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六話・ナポリタンスパゲッティ試作会(ホテルに出店?)

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1・今日からナポリタンスパゲッティを5食限定で出すことになっている。何故5食なのか、理由を挙げるとこうだ。麺を小麦粉から打つので、他の料理と並行しながら量を沢山作るのが大変、更に食材の供給が安定しないからだという。麺ならいくらでも作れるとお姉ちゃんは言っていたけど。そうゆうとこ、さすがだな。ウインディルムはなんでも自分で作らなくちゃいけない。でもお姉ちゃんはそれが楽しいらしい。なによりだ。

「あの、ナポリタンスパゲッティってまだありますか?」

戸惑いながら聞いてきた男性のお客様にあたしは笑いかけた。

「お客様で最後ですよ」

お姉ちゃんにオーダーを通して、あたしは出来ていたパンケーキに生クリームをたっぷり絞って運んだ。エミリオも水を注いで席を回ったり、外からのお客様を誘導している。ケインくんは絶賛洗い物中だ。
ナポリタンスパゲッティは開店後、すぐ売り切れてしまったから食べられなくてがっかりするお客様もかなりいた。
まだトマトや他の野菜たちがしっかり準備出来てないし、今は仕方ない。丁寧にお詫びしておいた。次こそは提供出来たらいいな。

「ありがとうございました!またのご来店お待ちしています!」

さーて、今日も片付けたらおしまいだ。
あたしはふきんでケインくんが洗った食器を拭き始めた。
 
「あの、サリアさん」

ケインくんが見上げてくる。

「今日、一緒に病院に来てくれませんか?」

ケインくんのお父様は今、入院している。
すぐ退院出来るのかと思っていたら、思っていたよりダメージが深かったらしい。やっぱりエミリオ強いなあ。この際、しっかり治そうということで、入院が長引いたのだ。

「うん、あたしなら大丈夫」

「わ、ありがとうございます!」

ケインくんが顔を綻ばせてくる。可愛い。
よし、食器の片付けも完了。あとは店内のお掃除をしよう。あたしは台拭きを手に店内に戻った。エミリオがモップで床を綺麗に拭いてくれている。

「サリアちゃん、ケインくんと病院行くの?」

「うん」

「これなんだけど」

エミリオが差し出してきたのは高級菓子折が入った紙の手提げ袋だった。

「ケインくんのお父さんに渡してくれる?」

「いいけど、自分で渡さなくていいの?」

「うーん、今回の入院が長引いたのは俺の攻撃のせいもあったわけだし…」

「でもああしてなかったらあたしたち、きっと全滅してたわよ?」

「そうだけど、うーん」

「まあいいや。渡しておくね」

「お願いします」

あたしは着替えてケインくんと病院に向かった。病院までは水上バスに乗る。こうして車に乗ったのも久しぶりだな。あれ?水上バスは車かな?それとも船?良く分からない。
それと、あたしの普段の行動範囲が狭すぎる。ウインディルムに来てからますますだ。クエストで思い切り走るのがなにより楽しい。
病院の最寄り駅に降りてしばらく歩くと大きな建物が見えてきた。ここが病院だ。ホテルにしか見えないけど。ケインくんと中に入って受付で面接許可をもらう。お父様は五階に入院しているそうだ。エレベーターに乗って向かう。

「ここです」

ケインくんが一つの部屋を示した。四人部屋か。ケインくんがカーテンを捲って話しかけている。

「サリアさん、中に」

あたしはカーテンを捲って中に入った。お父様、随分顔色が良くなったな。

「あの、これ、エミリオからです」

あたしは菓子折りを渡した。

「彼にありがとうと伝えておいて欲しい」

「はい、もちろんです」

「サリアさん、君は石を持っているね?」

「へ?!」

石と言われたらもうあれしかない。あたしはポケットからエミリオにもらった石を取り出した。もしかして持っていちゃいけない石だったのかな?

「やっぱり…姫のものだ」

「姫?」

あたしが尋ね返すと、お父様が頷く。

「君は紛れもなく元ラディア王国の王女だったんだ。そしてアリアさんも。この石を見てご覧。君が持つとわずかに輝く」

本当にその通りだ、そんなこと気にも留めなかった。

「私はもともと考古学を専攻していてね、過去のラディアについて探っていた。そしたら奇妙なやつに襲われてね」

お父様の話によれば、その際に宝を盗まれてしまったのだという。宝ってなんだろう?宝石かお金とかかな?

