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ソータとキメルは、聖域から続く山に登っている。この辺りまで来るのは久しぶりだったが、感覚が覚えていた。幼い頃はよくこの辺りまで遊びに来て、暗い中帰り道が分からなくなり、キメルに迎えに来てもらっていた。他の神々も時折来てくれた。そう思うと、自分は愛されていたのだ。とても。ソータはそれを思い出し、ほっこりとした気持ちになった。旅に出ていなければそんなことにも気付けなかっただろう。自分は聖女だが、愛というものを知らな過ぎた。
「あ、あった!」
トポトポと傍で水が湧き出す音がしている。ソータはその元へ駆け寄った。キメルも後ろからやってくる。ソータが手を差し出すと冷たい澄んだ水が流れて行く。ソータは手で掬い、それを飲んだ。
「ん、美味しい」
「ソータ。それ、普通の人間がやったら当たるやつだぞ」
「大丈夫、私は慣れてるし」
「お前は見た目に反して頑丈だな」
「ふふ。キメルには負けないよ」
キメルが背中に背負っていた荷物の中から、小瓶を数本取り出す。
「お水を少し分けてくださいね」
ソータは跪き、手を組んで祈った。キラキラと水が輝きを増す。
「あぎゃ」
「あ、ドラゴ起きたの?」
ドラゴが短い足をバタバタさせている。ソータがドラゴを地面に下ろすと、ぴょいと思い切り跳び上がりそのままどしん、と頭から落下した。ドラゴの瞳に大粒の涙が溜まる。今にも泣き出しそうだ。
「ドラゴ!!大丈夫?」
「ぎゅあ…」
ソータはドラゴを抱きかかえて優しく頭を撫でた。ドラゴもソータにひし、と抱き着いてくる。
「あ?チビは水が飲みたいのか?」
「あぎゃ」
キメルの言葉にドラゴが頷いた。どうやら自分の力で飲んでみたかったらしい。
「ドラゴはまだ小さいんだから私たちに頼って良いんだよ?」
「ぎゅう…」
「なるほど、チビはソータの前で格好つけたかったのか」
「あぎゃ!」
ドラゴが自分の小さな手で顔を覆う。どうやら図星だったらしい。照れているドラゴが可愛らしい。
「はっ、小さい割に腹が据わってるじゃねえか」
「ぎゅう」
「ドラゴ、喉が乾いてるんでしょう?生水は危ないから飲まないほうがいいよ」
「ぎゅあ?」
ソータは瓶いっぱいに水を貯めた。近くの枯れ枝を集める。
「キメル、いつもの荷物を持っていてくれてありがとう」
「まあ念の為にな」
ソータはキメルの荷物から鉄の鍋を取り出した。
それに水を移し、火をマッチで付ける。鍋をその上に置いた。
「スープにしてあげる。それなりに美味しいよ」
「ぎゅ」
キメルの持つ荷物はサバイバルに必要な物が全て揃っている。ソータはスパイスを水の中に投入した。それだけでいい匂いがする。
「ぎゅあ!!」
「確かこの辺りに」
ソータは傍に生えていたネギのような植物を引き抜いた。それをナイフで細かく切ってスープに入れていく。ソータは料理にスプーンなどを使ったことがなかった。だが、エンジに便利だからとスプーンとフォークのセットを買ってもらったのだ。ソータはスプーンを使い、スープの味を見た。
「ん、美味しい。ドラゴ、ゆっくり飲もうね」
「ぎゅあ!ソータ!」
「ドラゴ?今喋った?」
「真龍族の知能は高いからな。ドラゴは真龍の割に特別チビだし、まあ気長にいかないとな」
ソータはドラゴを抱き上げた。
「チビなのは私もだよ。ドラゴは優しい子だもの。すごく立派な真龍になるよ」
「ぎゅあ!」
スープを皆で分け合って飲む。
「あぐあぐ」
「美味しい?」
「あぁ、美味いな」
ソータも鍋からスープを飲んだ。
ピリッとしてなかなか美味い。スパイスの加減で全然違った味になる。
スープで喉を潤して、ソータとキメルは坂道を歩いた。ドラゴは鼻歌を歌っている。
この先に高所にしか咲かない花がある。沢山生えているのでそこで少し分けてもらうつもりだ。
「ここも随分久しぶりに来たな」
「うん、私の修行前以来かな」
ソータは4歳頃には聖女になるための修行を本格的に始めた。そのため、自由に遊ぶことが叶わなくなったのである。神々らは少し厳しすぎやしないかと前聖女に訴えたが、彼女はにこやかに微笑みながら「期待しているからこそです」と答えたらしい。もしかしたら自分の死期を悟っていたのでは?とソータは密かに思っている。ソータが一人前の聖女として試練を受けたのは、10歳の時だった。体も他の同年代の者に比べ、遥かに小さく周りから心配する声ももちろんあったが、前聖女は、大丈夫だとソータに太鼓判を押してくれた。
ソータも緊張こそしたが、普段通りに魔力を発揮し、一人前として認められたのである。前聖女はそのすぐ後亡くなった。
「婆さん、意外とあっさりだったよな」
キメルが言う。前聖女のことだろう。
「はい。優しく厳しいお方でした。今でも叱られる夢を見るのです」
「ソータは良い子だから手がかからなくていいって婆さん言ってたぜ?」
「それは本当ですか?」
