34 / 92
34
しおりを挟む
キメルに宿まで連れてこられてソータはふと気が付いた。これを渡したかったのだ。
「キメル、獅子様がゆで玉子を持ってきてくれたの!はい」
ソータに玉子を差し出されてキメルはソータの手まで噛まないように気を付けながら玉子を口に入れた。殻はそのまま栄養になるので剥かないのがキメル流である。バリバリ咀嚼していると、ソータが嬉しそうに見ている。
「美味しい?私が茹でたわけじゃないんだけど」
「美味いな。ソータが茹でた方がもっと美味くなるんだろうな」
「キメルってば」
ソータの笑顔を見るとぎゅっと胸が締め付けられる。それは不快感ではない。なんだか爽快な甘い痛みである。キメルは自分がいかにソータのことが好きか、今更ながらに思い知っている。
「ソータ、ひとまず休め。周りが騒がしいなら俺が黙らせる」
「キメル、乱暴な言い方は駄目」
「善処する」
ソータはキメルに手を振って、宿屋に戻っていった。
✢✢✢
「中央都市の復興にそんなに時間がかからない?!」
嘘だろ、とエンジは喘いだ。宿屋に戻ってきたソータを皆が取り囲んだのだ。いつの間にかいなくなったソータを皆が心配していたらしい。キメルが一緒にいるという鬼の説明もあったが、あまり意味を成さなかったようだ。
「ソーちゃん、スっていなくなるのやめてね?みんなびっくりしたんだから」
「ごめんなさい」
ソータは謝って、キメルと共に見てきたものについて話した。土地のほとんどが抉れ、現状ではとても都市とは呼べない状態だ。
「それなのに復興に時間がかからないってどういう?」
エンジの疑問は最もである。
「中央都市には神々が沢山いて、その方たちが力を貸してくれるんじゃないかって」
「え、僕が教会に行くと大抵無視されるけどな」
リヒが聖騎士らしくもない発言をしてフレンが頭を抱える。
「リヒ、お前はもっと思いやりを持った方が良いぞ!」
ハ・デスがしてやったりとばかりに嘲笑う。
「えー、僕より弱い子に言われたくないけど」
「僕だってすぐに強くなるさ!」
リヒとハ・デスがこうして言い合うのももはや見慣れてきた。ソータは地図を取り出した。キメルが魔力で書いてくれた特殊な地図である。
「えーと、ここに教会と学校があります。ここは幸いにも無事でした。そこに中央都市の皆さんが避難されてるとキメルが言っていました」
「あぁ、闇神はいわゆる聖域には近付かないからなぁ。リヒの判断がよかった」
フレンが同意する。他にもいくつか無事だった場所はあるらしく、リヒの采配の素晴らしさを皆が認めた。
「さすが僕だね!」
リヒのこういう部分さえなければ優しい魅力的な男性なのだが…とソータは女性として残念に思っていた。リヒは男前な上、実力もあるし、女性を気遣える優しさも持ち合わせている。だがなんとなく残念なのである。
「ソータ、もっと僕を褒めてくれていいんだよ!」
そう、こういうところだ。
「リヒ兄様、もっと大人になってください」
「ははっ、その通りだ」
「むうう」
フレンに笑われてリヒは不満そうに唇を尖らせている。
「とりあえず、教会へ。リヒ兄様とエンジ様、そしてキメルと行ってきます」
「ソーちゃん!俺は?!」
ソータはレントににっこり笑った。
「大丈夫なのです。フレン兄様が決めてくれますので」
「おう、任せろ」
ソータたちは先に出発した。
「わぁ思っていたより酷いな」
リヒが呟く。
「この辺りはまだ無事な方です。ね、キメル」
「あぁ、そうだ。間もなく教会が見える」
「あのさ、エンジ君」
リヒが先程からちらちらとエンジを見ていた。エンジもそれに気がついているようだったのでソータは黙っていた。
「なんですか?」
「聖騎士団のこと、嫌いにならないでね」
「いやいや、嫌いになんかなりませんよ」
「だって騎士団のみんなは僕たちより遥かに汚い仕事をさせられてるわけだし」