「あの、その宝って…」

「我々竜人の家系図だよ。竜人は血筋をなによりも大事にするからね。強靭な竜人は他の種族の助力になり得る。竜人はみな強くあらなきゃいけない」

厳しいんだな。これがしきたりってやつ?

「エミリオくんが家系図を取り返してくれるのを期待しているよ」

お父様に笑って言われた。でもそんな変なやつら相手に戦えるかも分からない。エミリオは探るって言っていたけど大丈夫かな?あたしたちは少し話して病室を後にした。

「サリアさん、ごめんなさい」

「なんでケインくんが謝るの?」

「ウチのお父さん、他人に対して、結構、期待値高い人で」
 
うん、知ってるよ。さっきの会話でそれは十分伝わってきた。でもそれは言わない。

「エミリオなら多分簡単に取り返せるよ、きっと大丈夫。エミリオには、つてがあるみたいだし、ケインくんは気にしなくていいんだからね?」

「ありがとうございます。でも僕も力になりたいです!」

ケインくん、やっぱりいい子だなぁ!
あたしたちは再び水上バスに乗ってお店に戻った。
お姉ちゃんがなんだかバタバタしてるな。
何かあったみたいだ。  

「大変よ、サリアちゃん!」

「どうしたの?」

「今、湖社から連絡が来て、リゾートホテルがもうすぐオープンするんですって」

な、なんだって?

「そういえばリゾートホテル、作ってましたね」

ふんわりとケインくんが笑う。でもそのホテルが出来て、あたしたちとなんの関係が?

「オープン初日にウチのメニューを置いてみないかって言われたのよ!!」

「ええ?本当なの?」

リゾートと名のつくホテル、きっとお金持ちしか泊まれないんだろうな。そんなホテルにあたしたちのお店のメニューを?

「オープンはいつなの?」

「明後日よ」

はい、湖社の無茶ぶりきた。だいたいそんなことだろうと思っていたわよ。

「いきなりで大丈夫なの?」

「素材はこの間のクエストで集めたし、明後日までは大丈夫。ただ急なことだから明後日の私たちのお休みがなくなる、一度クエストにも行かないと素材が足りなくなると思うの」

お姉ちゃんが心配してるのはそこか。

「なら二手に分かれましょう。明後日、あたしはエミリオと素材集めに行くわ」

「サリアちゃん…」

お姉ちゃん、迷ってるな。

「二人共、どうしたの?」

エミリオがやって来る。あたしは彼にはじめから説明した。

「湖社は今うなぎ登りだもんなぁ。そんな会社のホテルに出店出来るなんてなかなかないと思うし、アリアちゃんの気持ち次第だよ」

「エミリオくん…」

「僕、アリアさんのことお手伝いします!」

ケインくんがきっぱり言う。お姉ちゃんはそれで心に決めたようだ。

「ありがとう、みんな。やってみましょう」

そうそう、とお姉ちゃんがキッチンに向かった。そういえばものすごくお腹が空いている。

「ナポリタンをまた試しに作ってみたの。みんな、食べてみて」

それは嬉しい。お姉ちゃんが言うには、限りなく元のレシピに近付けたものらしい。まだ納得してなかったんだ。すごいな。
熱々のナポリタンスパゲティを口に運ぶと、トマトの味が広がった。

「美味しいよ、お姉ちゃん!」

「うん、このソーセージも美味しい」

「手間が掛かってるだけありますね」

お姉ちゃんがため息を吐く。どうしたんだろう?

