引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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キメルに宿まで連れてこられてソータはふと気が付いた。これを渡したかったのだ。

「キメル、獅子様がゆで玉子を持ってきてくれたの!はい」

ソータに玉子を差し出されてキメルはソータの手まで噛まないように気を付けながら玉子を口に入れた。殻はそのまま栄養になるので剥かないのがキメル流である。バリバリ咀嚼していると、ソータが嬉しそうに見ている。

「美味しい?私が茹でたわけじゃないんだけど」

「美味いな。ソータが茹でた方がもっと美味くなるんだろうな」

「キメルってば」

ソータの笑顔を見るとぎゅっと胸が締め付けられる。それは不快感ではない。なんだか爽快な甘い痛みである。キメルは自分がいかにソータのことが好きか、今更ながらに思い知っている。

「ソータ、ひとまず休め。周りが騒がしいなら俺が黙らせる」

「キメル、乱暴な言い方は駄目」

「善処する」

ソータはキメルに手を振って、宿屋に戻っていった。

✢✢✢

「中央都市の復興にそんなに時間がかからない?!」

嘘だろ、とエンジは喘いだ。宿屋に戻ってきたソータを皆が取り囲んだのだ。いつの間にかいなくなったソータを皆が心配していたらしい。キメルが一緒にいるという鬼の説明もあったが、あまり意味を成さなかったようだ。

「ソーちゃん、スっていなくなるのやめてね?みんなびっくりしたんだから」

「ごめんなさい」

ソータは謝って、キメルと共に見てきたものについて話した。土地のほとんどが抉れ、現状ではとても都市とは呼べない状態だ。

「それなのに復興に時間がかからないってどういう?」

エンジの疑問は最もである。

「中央都市には神々が沢山いて、その方たちが力を貸してくれるんじゃないかって」

「え、僕が教会に行くと大抵無視されるけどな」

リヒが聖騎士らしくもない発言をしてフレンが頭を抱える。

「リヒ、お前はもっと思いやりを持った方が良いぞ!」

ハ・デスがしてやったりとばかりに嘲笑う。

「えー、僕より弱い子に言われたくないけど」

「僕だってすぐに強くなるさ!」

リヒとハ・デスがこうして言い合うのももはや見慣れてきた。ソータは地図を取り出した。キメルが魔力で書いてくれた特殊な地図である。

「えーと、ここに教会と学校があります。ここは幸いにも無事でした。そこに中央都市の皆さんが避難されてるとキメルが言っていました」

「あぁ、闇神はいわゆる聖域には近付かないからなぁ。リヒの判断がよかった」

フレンが同意する。他にもいくつか無事だった場所はあるらしく、リヒの采配の素晴らしさを皆が認めた。

「さすが僕だね!」

リヒのこういう部分さえなければ優しい魅力的な男性なのだが…とソータは女性として残念に思っていた。リヒは男前な上、実力もあるし、女性を気遣える優しさも持ち合わせている。だがなんとなく残念なのである。

「ソータ、もっと僕を褒めてくれていいんだよ!」

そう、こういうところだ。

「リヒ兄様、もっと大人になってください」

「ははっ、その通りだ」

「むうう」

フレンに笑われてリヒは不満そうに唇を尖らせている。

「とりあえず、教会へ。リヒ兄様とエンジ様、そしてキメルと行ってきます」

「ソーちゃん!俺は?!」

ソータはレントににっこり笑った。

「大丈夫なのです。フレン兄様が決めてくれますので」

「おう、任せろ」

ソータたちは先に出発した。

「わぁ思っていたより酷いな」

リヒが呟く。

「この辺りはまだ無事な方です。ね、キメル」

「あぁ、そうだ。間もなく教会が見える」

「あのさ、エンジ君」

リヒが先程からちらちらとエンジを見ていた。エンジもそれに気がついているようだったのでソータは黙っていた。

「なんですか?」

「聖騎士団のこと、嫌いにならないでね」

「いやいや、嫌いになんかなりませんよ」

「だって騎士団のみんなは僕たちより遥かに汚い仕事をさせられてるわけだし」

「まぁゴロツキの延長みたいな連中ですしね。それに俺はもう騎士ではないですから」

「そうか、アオナのリーダーになるんだもんね」

「いや、それもまだ分からないですが…」

「リヒ兄様、いつもこうならいいのに」

ソータが思わず呟くと、リヒが不満げにええ!と声を上げる。

「僕だってそれなりに大人だもん、ちゃんと出来るんだからね!」

「…普段からは想像つかないのです」

ソータはぴしゃりとはねのけた。ふと向こうを見ると教会の屋根が見える。遠回りになるが、ぐるりと土地の抉れていない部分から、回っていくことになりそうだ。

「ソータに怒られた」

リヒがしょぼんとしているがキメルに頭を鼻先で突かれ、それどころじゃないと悟ったようだった。

「僕みたいなイケメンがいれば場も和むよね!」

「兄様、全然分かってないのです」

ソータは頭を抱えたが、ここで立ち止まっていてもしょうがない。一行は先を急いだ。

教会の隣にあるのが小中高一貫の学校である。そこは、かなり広い面積を誇る。優秀な生徒だけが通える特別な学校だ。ここに通うために子どもたちは幼い頃から勉強や遊びに励む。

「学校…」

ソータは学校に通ったことはない。幼い頃から礼拝堂で祈っていただけだ。文字の読み書きや簡単な計算は出来たが、それくらいである。

「ソータは学校に通いたいんだね」

リヒの言う通りで、ソータは頷いていた。

「楽しそうなのです」

「友達も沢山出来るしね!」

リヒは人懐こい性格だ。人付き合いにはまず困っていないだろう。

「エンジ様は学校の思い出ってありますか?」

「あぁ、俺は士官学校に通っていたから主に体力育成だった。楽しかったなぁ」

エンジの逞しさはそこから来ているのだと改めて思い知らされる。教会はもう目の前だ。
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