「まぁゴロツキの延長みたいな連中ですしね。それに俺はもう騎士ではないですから」
「そうか、アオナのリーダーになるんだもんね」
「いや、それもまだ分からないですが…」
「リヒ兄様、いつもこうならいいのに」
ソータが思わず呟くと、リヒが不満げにええ!と声を上げる。
「僕だってそれなりに大人だもん、ちゃんと出来るんだからね!」
「…普段からは想像つかないのです」
ソータはぴしゃりとはねのけた。ふと向こうを見ると教会の屋根が見える。遠回りになるが、ぐるりと土地の抉れていない部分から、回っていくことになりそうだ。
「ソータに怒られた」
リヒがしょぼんとしているがキメルに頭を鼻先で突かれ、それどころじゃないと悟ったようだった。
「僕みたいなイケメンがいれば場も和むよね!」
「兄様、全然分かってないのです」
ソータは頭を抱えたが、ここで立ち止まっていてもしょうがない。一行は先を急いだ。
教会の隣にあるのが小中高一貫の学校である。そこは、かなり広い面積を誇る。優秀な生徒だけが通える特別な学校だ。ここに通うために子どもたちは幼い頃から勉強や遊びに励む。
「学校…」
ソータは学校に通ったことはない。幼い頃から礼拝堂で祈っていただけだ。文字の読み書きや簡単な計算は出来たが、それくらいである。
「ソータは学校に通いたいんだね」
リヒの言う通りで、ソータは頷いていた。
「楽しそうなのです」
「友達も沢山出来るしね!」
リヒは人懐こい性格だ。人付き合いにはまず困っていないだろう。
「エンジ様は学校の思い出ってありますか?」
「あぁ、俺は士官学校に通っていたから主に体力育成だった。楽しかったなぁ」
エンジの逞しさはそこから来ているのだと改めて思い知らされる。教会はもう目の前だ。
「キメル、獅子様がゆで玉子を持ってきてくれたの!はい」
ソータに玉子を差し出されてキメルはソータの手まで噛まないように気を付けながら玉子を口に入れた。殻はそのまま栄養になるので剥かないのがキメル流である。バリバリ咀嚼していると、ソータが嬉しそうに見ている。
「美味しい?私が茹でたわけじゃないんだけど」
「美味いな。ソータが茹でた方がもっと美味くなるんだろうな」
「キメルってば」
ソータの笑顔を見るとぎゅっと胸が締め付けられる。それは不快感ではない。なんだか爽快な甘い痛みである。キメルは自分がいかにソータのことが好きか、今更ながらに思い知っている。
「ソータ、ひとまず休め。周りが騒がしいなら俺が黙らせる」
「キメル、乱暴な言い方は駄目」
「善処する」
ソータはキメルに手を振って、宿屋に戻っていった。
✢✢✢
「中央都市の復興にそんなに時間がかからない?!」
嘘だろ、とエンジは喘いだ。宿屋に戻ってきたソータを皆が取り囲んだのだ。いつの間にかいなくなったソータを皆が心配していたらしい。キメルが一緒にいるという鬼の説明もあったが、あまり意味を成さなかったようだ。
「ソーちゃん、スっていなくなるのやめてね?みんなびっくりしたんだから」
「ごめんなさい」
ソータは謝って、キメルと共に見てきたものについて話した。土地のほとんどが抉れ、現状ではとても都市とは呼べない状態だ。
「それなのに復興に時間がかからないってどういう?」
エンジの疑問は最もである。
「中央都市には神々が沢山いて、その方たちが力を貸してくれるんじゃないかって」
「え、僕が教会に行くと大抵無視されるけどな」
リヒが聖騎士らしくもない発言をしてフレンが頭を抱える。
「リヒ、お前はもっと思いやりを持った方が良いぞ!」
ハ・デスがしてやったりとばかりに嘲笑う。
「えー、僕より弱い子に言われたくないけど」
「僕だってすぐに強くなるさ!」
リヒとハ・デスがこうして言い合うのももはや見慣れてきた。ソータは地図を取り出した。キメルが魔力で書いてくれた特殊な地図である。