「マスターに電話したら言われたのよ。最終的にはオリジナリティが大事だって」

き、厳しいな。

「これからしばらく味の調整をするわ。味見、みんなも付き合って頂戴」

もちろんそれは大歓迎だ。食べ終わって片付けをした。お姉ちゃんが日誌を書いている。帳簿も付けているらしい。あたしはそっと近寄った。お姉ちゃんにお茶の入ったマグカップを差し出す。

「お姉ちゃん、お茶を淹れたわ」

「ありがとう、サリアちゃん」

今日、病院でケインくんのお父様に言われたことを話すと、お姉ちゃんはびっくりしていた。石を見せる。お姉ちゃんが持っても確かに輝いている。

「不思議なこともあるものね。家系図かぁ。うーん」

お姉ちゃんも考えている。普通そうなるよね。お姉ちゃんが口を開いた。

「龍の研究をしている機関は、確かにいくつかあるのよね」

「え?そうなの?」

お姉ちゃんの言葉にあたしは驚いた。それって竜人さんとかに実験みたいなことをするのかな?なんだか怖いかも。

「龍の生態系はまだ謎が多いのよ。竜人さんとも深い関わりがあったりするし」

「龍化ってこの前ケインくんが言ってたよ」

お姉ちゃんが頷く。

「それも含めて、まだ分からないことが多いの。だから家系図はある意味龍についてのヒントにはなるわね」

そうだったんだ。でも奪い取るようなことしなくていいのに。

「竜人さんたちにとって、強さは絶対的なものなのよ。誇りって言ったら語弊があるけれど」

ケインくんのお父様もそんなこと言っていたなぁ。

「どうやっても強くなきゃいけないの?」

お姉ちゃんがあたしの頭を撫でる。

「サリアちゃんは十分強いわよ」

目が涙で霞んできた。なんか少し疲れちゃったな。お姉ちゃんがあたしを抱きしめる。

「サリアちゃん、大変な思いをさせてごめんね」

お姉ちゃん、いい匂い。

「あたし、このお店が大好きになってきてるの」

そう言ったらお姉ちゃんがありがとうと笑ってくれた。そうだ、あたしはこのお店に愛着を持ち始めている。大事なお店なんだ。

「そろそろ寝るね」

「おやすみなさい」

「お姉ちゃん、おやすみなさい」

あたしは自室に戻った。色々あってまだ片付けが完全に終わっていない部屋で、寝るのがやっとだったりする。お気に入りのクマのぬいぐるみを抱き寄せてあたしは目を閉じた。

2・「サリアちゃん、次は何を探すの?」

「トリュフよ」

あたしたちはフィールドを走りながら会話をしている。今日、「喫茶モンスター」はリゾートホテルに出店している。上手くいくといいなぁ。お姉ちゃんとケインくんのことだ。きっと大丈夫。

「え、トリュフって豚が探すやつ?」

「そうよ。お姉ちゃん、欲しがってたしクエストの制限時間もまだあるから」

「そんなに簡単に見付けられるの?」

ふふ、エミリオは知らないみたいね。

「トリュフのそばに豚がいるみたいなの。その子たちの力を借りましょう」

「なるほど」

あたしたちは山道をひたすら登った。ふと拓けた場所に出る。そこには小屋が建っていた。ボロボロで今にも崩れそうだけど大丈夫かな?
あたしは建物に近付いた。トリュフのことを聞いてみよう。地元の人なら、なにか知っているはずだ。

「すみませーん」

「はいはい」

中から出てきたのは幼女だった。え、幼女だよね?

「おやおやかんわいらしいお嬢さんでねえの」

え?幼女さんの方が可愛いですけど、とは固まっていて言えなかった。

「あ。あの、あたしたちトリュフを探してまして」

「ほう、ならワシの出番のようじゃ!」

ぐっと幼女さんが腕を振り上げる。出てきたのは小さな豚さんたちだった。か、可愛い。

「お代を頂くがよいかの?」

「あ、もちろんです」

トリュフは高級食材だし、お姉ちゃんからお金は預かってきている。

「では先に2万ダラー頂くぞい」

「あ、はい…え?」

あたしは驚いていた。安すぎない?あ、そうか、トリュフの代金は別なんだ。後払い形式、なるほどね。

「張り切って出発じゃ!」

幼女さんの名前はユミナさんというらしかった。彼女はドワーフさんらしい。御歳87歳…え?あたしたちがそれを聞いてびっくりしていたら、ドワーフなんてそんなもの、としたり顔で言われた。え…本当なの?
ユミナさんが特別なんじゃ…とはあたしたちは言えなかった。だってあたしたちの先頭をきって走ってるんだよ?恐るべき体力。本当に87歳なの?

