引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

文字の大きさ
68 / 92

68

しおりを挟む
夜、月明りが照らす中、ソータは塔の前で跪いていた。手を組み祈っているのだ。
キメルが他の者がむやみに近寄らないよう目を光らせてくれている。この塔全てを聖域とするためにソータは祈っている。リーナ姫の所在は確認した。あとは彼女の安全を確保する。今の急務はそれだ。彼女の意識が何故ないのかは不明だが、自発呼吸は確認できた。恐らくだが深く眠っているのだろう。ソータは祈り続けた。三時間は経過しただろうか、ソータはそこにばたりと倒れた。キメルが駆け寄る。

「ソータ、大丈夫か?」

「あはは、もうちょっとなのに」

ソータは起き上がりながら笑っているが、どう見ても満身創痍だ。
だがキメルがここで止めるわけにはいかない。
聖女という職は人を守るためにある。人のために自らの命を捧げる。それが聖女の役割だ。

「お願い、リーナ姫様を守って」

ソータが再び祈り始める。キメルはそれを静かに見守った。いや、それしかできなかった。

キラキラとソータから光が溢れ出す。浄化が完了したようだ。これでフォッシルの塔は完全に聖域となった。神々が集まってくればまた違ってくるだろう。

「ソータ、もう寝ろ」

目を擦っているソータにキメルは背に乗れと合図した。ソータも身軽に飛び乗る。皆のいる野営地に向かい、キメルは火の傍にうずくまった。
この辺りは夜冷え込む。皆寒そうだったが、疲労が溜まっていたせいかあっさり眠りに就いた。

「温感の魔法で」

ソータはこの辺り一帯に結界を張り、暖かくなる魔法を掛けた。

「ソータ、おやすみ」

「キメルはここで火の番をするつもり?」

「俺は体力があるからな」

「うん、知ってる」

ありがとう、とソータはキメルに抱き着き、火から少し離れた場所に丸くなるように寝転がった。

「キメル、おやすみ」

「あぁ」

ソータはすぐに寝入った。疲れていたからだろう。他の者も眠っている。キメルも辺りに気を配りながら目を閉じた。

数時間ほどが経過しただろうか。キメルは目を開けて辺りを見渡した。変わらず皆眠っている。火もついているので獣も寄ってきている気配もない。ホッとしたのも束の間、ざわざわと胸騒ぎを感じた。なんだろう、と思う間もなくそれは消える。キメルは立ち上がった。エンジを前足で叩いて起こす。彼なら間違いなく安心だ。エンジはすぐ目を覚ました。

「ん?どうした?」

「ちょっと周りを見てくる。ソータを頼む」

「あぁ、すぐ戻ってこいよ」

「俺を誰だと思っている?」

「はいはい、キメル様」

エンジに見送られ、キメルは走り出した。ふと、先程の違和感に足を止める。空間が消えてきているのだ。ソータに報せなければと思った。

「……」

キメルは人型になり振り返った。

「お前だな?さっきから俺を見ているやつは」

そこにいたのはリーナ姫だ。

「ふふ、面白い人」

「何が狙いだ?」

「あなたの角、いいわよね」

自分の魔力の源は角だ。キメルは咄嗟にナイフを構えた、がもう遅い。屈強な男たちに羽交い締めにされていた。

「ぐ、離せ!」

「暴れるな!」

「お前たち、乱暴はよしなさい。私のキメル様よ」

リーナが妖艶に笑う。

「私とキメル様の結婚式をしましょうか。私と苦楽を共にしましょう」

「ふざけるな」

ぎり、と腕を捩じ上げられ、キメルは苦しさに喘いだ。ソータの笑顔を思い出す。

「では行きましょう、月へ」

キメルは残りの力を振り絞り痕跡を残した。きっとソータなら気が付いてくれる。そう信じて。

✢✢✢

「きめる…」

ソータはハッとなった。慌てて起き上がる。キメルの姿がないことに更に慌てた。

「ソータ、起きたのか?まだ寝てても…」

「エンジ様、キメルは?」

「キメルなら少し前に周りを見てくるって…」

「私も見てきます」

「ソータ、大丈夫だよ。キメルは強いし」

「でも…!」

ソータはぎゅっと両拳をぐっと握った。喉がひりついている。心細い気持ちだった。何故だか涙がこぼれてくる。

「ソータ、どうしたんだ?」

泣き出したソータにエンジが近付いてきてそばに屈んだ。親指で涙を拭ってくれる。

「あぁ!エンジ兄ちゃんがソータ泣かせてる!!」

ロニが起き上がりながら言う。その声に皆も目を覚ました。

「あれ、ソーちゃん?どしたの?」

「ソータさん、何かあった?」

「ソータナレア様…」

エンジが立ち上がる。

「ロニ、ソータと周りを見てきてくれ」

「え!いいの?」

エンジが咳払いをする。

「デートじゃない」

「やだなぁ、分かってるよ。それくらい。行こ、ソータ」

いつの間にかソータはロニに手を握られている。

「はい」

二人は走り出した。

「デートじゃないっつってんのに、分かってるのか?」

エンジが呆れたように息を吐くとシオウが笑う。

「ロニさんも男の子なんだね」

やれやれ、とエンジは肩をすくめた。

✢✢✢

「…ロニ」

ソータが彼の名前を呼ぶと、どうしたの?と目線で問われる。

「これ、見て」

「これ?」

ソータは杖で地面を一度突いた。キラキラと銀色に輝く粉が落ちている。

「これ、何?」

「キメルの魔力」

「え?」

ソータは震えてしまった。まさか、と思ったがこれはそういうことである。

「キメルになにかあったんだ」

「何かって?」

ソータはその場に蹲った。なんでキメルを一人にしてしまったのだろうと今更ながら後悔した。

「ソータ、落ち着いて。キメルを連れ去った人がいるってこと?」

「分からない。でも、キメルは自分に何かあったら痕跡を残すようにしてくれるって」

その解は必然的にキメルが誘拐されたことを指す。ソータはフラフラしながら立ち上がった。キメルを探さなければ。リーナ姫のこともなんとかしなければならない。

「ソータ、あれ見て!」

ロニが指をさす。空間が消えかけている。まずいとソータは焦った。それはこの次元が意図的に作られたものだということを意味している。

「皆に知らせなきゃ、行こう、ロニ!」

ソータたちは来た道を引き返した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる

腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。 荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま! 聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。 イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか? ※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています ※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...