ソータは驚いてしまった。褒められたことなど数えるほどしかなかったからだ。
「きっと、婆さんなりに幸せだったんだろうさ。おっと」
キメルが足元に生えていた小さな花を踏まないように避けた。やはり、キメルは優しい。
「わああ」
ソータが顔を上げると花たちが咲き誇っていた。
「あ、あった!」
トポトポと傍で水が湧き出す音がしている。ソータはその元へ駆け寄った。キメルも後ろからやってくる。ソータが手を差し出すと冷たい澄んだ水が流れて行く。ソータは手で掬い、それを飲んだ。
「ん、美味しい」
「ソータ。それ、普通の人間がやったら当たるやつだぞ」
「大丈夫、私は慣れてるし」
「お前は見た目に反して頑丈だな」
「ふふ。キメルには負けないよ」
キメルが背中に背負っていた荷物の中から、小瓶を数本取り出す。
「お水を少し分けてくださいね」
ソータは跪き、手を組んで祈った。キラキラと水が輝きを増す。
「あぎゃ」
「あ、ドラゴ起きたの?」
ドラゴが短い足をバタバタさせている。ソータがドラゴを地面に下ろすと、ぴょいと思い切り跳び上がりそのままどしん、と頭から落下した。ドラゴの瞳に大粒の涙が溜まる。今にも泣き出しそうだ。
「ドラゴ!!大丈夫?」
「ぎゅあ…」
ソータはドラゴを抱きかかえて優しく頭を撫でた。ドラゴもソータにひし、と抱き着いてくる。
「あ?チビは水が飲みたいのか?」
「あぎゃ」
キメルの言葉にドラゴが頷いた。どうやら自分の力で飲んでみたかったらしい。
「ドラゴはまだ小さいんだから私たちに頼って良いんだよ?」
「ぎゅう…」
「なるほど、チビはソータの前で格好つけたかったのか」
「あぎゃ!」
ドラゴが自分の小さな手で顔を覆う。どうやら図星だったらしい。照れているドラゴが可愛らしい。
「はっ、小さい割に腹が据わってるじゃねえか」
「ぎゅう」
「ドラゴ、喉が乾いてるんでしょう?生水は危ないから飲まないほうがいいよ」
「ぎゅあ?」
ソータは瓶いっぱいに水を貯めた。近くの枯れ枝を集める。
「キメル、いつもの荷物を持っていてくれてありがとう」
「まあ念の為にな」
ソータはキメルの荷物から鉄の鍋を取り出した。
それに水を移し、火をマッチで付ける。鍋をその上に置いた。
「スープにしてあげる。それなりに美味しいよ」
「ぎゅ」
キメルの持つ荷物はサバイバルに必要な物が全て揃っている。ソータはスパイスを水の中に投入した。それだけでいい匂いがする。
「ぎゅあ!!」
「確かこの辺りに」
ソータは傍に生えていたネギのような植物を引き抜いた。それをナイフで細かく切ってスープに入れていく。ソータは料理にスプーンなどを使ったことがなかった。だが、エンジに便利だからとスプーンとフォークのセットを買ってもらったのだ。ソータはスプーンを使い、スープの味を見た。
「ん、美味しい。ドラゴ、ゆっくり飲もうね」
「ぎゅあ!ソータ!」
「ドラゴ?今喋った?」
「真龍族の知能は高いからな。ドラゴは真龍の割に特別チビだし、まあ気長にいかないとな」
ソータはドラゴを抱き上げた。
「チビなのは私もだよ。ドラゴは優しい子だもの。すごく立派な真龍になるよ」
「ぎゅあ!」
スープを皆で分け合って飲む。
「あぐあぐ」
「美味しい?」
「あぁ、美味いな」
ソータも鍋からスープを飲んだ。
ピリッとしてなかなか美味い。スパイスの加減で全然違った味になる。
スープで喉を潤して、ソータとキメルは坂道を歩いた。ドラゴは鼻歌を歌っている。
この先に高所にしか咲かない花がある。沢山生えているのでそこで少し分けてもらうつもりだ。
「ここも随分久しぶりに来たな」
「うん、私の修行前以来かな」
ソータは4歳頃には聖女になるための修行を本格的に始めた。そのため、自由に遊ぶことが叶わなくなったのである。神々らは少し厳しすぎやしないかと前聖女に訴えたが、彼女はにこやかに微笑みながら「期待しているからこそです」と答えたらしい。もしかしたら自分の死期を悟っていたのでは?とソータは密かに思っている。ソータが一人前の聖女として試練を受けたのは、10歳の時だった。体も他の同年代の者に比べ、遥かに小さく周りから心配する声ももちろんあったが、前聖女は、大丈夫だとソータに太鼓判を押してくれた。
ソータも緊張こそしたが、普段通りに魔力を発揮し、一人前として認められたのである。前聖女はそのすぐ後亡くなった。
「婆さん、意外とあっさりだったよな」
キメルが言う。前聖女のことだろう。
「はい。優しく厳しいお方でした。今でも叱られる夢を見るのです」
「ソータは良い子だから手がかからなくていいって婆さん言ってたぜ?」
「それは本当ですか?」
ソータは驚いてしまった。褒められたことなど数えるほどしかなかったからだ。
「きっと、婆さんなりに幸せだったんだろうさ。おっと」
キメルが足元に生えていた小さな花を踏まないように避けた。やはり、キメルは優しい。
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