引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

文字の大きさ
89 / 92

89

しおりを挟む
中央都市には随分人が戻ってきている。元々あった自分の店に戻り再開する者も多い。段々と賑わいが戻り、元の中央都市に戻ることをシヴァは密かに祈っている。今は社会の流れも彼が制御している。だがそろそろ人間にやらせなければ良くないというのも確かだ。上手く事が転がるようにと、ここまで何度祈ったか。神の彼ですら疲弊してしまっている。

「もう、アタシは聖女じゃないんだけどね」

可愛らしい聖女を思い出してシヴァは一人呟いた。

「シヴァ様」

「あら、パペ。メンテ?」

「はい、行って参ります」

「行ってらっしゃい」

パペはふっと姿を消した。そこに誰かが走ってやって来る。ロニだ。

「シヴァ様!パペは?」

「あの子なら今いないわよ」

「え?」

「ロニ、早くしないと学校遅れるわよ」

ロニが所在なさげに視線を彷徨わせている。

「病気?」

どうやら彼はパペの心配をしているようだとシヴァは悟った。

「あの子なら大丈夫よ。ロニの方があの子のことよく知ってるじゃない」

「う…そうなのかな?」

シヴァ様には敵わないんじゃ…とロニがいじいじしている。

「あのね、ロニ。友達を信じるのも友達なの。あんたとパペはすごく仲良しじゃない」

「うん、仲良しだよ。パペは最近笑ってくれるし」

「なら信じてあげて頂戴」

「うん!分かった!行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

ロニは再び走って神殿を出て行った。

「シヴァ様!」

ロニが出ていってから半刻も経たない内にソータとキメルがやって来た。

「あら、揉め事が丸く収まったようね」

「はい、何とかなりました。あの、パペは?」

「あの子は出掛けてるの」

「え?何かのクエストですか?」

「そうね、そのようなものかしら」

シヴァは一瞬躊躇った。ソータとキメルが不思議そうにしている。

「シヴァ、小僧はいつ戻る?」

「分からないわ」

「…そうか」

「キメル、私たちも学校に行こう。ロニが寂しがってそう」

「仕方ない、行ってやるか」

「ではシヴァ様!パペが戻ったら知らせてくださいね!行って参ります」

「え、えぇ。行ってらっしゃい」

シヴァはどうしようか考えた。パペについてだ。

「あの子のこと、皆に話すべきかしら」

✢✢✢

「あ、ソータ」

昼休み、ソータとキメルはロニのクラスに向かった。もとから精鋭を育てるための学校だ。ここに通う子どもたちは実力者が多い。ロニはそれに揉まれているお陰か、随分力が付いてきている。ソータはロニの傍に駆け寄った。

「ロニ、元気ないね?どうしたの?」

「シヴァ様が何か隠している気がする」

ソータは首を傾げた。一つ思い当たることがある。

「もしかして、パペのこと?」

「うん。パペが急に出掛けるなんて今までなかったから」

「クエストに行っているんじゃ?」

「いつ帰ってくるか分からないレベルのクエストに一人で行くか?」

キメルの指摘にソータも確かにと思った。
シヴァの様子が変だったのもまた事実だ。

「ねえ、ソータ。あの神殿に地下があるって知ってる?」

「え?知らなかった」

「フレン兄ちゃんとリヒ様が話していたんだ。シヴァ様が時々地下に下りているみたいで、もしかしたらパペのこととなにか関係があるのかなって」

「でもまだ推測なんでしょう?」

「うん。でもシヴァ様が何かを隠しているのは間違いないよ」

シヴァが自分たちに隠し事をするだろうか、とソータは考えた。有り得なくもないが、だとしてもなにか理由があってのことだろう。

「俺作った」

「なにを?」

ソータが尋ね返すとロニが銀色の鍵を取り出す。

「地下の鍵」

「え…でも地下にどこから降りればいいかも分からないのに」

「俺知ってる」

どうやらロニは入念に調べていたらしい。

「お前、勉強もそれくらいやれよ」

キメルにそう指摘されてロニは顔を赤くした。

「だ、だってさ、気になるじゃん。友達のことだもん」

「知らないほうが良かったって思うかもしれないんだぞ」

キメルにはっきり言われてロニは顔を俯けた。だがすぐに顔を上げる。

「…俺、パペのこともっと知りたい。どんなことでも受け入れるつもり!!」

「小僧…一丁前に言うようになったな」

キメルの言葉にロニはあわあわし出す。

「や、やっぱりやめとくべき?でもなぁ」

ソータは彼の様子に笑った。

「ロニってば。シヴァ様にちゃんと許可をもらって行ってみようよ」

「ソータ…そうだね!」

学校が終わったら地下に行ってみようとロニと待ち合わせをした。

「ソータ、次空き時間じゃねえのか?」

「次の授業の資料だけ作ろうと思って」

職員室に向かうと、サラがテストの採点をしている。

「お、ソータ。お疲れ」

「お疲れ様なのです、サラ先生。前回のテストですか?」

「おぅ。次のテストは実技も併せようかと思っていて、また手伝ってくれないか?」

「もちろんなのです!」

ソータは授業のための資料を作り出した。シヴァが中央都市の復興のため取り入れた最新魔法技術がここで役に立つ。長方形のパネルモニターで文字を打ち込んだり、資料を取り込むことができる優れものだ。そして子どもたちとこの情報を共有できる。キメルは小さくなって傍に控えていた。

「キメル、つまらなくない?」

「いや、ここ暖かいからな」

どうやらキメルは眠いらしい。ここのところ暫く動きっぱなしだったからだろう。

「キメル、休んでて」

「そうさせてもらう」

キメルが目を閉じるのを確認して、ソータは資料作りを再開した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる

腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。 荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま! 聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。 イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか? ※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています ※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...