「よし、この辺りじゃろ」

ずざざ、とユミナさんが足を止める。豚さんたちが鼻をくんくんし始めた。か、可愛い。

「嬢ちゃんたちは何故トリュフを?」

「はい、お店をやっていまして。喫茶モンスターっていうんですけど」

「む!知っておる!なかなか美味いらしいな?」

ユミナさんも知っていてくれたんだ、嬉しい。

「良ければ来てください」

「うむ、もちろんじゃ」

「ぶひ」

豚さんたちがトリュフを見つけたと鳴き出した。鼻をヒクヒクさせている。可愛い。

「うむ、よくやったぞ!」

ユミナさんが豚さんたちの頭を撫でる。小屋に戻ったあたしたちは採ったトリュフを計ってもらった。トリュフは少しだけ使うのがいいらしい。高級なものあるあるだな。

「うむ、きっかり80グラムじゃ」

す、と袋を渡される。ん?お代は?トリュフ80グラムの代金は?

「あ、あのユミナさん?」

「なんじゃ?」

「えーと、トリュフのお金をまだ払ってないんですが?」

「はじめにもらったじゃろ?」

えええええ!!!2万ダラーって安すぎる!!

「で…でも…」

ユミナさんがニッコリ笑った。

「ワシがこのあたりの山の土地を全て持っているのじゃ。気にせんでいい」

「あ、だったらこれを…」

あたしは念のためにとお姉ちゃんから渡されていた喫茶モンスターで使える無期限の金券1万ダラー分をユミナさんに差し出した。でもそれでも少ないんだけどね!

「む!有り難いのう!時間を空けて食べに行くからな!」

「はい、お待ちしています」

ユミナさんに見送られて、あたしたちは店に戻った。

「よかったね、サリアちゃん。これならユミナさん、店に来てくれるだろうし」

エミリオがのんびり言う。

「ユミナさんにいいものを出したい。お姉ちゃんやケインくんにも相談しましょ」

「うん、楽しみだね」

3・「ただいまー」

玄関である店の裏口から声がして、あたしはすぐさまそこに向かった。今までお風呂の掃除をしていたから捲くっていた袖を慌てて直す。

「お帰りなさい!」

「サリアちゃん、これお土産ー」

お姉ちゃんからやたら大きくて重たい荷物を預かった。ナニコレ。お土産?ケインくんも色々持っている。そうだ、今日のためにメニュー表やらなんやらを新しく作ったんだっけ。お姉ちゃんが音速で頑張ったからな。

「ケインくん、俺が持つよ」

「ありがとうございます」

エミリオがケインくんから荷物を預かって、あたしたちは居住スペースに向かった。あたしはキッチンで冷たいお茶を淹れる。二人共「やり遂げた」って顔をしてるから、きっと上手く行ったんだろう。

「で、どうだったのよ、お姉ちゃん」

一応尋ねておく。お姉ちゃんがにんまり笑った。ケインくんが困ったという顔をしている。ケインくんはちらっとお姉ちゃんを見て口を開いた。

「お客様に対して全然素材が足りなかったんです」

え、いつもの倍は素材を持ってったよね?あたしは改めてお姉ちゃんを見つめた。大丈夫だったのかな?

「結局他のお店を手伝ったの。ね、ケインくん」

「はい。でもすごく勉強になったんです。綺麗になってしかも効率性の高い食器の洗い方とか沢山教わりました!」

「そうなの。たまたまお世話になったお店がコース料理をやっているみたいでね、来てみないかって誘われちゃった」

お姉ちゃんとケインくん、流石過ぎる。二人が並ぶと絵になるもんな。お店にいるだけでお客様を引き寄せてくれそうだし、実際引き寄せてるし。

「お姉ちゃん、これ」

あたしはトリュフの入った布袋をお姉ちゃんに渡した。お姉ちゃんが袋の中身を検める。

「え…トリュフじゃない!こんなに?!お金足りたの?」

あたしはユミナさんの話をした。お店の金券を渡したことも。でもそれだけではとても足りなかったこともだ。

「そう…そのユミナさんにはちゃんとお礼を言いにいきましょうね。でもこれだけトリュフがあれば、更に楽しそうね!」

お姉ちゃん、嬉しそう。素材も沢山集めることが出来たし、頑張った甲斐があったな。

「でも、リゾートホテルって相当広いんだね。そんなにお客様が?」

「競馬場のお客様がいたから」

な、なるほど!それはすぐになくなるわけだ!