「えーと、ここに教会と学校があります。ここは幸いにも無事でした。そこに中央都市の皆さんが避難されてるとキメルが言っていました」
「あぁ、闇神はいわゆる聖域には近付かないからなぁ。リヒの判断がよかった」
フレンが同意する。他にもいくつか無事だった場所はあるらしく、リヒの采配の素晴らしさを皆が認めた。
「さすが僕だね!」
リヒのこういう部分さえなければ優しい魅力的な男性なのだが…とソータは女性として残念に思っていた。リヒは男前な上、実力もあるし、女性を気遣える優しさも持ち合わせている。だがなんとなく残念なのである。
「ソータ、もっと僕を褒めてくれていいんだよ!」
そう、こういうところだ。
「リヒ兄様、もっと大人になってください」
「ははっ、その通りだ」
「むうう」
フレンに笑われてリヒは不満そうに唇を尖らせている。
「とりあえず、教会へ。リヒ兄様とエンジ様、そしてキメルと行ってきます」
「ソーちゃん!俺は?!」
ソータはレントににっこり笑った。
「大丈夫なのです。フレン兄様が決めてくれますので」
「おう、任せろ」
ソータたちは先に出発した。
「わぁ思っていたより酷いな」
リヒが呟く。
「この辺りはまだ無事な方です。ね、キメル」
「あぁ、そうだ。間もなく教会が見える」
「あのさ、エンジ君」
リヒが先程からちらちらとエンジを見ていた。エンジもそれに気がついているようだったのでソータは黙っていた。
「なんですか?」
「聖騎士団のこと、嫌いにならないでね」
「いやいや、嫌いになんかなりませんよ」
「だって騎士団のみんなは僕たちより遥かに汚い仕事をさせられてるわけだし」
「まぁゴロツキの延長みたいな連中ですしね。それに俺はもう騎士ではないですから」
「そうか、アオナのリーダーになるんだもんね」
「いや、それもまだ分からないですが…」
「リヒ兄様、いつもこうならいいのに」
ソータが思わず呟くと、リヒが不満げにええ!と声を上げる。
「僕だってそれなりに大人だもん、ちゃんと出来るんだからね!」
「…普段からは想像つかないのです」
ソータはぴしゃりとはねのけた。ふと向こうを見ると教会の屋根が見える。遠回りになるが、ぐるりと土地の抉れていない部分から、回っていくことになりそうだ。
「ソータに怒られた」
リヒがしょぼんとしているがキメルに頭を鼻先で突かれ、それどころじゃないと悟ったようだった。
「僕みたいなイケメンがいれば場も和むよね!」
「兄様、全然分かってないのです」
ソータは頭を抱えたが、ここで立ち止まっていてもしょうがない。一行は先を急いだ。
教会の隣にあるのが小中高一貫の学校である。そこは、かなり広い面積を誇る。優秀な生徒だけが通える特別な学校だ。ここに通うために子どもたちは幼い頃から勉強や遊びに励む。
「学校…」
ソータは学校に通ったことはない。幼い頃から礼拝堂で祈っていただけだ。文字の読み書きや簡単な計算は出来たが、それくらいである。
「ソータは学校に通いたいんだね」
リヒの言う通りで、ソータは頷いていた。
「楽しそうなのです」
「友達も沢山出来るしね!」
リヒは人懐こい性格だ。人付き合いにはまず困っていないだろう。
「エンジ様は学校の思い出ってありますか?」
「あぁ、俺は士官学校に通っていたから主に体力育成だった。楽しかったなぁ」
エンジの逞しさはそこから来ているのだと改めて思い知らされる。教会はもう目の前だ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる
腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。
荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる