僕と君を絆ぐもの

はやしかわともえ

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一話

サンタクロースの記憶

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次の日の放課後、僕は図書室に一人でいた。
放課後に来る生徒もいるけれど、今日はたまたま誰もいないようだ。今日はそのほうが都合がいい。


僕に残る仕事はあと一つ。ゆえるくんの本のことだ。
頼まれた本のことがわかりそうだから、放課後に図書室に来てほしいと紫先生に伝言を頼んでおいた。

(これだ)

この間、机の脇にどけておいた本を僕は持った。
表紙にはサンタクロースがソリに乗っている可愛らしいイラストが描かれている。

それは、ゆえるくんが言っていた本の内容と一致する。
やっぱり本に意思があるのかな。それとも本当に偶然?
怖いのは間違いない。少し背筋がひんやりする。世界の絶妙なバランスを感じざるを得ない。それは、僕に対する課題だ。

(どうして僕なんだ。仕方ないけれど)


そんなことを思いながら、本に集中した瞬間、映像が頭の中を駆け巡る。
それはいろいろな人の記憶だった、
みんな、この本にどれだけ癒やされて救われたか。本の持つ力は計り知れない。

物語を作るのはみんな普通の人間なのに、なにか神がかったものすら感じる。
その神聖な感じが不思議だなぁと僕は毎回思う。
本を読む時、きらきらした宝石のようなものが、心の中から溢れてくるような気持ちになる。
誰でもはじめから持っている宝石。絶対になくならないものだ。
それに気が付いてから、僕はこの仕事に就いてよかった、と思えるようになった。
改めて意識を集中する。

僕はその記憶の流れをなんとか束ねた。
ゆえるくんの記憶をその中から探す。
しばらくして、僕はそれを見つけた。
幼いゆえるくんとゆえるくんのおばあさんの記憶。
やっぱりこの本だった。
見つけられたのは必然だった。
それはもう決まっていたことだったんだろう。

「加那先生?」

ひょこっと図書室に現れたのはゆえるくんだった。
航太くんも一緒にいる。

「ゆえるくん、君が探していた本はこれかな?」

僕が本を差し出すとゆえるくんは受け取って本を開いた。
ページを捲り終えてゆえるくんが目元を拭う。

「そう、これだよ。やっぱり、加那先生に聞いてよかった!」

「なんであんたはこれだって分かったんだ?本なんて数え切れないくらいある」

航太くんが腕を組んだままむっつり言う。
確かにそのとおりだ。
僕は笑った。

「たまたまこれかなって思ってね。
偶然だよ」

「加那先生、本当にありがとう!
これ、借りてもいいですか?」

「もちろん。たくさん読んでほしいな」

「うん!」

航太くんは僕をしばらく睨んで目をそらした。 
普通の反応だと思う。
この力のことは二人にはまだ話さないほうがいい。
僕はそんな気がしていた。

「ねえ、加那先生、他にオススメの本ありますか?」

「んー、そうだねー」

そんなことをゆえるくんと話していたら、他にも生徒がやってき始めた。
不思議だなぁ。
このささやかな力は僕にどうしてほしいんだろう。

今はまだよくわからない。


二話へつづく。
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