「キッチンカーの人たちも、すぐ品が売り切れたりしたみたいで」

「ウチ、ビアがないけど大丈夫だったの?」

「アイスコーヒーが沢山出ましたよ。すぐなくなりましたけど」

だろうなー。でも上手く行ったなら良かった。

「そうそう、みんなで食べましょうよ」

なにを?と思っていたら、先程やたら重量のあったお土産をお姉ちゃんが開け始める。食べ物であの重さのものってなに?
中から出てきたのはバウムクーヘンだった。
でかっ!

「お手伝いのお礼ですって。美味しそう!」

お姉ちゃんが鼻歌まじりにバウムクーヘンを切り分けている。大きいかなと思っていたけど、ぺろりと平らげたあたしなのだった。



4・数日後

「嬢ちゃん、来たぞい」

カウンターからひょっこり顔を出しているのは、紛れもなくユミナさんだった。

「ユミナさん!本当に来てくださったんですね!」

「ウム!楽しみにしていたのじゃが、雨が降ったりしていてなかなか来れんでな」

「いえ!そんなこと!」

とりあえずユミナさんをカウンター席にご案内する。ユミナさんはメニュー表を眺め始めた。ちょっとドキドキする。

「すみませーん!」

「あ、はい!」

あたしは呼ばれてそちらに向かった。お姉ちゃんにオーダーを通す。

「頼むぞい!」

ユミナさん、何を注文するんだろう。気になる!!

「お姉ちゃん、オーダー入ります」

「はーい」

あたしは改めて伝票を見ていた。これ、大丈夫かな?

「ランチセットのパンケーキ、シチュー、エッグバーグマフィン、それぞれ一つとアイスカフェオレを3つ」

お姉ちゃんがえ?っていう顔をしている。そうだよね、やっぱりそうなるよね。一人分の量じゃない。うちは全てボリューミーだから、尚更だ。

「お時間を頂くとユミナさんに伝えてもらえる?」

お姉ちゃんがす、と呼吸を変えた。あ、本気だ。
あたしは慌ててユミナさんに伝えに言ったのだった。
お姉ちゃんが調理している間に、カフェオレを作る。ウチのカフェオレは本当に美味しいから、喜んでもらいたい。

「お待たせいたしました。アイスカフェオレになります」

「ほう、これが!!」

ユミナさんがストローでカフェオレを飲み始める。いつも初めてのお客様の反応には緊張するなあ。

「うむ、美味いな!」

よかったー。ユミナさんに言ってもらうとなにより嬉しい。

「ランチセットになります」

エミリオが両手にお皿を持って現れた。あ、もう出来たんだ。さすがお姉ちゃん。あたしも慌てて料理を取りに行く。

「どうでしたか?」

厨房に戻ると、ケインくんが手を止めて聞いてくれた。

「ばっちりみたい」

「よかった」

ケインくんが笑った。あたしも同じ気持ちだ。
ユミナさんは頼んだメニューを全てペロッと平らげた。ここまでくると、もはや気持ちいいくらいだ。最後にホットコーヒーを飲んでいる。もう、素材がなくなって閉店作業を始めているから新しいお客様はいない。
お姉ちゃんがユミナさんに近付いていくのをあたしは見守っていた。楽しそうに話している。お姉ちゃんは誰とでも仲良くなれる人だ。

「サリアちゃん、おいで」

呼ばれて、あたしは二人に駆け寄った。ユミナさんが何かを差し出している。小さな茶色い瓶だ。

「アロマオイルを時々使ってるのじゃが買いすぎてしもうたんじゃ」

ユミナさん、おしゃれ。

「良ければ使っておくれ」

「わぁ、ありがとうございます!」

それからユミナさんにトリュフを使った料理が出来たらまたお知らせするとお姉ちゃんが言っていた。うーん、トリュフの美味しい食べ方かぁ。あたしには見当もつかないかも。
今日もこれで任務完遂かな?
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