・デスは小さくなることしか出来ない。ソータは詠唱を始めている。祈りもそろそろ仕上げにかかる。
「闇の神よ、我が名と力もを持って浄化せん。我が名はソータナレア・フレデリカ。34代目聖女なり。この世より消滅せよ、散!!」
光が辺りを包む。闇神が苦しみながら光に飲み込まれていく。
「グギャアアアア」
闇神の姿は跡形もなく、なくなっている。そしてレイモンドが倒れていた。
「先生!!」
シオウが駆け寄る。レイモンドを助け起こすと気絶をしているようだ。軽傷だが怪我もしている。ソータは立ち上がった。ふらりとよろめきそうになった所を、キメルが体で支えてくれる。
「キメル…」
「ソータ、もう大丈夫だ」
キメルのその言葉にソータは安堵して意識を飛ばした。
ソータが目を覚ますと誰かがこちらを見下ろしている。どうやらバスから投げ出されたらしい。幸いなことに、怪我はしていないようだ。もう日が暮れかけている。
「キメル?」
もしかして…という希望は簡単に打ち砕かれた。
「ソータ、やっと僕の物になる気になったか」
相手は十歳前後の少年だ。だが彼から立ち昇る威圧は凄まじい。
「ハ・デス様…私は…」
ソータは起き上がり、ハ・デスを見上げた。彼の視線が突き刺さる。
「ソータ、怖いのか?僕はお前を傷付けない。約束する」
「私は闇神を祓いたいのです」
「…ソータは人間だから人間に優しいよな。闇神の暴走は僕も想定していなかった。まだ僕は生まれたばかりだ。沢山エネルギーが要ると思って人間を利用したんだ。やり方を間違っていた」
ハ・デスが困ったように言う。生まれたばかりの神はエネルギーが枯渇している。特にハ・デス程の特別な神は特にだ。
ソータは立ち上がった。
「誤ちは誰でも犯すものです。今から闇神を祓いましょう」
「ソータ…」
後ろから蹄の音が近付いてくる。
「キメル!!」
キメルの出現にハ・デスは「げ!」と顔をしかめた。ソータにはその理由が分からない。ソータはキメルに抱き着いた。
「キメル、良かった。来てくれたんだね」
「ソータを守ると言った。男に二言はない。おいハ・デス。お前がやったことを他の神々も見ている、分かっているのか?」
う、とハ・デスはたじろいだ。神々のネットワークは人間のものを遥かに凌ぐ。
「人間の負のエネルギーは僕にとってはご馳走で…」
いじいじと両手を弄びながらハ・デスは言い訳した。
「何人もの人間が被害に遭っている。それがソータだったらどうする?」
は…とハ・デスは息を呑んだ。
「や、やだよ。僕がソータを傷付けるなんて!
ソータは僕の物なんだ。僕のお姫様にするんだ」
「お前にソータは絶対にやらないが、まあそういうことだ」
なんだか知らないが話がまとまってしまった。ソータは何が起きているのかよく理解していない。
「ソータ、僕が闇神を祓うよ。こいつらは所詮低級の神だし、すぐ祓えるはず…」
「いや…」
ソータもキメルの言葉に勘付いて振り返った。
黒い巨大な影が立ち塞がっている。闇神が合体した姿だ。一体では弱いが集まればそれなりに手強い相手である。
「助けてくれ!頼む!!」
黒い物体の中心にはレイモンドが囚えられていた。おそらくエネルギーの核にされているのだ。上手く助けなければ彼の命も危ない。
「レイモンド様!今助けます!!頑張ってください!!」
ソータは大きな声で叫んだ。レイモンドは分かってくれただろうか。不安だったが杖を取り出す。
「ソータ!!」
他の者も駆け付けてくる。
「レイモンド様が囚われていて!!」
「先生!」
シオウが身構える。他の者も構えて、戦闘が始まった。黒い鬼たちが巨大な体から次々と出てくる。
「く…これ正直キリないぞ!」
エンジが剣にしがみついてくる鬼たちをなんとか振り払い斬り捨てる。だが、どんどん湧いてくるのだ。ソータも攻撃魔法で応戦する。
「ソータ、お願い。祈ってあげて」
リヒが笑いながら言う。こんな時でも余裕があるところは、やはり聖騎士団団長である。ソータは頷いた。相手は巨大化しているとはいえ、基本的には闇神である。ソータはその場に跪いた。両手を組む。それに襲いかかろうとした鬼は一撃で倒される。
「ソーちゃん守るの任せてよ」
「ソータには指一本触れさせない」
「私達に任せてください」
レント、エンジ、シオウがソータを守るように立ち塞がった。
「フレン、僕たちも負けていられないね」
リヒが剣で鬼を一刀両断にする。彼の剣がギラリと輝いた。
「お前、いつもこれくらい本気出せよな」
フレンが呆れたように言うが、リヒは聞いていない。
「僕のことも忘れないでもらいたい」
ハ・デスも負けじと鬼を倒す。
「ソータ、俺の力も使え」
キメルが魔力をソータに分け与えている。ソータはまだ祈りによる浄化に慣れていない。だからだろう。
「ガハハ、なんか祭りみたいじゃねえか」
「お祭りにしては深刻な事態みたいだけど」
獅子と鬼も馳せ参じる。ソータを守りたい、その気持ちは皆一緒である。ソータは一心に祈っていた。闇神の元となる感情は負の感情だ。それを人から吸い取り力を蓄えていくのである。レイモンドの負の感情から力を吸い取り、闇神の根本を精製する。ハ・デスはそれを蓄えて一気に吸収しようと考えたらしいが、まだ生まれたばかりの彼に、その吸収は難しかった。
「おいおいハ・デス。この闇神、エラい濃縮されてんな」
獅子の言葉にハ・デスがうぅ、と小さくなった。
「僕だってこんなつもりじゃ…」
「ハ・デス。僕たちの聖女さんが大変になる事くらい分かっていただろう?」
神々の言葉にハ・デスは小さくなることしか出来ない。ソータは詠唱を始めている。祈りもそろそろ仕上げにかかる。
「闇の神よ、我が名と力もを持って浄化せん。我が名はソータナレア・フレデリカ。34代目聖女なり。この世より消滅せよ、散!!」
光が辺りを包む。闇神が苦しみながら光に飲み込まれていく。
「グギャアアアア」
闇神の姿は跡形もなく、なくなっている。そしてレイモンドが倒れていた。
「先生!!」
シオウが駆け寄る。レイモンドを助け起こすと気絶をしているようだ。軽傷だが怪我もしている。ソータは立ち上がった。ふらりとよろめきそうになった所を、キメルが体で支えてくれる。
「キメル…」
「ソータ、もう大丈夫だ」
キメルのその言葉にソータは安堵して意識を飛ばした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる
腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。
荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる